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100『その日がやってきた!』
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RE.乃木坂学院高校演劇部物語
100『その日がやってきた!』
いよいよロケの日がやってきた。
ロケ現場は荒川の堤防と河川敷。
自転車を連ねて堤防に登ったら、早咲きの菜の花の中にロケバスが来ていて、ADさんやスタッフの人たちが忙しそうに動き回っていた。
梅の蕾も、まだ硬い二月の末日だけれど、まるで春の体験版のような暖かさだった。
はるかちゃんは、まだロケバスの中なんだろう、姿が見えない。
そのかわりロケバスや、撮影機材が珍しいのか、乃木坂さんがチョロチョロ。わたしたちに気づいても知らん顔。
やがて、一段下の土手道を黒塗りのセダンが登ってきた。
「あ、あの運転手さん、西田さんだわよ!」
夏鈴が手を振ると―― おお、戦友 ――って感じで、西田さんが手を振り返してくれる。
五十メートルほど手前の土手道で車が停まると、運転席から西田さん。助手席からサングラスの男の人が出てきて伸びをして、西田さんが後ろのドアを開ける。
伸びをしてサングラスをとった男の人は……ゲ、高橋誠司!?
右のドアからは、キャピキャピの女の子が出てきて、目ざとくわたし達を見つけて駆け寄ってきた。
「お早う、乃木坂演劇部!」
「あ……ども」
だれだろ……と、考えるヒマもなく、その子はロケバスの方へ。途中で気づいたように振り返って、戻ってきて挨拶した。
「NOZOMIプロの上野百合です。よろしくね!」
「上野百合って……?」
「まどかが言ってた新人さん……」
「たぶん……」
似てる……と思いながら、三人とも口にはしなかった。
「おはよう、乃木坂の諸君」
「「「あ、お早うございます」」」
上野百合に見惚れていたら、高橋誠司が、すぐそばに来ている!
「ほんとうは、姉妹揃って、うちの事務所に入れたかったんだけどね」
「え?」「じゃ?」「やっぱり!」
「お姉ちゃんの方は、アメリカに逃げられちまった」
「え?」「妹?」「アメリカ!?」
「河川敷のロケだっていうから、寒さ対策してきたんだけど、要らなかったなあ」
「はい、春の体験版です!」
「うまいこと言うねえ、さすがは個人演技賞! セーブデータは製品版でも使えますってね」
「「ハハハ」」
わたしたちを煙に巻いて後ろ手でバイバイして行ってしまった。
袖口から極暖が覗いていた。
そうして、驚くことがもう一つ。
「あ、潤香先輩!」
潤香先輩が、紀香さんに手をとられながらやってきた。
さすがに立っているのは辛そうで、折りたたみの椅子が出された。
「ありがとう和子さん」
それは、西田さんのお孫さんだった。
「お互いの、再出発の記念にしようって。お嬢の発案なんです」
「アメリカって聞きましたけど?」
夏鈴が目を輝かせる。
「はい、九時半の飛行機です」
「向こうでも、演劇部顧問やるのかなあ!」
「きっと海兵隊!」
「いえ、サキお嬢様と替わってニューヨーク支社でお勤めになられます」
勤めるどころじゃない、たぶん支社長。TAKEYONAで聞いてしまった印象はそうだ。
「あ、たぶんあの飛行機」
紀香さんが指差した空にはJALの後姿。手元のスマホを見ながらだからトレースしていたんだ。
「わたし、あなたたちに発表したいことがあるの。お姉ちゃん、ちょっと手をかして」
「大丈夫、潤香?」
「うん。この宣言は立ってやっときたいの」
潤香先輩の真剣さに、わたし達は思わず気を付けしてしまった。
「わたし、この四月から、もう一度二年生をやりなおす」
「それって……」
「出席日数が足りなくて……つまり落第」
「学校は、補講をやって、進級させてやろうって言ってくださるんだけどね、潤香ったら……」
「そんなお情けにすがんのは、趣味じゃないの」
「一学期の欠席がなければ、いけたんだけどね……」
「怒るよ、お姉ちゃん。これは、全部わたしがしでかしたことなんだからね」
「先輩……」
わたしも胸がつまってきた。
「ほらほら、まどかまで。わたし、この留年ラッキーだったと思ってんのよ。だってさ、あんたたちと、もう二年いっしょにクラブができるじゃない。いっしょにがんばろ! 今度は全国大会!」
「は、はい!!」
元気に返事して、見上げた空には、もうJALの後姿は見えなかった。
☆ 主な登場人物
仲 まどか 乃木坂学院高校一年生 演劇部
坂東はるか 真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
芹沢 潤香 乃木坂学院高校三年生 演劇部
芹沢 紀香 潤香の姉
貴崎 マリ 乃木坂学院高校 演劇部顧問
貴崎 サキ 貴崎マリの妹
大久保忠知 青山学園一年生 まどかの男友達
武藤 里沙 乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
南 夏鈴 乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
山崎先輩 乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
峰岸先輩 乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
高橋 誠司 城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
柚木先生 乃木坂学院高校 演劇部副顧問
乃木坂さん 談話室の幽霊
まどかの家族 父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
100『その日がやってきた!』
いよいよロケの日がやってきた。
ロケ現場は荒川の堤防と河川敷。
自転車を連ねて堤防に登ったら、早咲きの菜の花の中にロケバスが来ていて、ADさんやスタッフの人たちが忙しそうに動き回っていた。
梅の蕾も、まだ硬い二月の末日だけれど、まるで春の体験版のような暖かさだった。
はるかちゃんは、まだロケバスの中なんだろう、姿が見えない。
そのかわりロケバスや、撮影機材が珍しいのか、乃木坂さんがチョロチョロ。わたしたちに気づいても知らん顔。
やがて、一段下の土手道を黒塗りのセダンが登ってきた。
「あ、あの運転手さん、西田さんだわよ!」
夏鈴が手を振ると―― おお、戦友 ――って感じで、西田さんが手を振り返してくれる。
五十メートルほど手前の土手道で車が停まると、運転席から西田さん。助手席からサングラスの男の人が出てきて伸びをして、西田さんが後ろのドアを開ける。
伸びをしてサングラスをとった男の人は……ゲ、高橋誠司!?
