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61『堂本先生の鼻』
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泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)
61『堂本先生の鼻』シグマ
あ……鼻が膨らんでる。
堂本先生は一年からの持ち上がりなので分かってしまう、先生が楽しんでいる時は鼻が膨らむんだ。
コワモテの先生でおっかない顔をしている。声も大きくて、よく説教するし、魔王のように怒りまくる。
でも大概は楽しんでいる。そのシルシが鼻の膨らみ。
ほんとうに怒っている時は鼻は膨らまない。
財布を落とした時、ジャイアンツが負けた時、先生の鼻は膨らまなかった。
学食の前で、あたしを叱りとばした時も、先生の鼻は膨らんでいなかった。
で、昨日の朝礼で、先生の鼻は膨らんでいた。
「ミサイルは教室に居る時に堕ちるとは限らない。お前らは、これから体育の授業の移動になる、おそらく渡り廊下あたりでミサイル落下の警報がかかる。いいか、迅速に一階に下りろ。だが走るな! 走ると不測の事故や怪我に繋がる! そこは普段の避難訓練と同じだ! 下りたら都心側とは反対向きの部屋か廊下で蹲る! 机とかの下に潜り込み頭を抱えて蹲る! いいな!」
他のクラスが教室で待機している中、あたしたちは体操服を持って更衣室へと移動した。
途中通過する教室の先生や生徒たちはいぶかし気な顔。おそらく申し合わせでは教室に居ることになっているんだろう、先生一人のフライングだ。
「いつも通り、いつも通り!」
先生の掛け声は、なんだか得意げな感じになって来た。
そして、渡り廊下にさしかかったとき、ミサイル落下の警報が流れた!
ファンファン! ファンファン! ファンファン! ファンファン!
「よし、本館の一階まで下りろ!」
あたしたちは静々と渡り廊下を進み、階段を下りた。
道を開けてくれ!
聞き覚えのある声が後ろからした。
振り返ると、オメガ先輩が女生徒を抱っこして迫って来た。堂本先生は、一瞬不機嫌な顔になったが、女生徒の頭から血が流れているのに気付いて、道を開けさせた。
「先輩!」
思わず呼びかけてしまったけど、先輩は、そのまま一階まで下りて行ってしまった。
「よし、最寄りの部屋に飛び込めっ!」
一階まで下りると先生が叫ぶ。
あ、この部屋は……ためらった時は、先頭がもう入っていた。
「ちょ、ちょっと……」
その部屋に居た先生は押しとどめようとしたが、堂本先生に気づくと押し黙ってしまう。
「え、あ、ここは……」
「つかえてる、さっさとしろ!」
あたしはクラスメートに流されて、その下に潜り込んだ。
潜った先、五十センチほどの天井と床の隙間から見えるのは男子生徒の脚と、ブラブラ揺れる女生徒の足首。
ドサッと音がして、頭の上に女生徒が寝かされた気配。
こともあろうに、あたしたちが飛び込んだのは保健室!
