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56『あたしの渡り廊下』

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泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

56『あたしの渡り廊下』シグマ 





 渡り廊下の開放感が好き。

 解放感と言っても、グラウンドみたく持て余すような開放感じゃない。

 あたしは、ちょっとばかし広場恐怖症。

 グラウンドみたいなだだっ広い空間は落ち着かない。

 逆に、廊下とか教室とかもだめ。

 考えてみて、教室とか廊下で一人佇んでいたら、ひどく目立ってしまう――あいつ何してんだろう?――と思われたり「ちょ、じゃま」とか言われそう。

 その点、渡り廊下はちがう。

 校舎と校舎を繋いでいるので、幅がふつうの廊下の倍ほどある。

 両側はガラス張りになっていて、程よく明るい。

 東側は中庭に、西側はピロティーに面している。

 面しているけど高さがあるので、外側からの視線は気にならない。

 だから休み時間や昼休みには、外を見ながらボーっとしている。

 ほかにもそんなのが居て、とても自然にボーっとしていられるので、学校の中では二番目にくつろげる。

 一番は……まだナイショ。


 なんで渡り廊下を語ったかというと、渡り廊下の窓から中庭を見ているオメガ先輩に声を掛けたから。


 廊下だったら素通りしている、すれ違っても目配せで挨拶するのが精いっぱい。渡り廊下というのは、そう言う点、コミュニケーションのハードルを下げてくれる。

 思うんだよね、神楽坂高校六十八年の歴史、この渡り廊下で、どれだけの友情やら、初々しい恋の花が咲いたことか。

 あ、えと、オメガ先輩に恋心とかというんじゃないのよ、ないんだから。

 ぶきっちょなあたしが、気楽に声を掛けられた状況を説明したかったんです!

「先輩、なに見てんですか?」

 先輩は、いつものω口を倍くらい緩いωにして振り返った。

「あそこ見てみろよ、静かにな……」

 先輩が小さく指さした先は中庭の藤棚、ノリスケ先輩が居た。それも、誰かといっしょに居る気配。

「だれがいっしょなんですか?」

「こっちきてみ」

 二つ手前の窓に移動。

 あ……( ´艸`)

 藤棚に隠れて胸から下しか分からなかったけど、女の子の姿が見えた。

 上履きの初々しい学年色は一年生だ。

「どーよ」

 先輩がふってくる。

 なんだか微笑ましい。一年女子と語らっているノリスケ先輩も、こうやって渡り廊下から見ているあたしたちも微笑ましい。

「図書室の本を拾ってやったのがきっかけらしいぞ(*^▽^*)」

「へー、そうなんだ。なんだかジブリのアニメみたい(#^.^#)」

「昨日のことなんだけどさ、ジュース買いに行くのにジャンケンしてさ、あいつが負けて、自販機に行く途中で見つけたんだって。世の中なにがキッカケになるか分からねえなあ」

「そうですね」

 言いながら思った。

 ジャンケンに負けたのがオメガ先輩だったら、こんな風に微笑んでいられただろうか……。



☆彡 主な登場人物

妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
百地美子 (シグマ)     高校二年
妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
妻鹿由紀夫          父
鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
増田汐(しほ)        小菊のクラスメート


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