右のドアからは、キャピキャピの女の子が出てきて、目ざとくわたし達を見つけて駆け寄ってきた。
「お早う、乃木坂演劇部!」
「あ……ども」
だれだろ……と、考えるヒマもなく、その子はロケバスの方へ。途中で気づいたように振り返って、戻ってきて挨拶した。
「NOZOMIプロの上野百合です。よろしくね!」
「上野百合って……?」
「まどかが言ってた新人さん……」
「たぶん……」
似てる……と思いながら、三人とも口にはしなかった。
「おはよう、乃木坂の諸君」
「「「あ、お早うございます」」」
上野百合に見惚れていたら、高橋誠司が、すぐそばに来ている!
「ほんとうは、姉妹揃って、うちの事務所に入れたかったんだけどね」
「え?」「じゃ?」「やっぱり!」
「お姉ちゃんの方は、アメリカに逃げられちまった」
「え?」「妹?」「アメリカ!?」
「河川敷のロケだっていうから、寒さ対策してきたんだけど、要らなかったなあ」
「はい、春の体験版です!」
「うまいこと言うねえ、さすがは個人演技賞! セーブデータは製品版でも使えますってね」
「「ハハハ」」
わたしたちを煙に巻いて後ろ手でバイバイして行ってしまった。
袖口から極暖が覗いていた。
そうして、驚くことがもう一つ。
「あ、潤香先輩!」
潤香先輩が、紀香さんに手をとられながらやってきた。
さすがに立っているのは辛そうで、折りたたみの椅子が出された。
「ありがとう和子さん」
それは、西田さんのお孫さんだった。
「お互いの、再出発の記念にしようって。お嬢の発案なんです」
「アメリカって聞きましたけど?」
夏鈴が目を輝かせる。
「はい、九時半の飛行機です」
「向こうでも、演劇部顧問やるのかなあ!」
「きっと海兵隊!」
「いえ、サキお嬢様と替わってニューヨーク支社でお勤めになられます」
勤めるどころじゃない、たぶん支社長。TAKEYONAで聞いてしまった印象はそうだ。
「あ、たぶんあの飛行機」
紀香さんが指差した空にはJALの後姿。手元のスマホを見ながらだからトレースしていたんだ。
「わたし、あなたたちに発表したいことがあるの。お姉ちゃん、ちょっと手をかして」
「大丈夫、潤香?」
「うん。この宣言は立ってやっときたいの」
潤香先輩の真剣さに、わたし達は思わず気を付けしてしまった。
「わたし、この四月から、もう一度二年生をやりなおす」
「それって……」
「出席日数が足りなくて……つまり落第」
「学校は、補講をやって、進級させてやろうって言ってくださるんだけどね、潤香ったら……」
「そんなお情けにすがんのは、趣味じゃないの」
「一学期の欠席がなければ、いけたんだけどね……」
「怒るよ、お姉ちゃん。これは、全部わたしがしでかしたことなんだからね」
「先輩……」
わたしも胸がつまってきた。
「ほらほら、まどかまで。わたし、この留年ラッキーだったと思ってんのよ。だってさ、あんたたちと、もう二年いっしょにクラブができるじゃない。いっしょにがんばろ! 今度は全国大会!」
「は、はい!!」
元気に返事して、見上げた空には、もうJALの後姿は見えなかった。
☆ 主な登場人物
仲 まどか 乃木坂学院高校一年生 演劇部
坂東はるか 真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
芹沢 潤香 乃木坂学院高校三年生 演劇部
芹沢 紀香 潤香の姉
貴崎 マリ 乃木坂学院高校 演劇部顧問
貴崎 サキ 貴崎マリの妹
大久保忠知 青山学園一年生 まどかの男友達
武藤 里沙 乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
南 夏鈴 乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
山崎先輩 乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
峰岸先輩 乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
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