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62『覗いたら殺す!』
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泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)
62『覗いたら殺す!』オメガ
うちはお客さんが多い。
客商売だったということもあるし、最後の家業だったパブの設えが、そのまま残っていて、ご近所さんが気軽に訪れてくるのに適していることもある。
――んじゃ、そういうことで!(^^)!――
――ひとつよろしく(*^-^*)――
いまも、町会長さんと婦人会長さんが、夏祭りの打ち合わせを終えて帰って行ったところだ。
「お、先に行きな」
祖父ちゃんが小菊に譲った。
「ちが、トイレじゃないわよ」
トイレ前でソワソワしていた小菊はドスドスと階段を上がってきた。
「見てんじゃないわよ、変態!」
バタン!
「変態はねーだろー」
腐れ童貞には慣れているが変態には傷つく。
ピンポーン
階段を下りると店のドアホンが鳴る。
「俺が……」
台所から顔を出したお袋に目配せして店に向かう。小菊がバタンドタドタと階段まで出てくる。
「夜分に恐れ入ります……」
ドアを開けて現れたのは六十がらみの立派な紳士だった。
ご近所の人は、いきなりドアを開けて「コウちゃんいるかい!」と気楽に入ってくる。ちなみにコウちゃんとは祖父ちゃんのこと、ユウちゃんは親父のことだし、ゆう君とくれば俺のことだ。
「ご近所の方がこちらから出てこられましたので、こちらから伺いました、失礼ではなかったでしょうか?」
「いえ、玄関は分かりにくいですから、えと……」
「もうし遅れました、徳川と申します」
すごい苗字を言いながら差し出された名刺には――徳川家友――とある。
「しょ、少々お待ちください」
一瞬で緊張した俺は祖父ちゃんを呼びに行こうとした。
「あ、いや、あなたが妻鹿雄一さんですか?」
「あ、はい自分ですが……」
紳士の顔がパッと明るくなった。
それからの展開はあわただしかった。
紳士はいったん道路まで出て、なにやら通りの方に合図をされている。
家の前に出てみると一筋向こうに黒塗りの高級車。うちの前は狭いので大型車は入り辛い。
で、運転手さんに介添えされて高級車から出てきたのは、紺のワンピに身を包んだ木田さんだ!
やっぱ一人で対応しちゃいけないと思って、廊下から祖父ちゃんに声を掛けた。
残念そうなため息で小菊が部屋に戻り、祖父ちゃんが落ち着いて出てきた。
「一昨日は孫の友子がたいへんお世話になりました」
家友さんが深々と頭を下げる。
ゴチン!
威厳のある人なので、位負けした俺はテーブルにぶつけるくらいに頭を下げてしまう。
祖父ちゃんが程よい挨拶を返したのが気配で分かる。
家友さんの横、木田さんはお嬢様というよりはお姫様って感じで品よくお爺さんに習っている。
「大事をとって今日まで休みましたけど、来週からは学校にもどります。その前にお礼を申し上げなくてはとお伺いしました。一昨日はほんとうにありがとうございました」
この言葉でやっとわかった。
一昨日の避難訓練で怪我をした木田さんを、俺は保健室まで連れて行ったんだ。
情けないことに、その時のイメージは、気絶した木田さんが蹲って、計らずも見えてしまったスカートの中の景色だ。
こういうことは分かってしまうのか、木田さんは美しく俯いてしまった。
「訳あって芳子は徳川を名乗ってはおりませんが、たった一人の孫娘です。怪我を知った時はほんとうに驚きました」
「うちの雄一がお役に立ったのなら、何よりのことです」
熟年二人の挨拶は、なんだか大河ドラマの一コマを見ているようだった。
祖父ちゃんに声を掛けて正解だ、親父やお袋では、こうはいかない。
木田さんがお祖父さんと帰ってから検索すると、家友さんは徳川宗家ではないけど、いくつか残っている徳川家の名門であると知れた。
その日、三度目にやって来たお客が小菊の待ち人だった。
「覗いたら殺す!」
で、気配しか分からなかったが、大人二人の来客のようだ。
いったい何をやってるんだ?
