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57『ポテチが消えた』

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泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

57『ポテチが消えた』オメガ 




 噂はあっさりと消えてしまった。

 ほら、俺と小菊がラブホに行ったって迷惑なやつ。

 兄妹なんだから有りえねー話なんだけど、小菊が兄妹であることを知られたくないために身動きが取れなかった。

 先生たちも「二人は兄妹だから」とは言ってくれない。個人情報だからってことなんだけども、信じられねえよな。

 数少ない友だちのノリスケや風信子も、ニヤニヤと笑うばっかで、あいつらも不作為の加害者だと思うね。



 それが、昨日の放課後あたりから、ぱったり噂されなくなった。



 ポーカーフェイスを決め込んではいたけど、噂が消えてホッとはしている。

 でもな、代わりにたった噂は、単なる噂じゃなかった。

 その噂というのは……

 ポテチが消えたあああああああああああああ!

 なんでも、家庭科の調理実習で『トンカツの変わり衣』ができなくなったことが始りなんだ。

「衣に使うポテチが全員分用意できなかったので、普通のトンカツにします」

 という家庭科の先生の話。

「え?」「やっぱり?」「ポテチが?」「ウソだろ!」「そんな!」「キャー!」「ウワーー!」てな感じで飛躍した。

 休み時間に、知り合いやら家族に電話した奴がいた。ポテチの消息を聞きまくったのだ。

「「「「「「ほんとにポテチが無くなった!」」」」」」
 
 放課後には、学校中がポテチパニックになってしまった。

 たまたま学食のフライドポテトが売り切れてしまったことも拍車をかけた。

 冷静な俺は、考えをめぐらせた。

 ま、迷惑な噂の方は消えてしまったので、ほっときゃいいんだけども、俺も世間一般的に好奇心はあるわけだ。

 ポテチが品薄になってきたのは先月からで、原因は、去年北海道を襲った四つの台風。

 台風がもたらした大雨にジャガイモ畑が水に浸かってしまったのが原因。

 ここ半年は、どのメーカーもストックでまかなっていたが、それも底をついてきたということらしい。

 しかし、品薄と言うだけで、ポテチが全て消えるわけじゃない……それが、消えてしまった!

 なんと、夕方には飯田橋から神楽町にかけてのスーパーやらコンビニから、ほんとうにポテチが消えてしまった。


「まるで石油ショックのときのトイレットペーパーだなあ」


 祖父ちゃんがしみじみと言った。

 たかがスナックの一つでしかないポテチが消えたところで、どーってことはないと思うんだけど、欲しいと思ったらいつでも手に入るものが無くなると、なんだか落ち着かない。

 そんなあくる日の土曜日、小菊宛てに宅配便が来た……こいつが、大きさの割には、ひどく軽い。

「あ…………やばい」

 段ボール箱を開けた小菊は固まってしまう。

 数秒立ってスイッチが入った小菊はスマホを手にして階段を駆け上がって行ってしまった。


 どうしたってんだ?


 開けっ放しの段ボール箱を覗いて驚いた。

 中には、ビッシリとヤルビーのポテトチップが詰め込まれていた!

「いったい、なんだろうね?」

 居合わせた松ネエも、ポテチの袋を持って、小菊が消えた階段に視線を送る。


 ピンポ~~ン


 すると、また玄関のピンポンが鳴って、別の宅配便が届いた。

「え、わたしに?」

 自分宛だと分かって、松ネエはハンコを持って玄関へ。

「静岡のお父さんからだよ」

 小菊のより一回り小さい段ボール箱を松ネエに渡す。

 リビングのテーブルの上に据え、開けてビックリした。

 なんと! 中には六人分のガスマスクが入っていやがった!



☆彡 主な登場人物

妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
百地美子 (シグマ)     高校二年
妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
妻鹿由紀夫          父
鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
増田汐(しほ)        小菊のクラスメート


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