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47『ため息が漏れる』

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泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

47『ため息が漏れる』シグマ 




 ついてない……今年も担任は堂本先生だ。

 先輩も昨年度と同じヨッチャン先生で、うっかりヨッチャンのために小間使いに使われているらしい。

 うちの学校は、もうちょっと考えた方がいいと思う。



 で、あたしは考えた。



 サブカル研究会の部員を増やしたい。いや増やす!

 部員は、今のところ、あたしとオメガ先輩とノリスケ先輩。

 二人の先輩に不足はないんだけど、三人だと部室がもらえない。

 べつに正規の部活にならなくてもいいんだけど、部室は絶対に必要だ。

 同好会だと、放課後の教室とか空き部屋とかを、その都度探さなきゃならない。

 サブカル研究会ってのはエロゲ専門の部活だから、そんな空き部屋とかでやるわけにはいかないよ。



「でも、どうやって勧誘とかするんだよ」

 ピロティーの下に机を持ち出し『サブカル研究会 部員募集中だよ!』って紙を貼りつけてるんだけどね。

「エロゲやりたい人ぉぉぉぉぉーーーーー!」と叫ぶわけにもいかない。

「いい男が二人いても、なにか呼び込みとかしなくちゃ誰も寄りつかないんじゃね……あ、シグマに言わせるわけにはいかないってことで、かわいい女の子が居ないって意味じゃ……」

「いいんです、あたしが正面に出ても逆効果だし……」

 ノリスケ先輩の言葉に素直に反応するけど、なんだか自虐的に響いてしまう。

「場所が悪かったかな……」

 オメガ先輩がさり気にフォローしてくれる。

「でも、ここが一番人通りが多いですから」


 三人の会話は微妙に噛みあわない。


 分かってるんだ、黙っていたら雰囲気悪いから喋ってるだけ。でも、収穫がないもんだから、ついネガティブになってしまう。

「アニメとかゲームとかで押し出してみたらどうかなあ」

「うーーーん、それだと入ってもらってから『じつは……』って説明しなきゃならないでしょ、そこでドン引きされても困るわけで……」

 あたしは以心伝心で、ある程度はいけると思っていたんだ。

 どんなことやるんですか? そう聞かれたら『君の名を』とか『君といた季節』とかのタイトルを言う。同好の士なら、それだけで分かる。は? てな顔をされたらそこでおしまい。とにかく、あと二人入れて部室をゲットできればそれでいい。

 むろん、最初からガチガチのZ指定のをやるつもりもない。最初はコンシューマー版。PSとかでやれる、そういうシーンはカットされてるやつ。それもラブコメ風とか萌え系。『ニャンパラ』とか『ほれきす』とか平気でアニメにもなってるやつ。そういうライトユーザーやライトユーザーを装ってる人もけっこう多い。やってるうちに「これって、パソコンでやれるのもあるよね?」「その方も隠れキリシタンか!?」ってことになって、いよいよ最前線に突入ってことになる。そういう展開を狙ってる。

 さっき、ノリスケ先輩が言った通りなんだけど、できたら――おぬし、分かっておるな――的なの。ノリスケ先輩もオメガ先輩も、程度の差はあるけど、そういうタイプだったしね。

 もしもし、ほんとうにコンシューマーで停まってる子なら、それはそれでいい。ふつうの部活ではプレステ4とかで大人しくコンシューマー。ときどきガチの部員だけで、神域の話ができたらいいしね。

 考えると、ノリスケ案に近くなって……やっぱ、間違ってたかな……でも……こだわりと妥協のループに陥ってしまう。

 ウオーーーー!  キャーーーー!

 ときどき周りで歓声があがる。

 ピロティーには他の部活もきているわけで、新入生を獲得できると、その都度部員たちが雄たけびを上げているんだ。

 野球部なんか胴上げなんかやったりしている。吹部なんか女子が多いので、たまに男子が入ると女子の可愛いのがハグなんかしてる。

 水泳部の女子は水着の上にジャージの上をひっかけただけのや、下にパレオ代わりにタオルを巻きつけただけとか、サブカル研究会よりも過激だ。


 四時半をまわると、さすがにピロティーも閑散としてくる。


 めぼしい一年生は、あらかた釣り上げられてしまったみたい。

 このあとは、見学とか体験入部で来る子を狙うことになるんだけど、部室が無いサブカル研究会はジエンドを意味する。

 ハーーーーーーーー(⑉·̆⌓·̆⑉)

 さすがのあたしもため息が漏れる。

 トントン 

 先輩が、やさしく頭を叩いてくれる。いまのあたしは盛大なΣ顔になっているはずなのに、さりげない優しさにウルっとなりかける。

 ね、茶道部に入らない?

 声を掛けられて顔を上げる。

 そこには夕陽を後光のように背負った風信子先輩が、ホワホワと微笑みながら立っていた。




☆彡 主な登場人物

妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
百地美子 (シグマ)     高校二年
妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
妻鹿由紀夫          父
鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
風信子            高校三年 幼なじみの神社の娘
柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
増田さん           小菊のクラスメート
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