廊下で祖父ちゃんと首をひねる俺だった。
☆彡 主な登場人物
妻鹿雄一 (オメガ) 高校三年
百地美子 (シグマ) 高校二年
妻鹿小菊 高校一年 オメガの妹
妻鹿幸一 祖父
妻鹿由紀夫 父
鈴木典亮 (ノリスケ) 高校三年 雄一の数少ない友だち
風信子 高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
柊木小松(ひいらぎこまつ) 大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
ミリー・ニノミヤ シグマの祖母
ヨッチャン(田島芳子) 雄一の担任
木田さん 二年の時のクラスメート(副委員長)
増田汐(しほ) 小菊のクラスメート
62『覗いたら殺す!』オメガ
うちはお客さんが多い。
客商売だったということもあるし、最後の家業だったパブの設えが、そのまま残っていて、ご近所さんが気軽に訪れてくるのに適していることもある。
――んじゃ、そういうことで!(^^)!――
――ひとつよろしく(*^-^*)――
いまも、町会長さんと婦人会長さんが、夏祭りの打ち合わせを終えて帰って行ったところだ。
「お、先に行きな」
祖父ちゃんが小菊に譲った。
「ちが、トイレじゃないわよ」
トイレ前でソワソワしていた小菊はドスドスと階段を上がってきた。
「見てんじゃないわよ、変態!」
バタン!
「変態はねーだろー」
腐れ童貞には慣れているが変態には傷つく。
ピンポーン
階段を下りると店のドアホンが鳴る。
「俺が……」
台所から顔を出したお袋に目配せして店に向かう。小菊がバタンドタドタと階段まで出てくる。
「夜分に恐れ入ります……」
ドアを開けて現れたのは六十がらみの立派な紳士だった。
ご近所の人は、いきなりドアを開けて「コウちゃんいるかい!」と気楽に入ってくる。ちなみにコウちゃんとは祖父ちゃんのこと、ユウちゃんは親父のことだし、ゆう君とくれば俺のことだ。
「ご近所の方がこちらから出てこられましたので、こちらから伺いました、失礼ではなかったでしょうか?」
「いえ、玄関は分かりにくいですから、えと……」
「もうし遅れました、徳川と申します」
すごい苗字を言いながら差し出された名刺には――徳川家友――とある。
「しょ、少々お待ちください」
一瞬で緊張した俺は祖父ちゃんを呼びに行こうとした。
「あ、いや、あなたが妻鹿雄一さんですか?」
「あ、はい自分ですが……」
紳士の顔がパッと明るくなった。
それからの展開はあわただしかった。
紳士はいったん道路まで出て、なにやら通りの方に合図をされている。
家の前に出てみると一筋向こうに黒塗りの高級車。うちの前は狭いので大型車は入り辛い。
で、運転手さんに介添えされて高級車から出てきたのは、紺のワンピに身を包んだ木田さんだ!
やっぱ一人で対応しちゃいけないと思って、廊下から祖父ちゃんに声を掛けた。
残念そうなため息で小菊が部屋に戻り、祖父ちゃんが落ち着いて出てきた。
「一昨日は孫の友子がたいへんお世話になりました」
家友さんが深々と頭を下げる。
ゴチン!
威厳のある人なので、位負けした俺はテーブルにぶつけるくらいに頭を下げてしまう。
祖父ちゃんが程よい挨拶を返したのが気配で分かる。
家友さんの横、木田さんはお嬢様というよりはお姫様って感じで品よくお爺さんに習っている。
「大事をとって今日まで休みましたけど、来週からは学校にもどります。その前にお礼を申し上げなくてはとお伺いしました。一昨日はほんとうにありがとうございました」
この言葉でやっとわかった。
一昨日の避難訓練で怪我をした木田さんを、俺は保健室まで連れて行ったんだ。
情けないことに、その時のイメージは、気絶した木田さんが蹲って、計らずも見えてしまったスカートの中の景色だ。
こういうことは分かってしまうのか、木田さんは美しく俯いてしまった。
「訳あって芳子は徳川を名乗ってはおりませんが、たった一人の孫娘です。怪我を知った時はほんとうに驚きました」
「うちの雄一がお役に立ったのなら、何よりのことです」
熟年二人の挨拶は、なんだか大河ドラマの一コマを見ているようだった。
祖父ちゃんに声を掛けて正解だ、親父やお袋では、こうはいかない。
木田さんがお祖父さんと帰ってから検索すると、家友さんは徳川宗家ではないけど、いくつか残っている徳川家の名門であると知れた。
その日、三度目にやって来たお客が小菊の待ち人だった。
「覗いたら殺す!」
で、気配しか分からなかったが、大人二人の来客のようだ。
いったい何をやってるんだ?
廊下で祖父ちゃんと首をひねる俺だった。
☆彡 主な登場人物
妻鹿雄一 (オメガ) 高校三年
百地美子 (シグマ) 高校二年
妻鹿小菊 高校一年 オメガの妹
妻鹿幸一 祖父
妻鹿由紀夫 父
鈴木典亮 (ノリスケ) 高校三年 雄一の数少ない友だち
風信子 高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
柊木小松(ひいらぎこまつ) 大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
ミリー・ニノミヤ シグマの祖母
ヨッチャン(田島芳子) 雄一の担任
木田さん 二年の時のクラスメート(副委員長)
増田汐(しほ) 小菊のクラスメート
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