ちょうど先に入っていた先輩が、ベッドに女生徒を横たえたところだ。
階段の時とは違って知らんぷりを決め込んだ。
「ちょっと、なんなの!?」
「先生! 診てやって! 頭切って意識がないんだ!」
「他の大勢……ちょ、どいて! 頭を高くし……タオルで押さえて……ちょっと、多すぎ!」
「頭抱えて、口を開け! 爆風で腹が破れるぞ!」
「キュウクツ!」「足あたる!」「腕がぁ!」「蹴んな!」「触って……!」「いや!」「キャ!」「あち!」「いて!」「……!」
「ちょ、どいて! なに、この大勢は!」
「避難訓練です!」
「先生、早く! 木田さん! 木田さ……息してな……い……木田さん! 先生!」
「いま行く、ちょ、どいて!」
「先生! 早くし……息してな……い……」
「人工呼吸! マウスツー マウス!」
「ちょ、先生! お前ら邪魔! お前……ら!」
女生徒を気遣う先輩と養護教諭の先生の声、押し寄せた避難訓練のわたしたちに消されてる。先輩とは逆の側から潜ったせいか、先輩は気づいていない。
「木田さん、しっかり!」
「人工……呼吸……よ!」
「木田さん!」
ベッドの下で思った、先輩は誰にでも、こんな風に優しくて一生懸命になるんだ。
あたしの胸が痛んだのは、窮屈な姿勢のせいばかりじゃない……。
☆彡 主な登場人物
妻鹿雄一 (オメガ) 高校三年
百地美子 (シグマ) 高校二年
妻鹿小菊 高校一年 オメガの妹
妻鹿由紀夫 父
鈴木典亮 (ノリスケ) 高校三年 雄一の数少ない友だち
風信子 高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
柊木小松(ひいらぎこまつ) 大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
ミリー・ニノミヤ シグマの祖母
ヨッチャン(田島芳子) 雄一の担任
木田さん 二年の時のクラスメート(副委員長)
増田汐(しほ) 小菊のクラスメート
61『堂本先生の鼻』シグマ
あ……鼻が膨らんでる。
堂本先生は一年からの持ち上がりなので分かってしまう、先生が楽しんでいる時は鼻が膨らむんだ。
コワモテの先生でおっかない顔をしている。声も大きくて、よく説教するし、魔王のように怒りまくる。
でも大概は楽しんでいる。そのシルシが鼻の膨らみ。
ほんとうに怒っている時は鼻は膨らまない。
財布を落とした時、ジャイアンツが負けた時、先生の鼻は膨らまなかった。
学食の前で、あたしを叱りとばした時も、先生の鼻は膨らんでいなかった。
で、昨日の朝礼で、先生の鼻は膨らんでいた。
「ミサイルは教室に居る時に堕ちるとは限らない。お前らは、これから体育の授業の移動になる、おそらく渡り廊下あたりでミサイル落下の警報がかかる。いいか、迅速に一階に下りろ。だが走るな! 走ると不測の事故や怪我に繋がる! そこは普段の避難訓練と同じだ! 下りたら都心側とは反対向きの部屋か廊下で蹲る! 机とかの下に潜り込み頭を抱えて蹲る! いいな!」
他のクラスが教室で待機している中、あたしたちは体操服を持って更衣室へと移動した。
途中通過する教室の先生や生徒たちはいぶかし気な顔。おそらく申し合わせでは教室に居ることになっているんだろう、先生一人のフライングだ。
「いつも通り、いつも通り!」
先生の掛け声は、なんだか得意げな感じになって来た。
そして、渡り廊下にさしかかったとき、ミサイル落下の警報が流れた!
ファンファン! ファンファン! ファンファン! ファンファン!
「よし、本館の一階まで下りろ!」
あたしたちは静々と渡り廊下を進み、階段を下りた。
道を開けてくれ!
聞き覚えのある声が後ろからした。
振り返ると、オメガ先輩が女生徒を抱っこして迫って来た。堂本先生は、一瞬不機嫌な顔になったが、女生徒の頭から血が流れているのに気付いて、道を開けさせた。
「先輩!」
思わず呼びかけてしまったけど、先輩は、そのまま一階まで下りて行ってしまった。
「よし、最寄りの部屋に飛び込めっ!」
一階まで下りると先生が叫ぶ。
あ、この部屋は……ためらった時は、先頭がもう入っていた。
「ちょ、ちょっと……」
その部屋に居た先生は押しとどめようとしたが、堂本先生に気づくと押し黙ってしまう。
「え、あ、ここは……」
「つかえてる、さっさとしろ!」
あたしはクラスメートに流されて、その下に潜り込んだ。
潜った先、五十センチほどの天井と床の隙間から見えるのは男子生徒の脚と、ブラブラ揺れる女生徒の足首。
ドサッと音がして、頭の上に女生徒が寝かされた気配。
こともあろうに、あたしたちが飛び込んだのは保健室!
ちょうど先に入っていた先輩が、ベッドに女生徒を横たえたところだ。
階段の時とは違って知らんぷりを決め込んだ。
「ちょっと、なんなの!?」
「先生! 診てやって! 頭切って意識がないんだ!」
「他の大勢……ちょ、どいて! 頭を高くし……タオルで押さえて……ちょっと、多すぎ!」
「頭抱えて、口を開け! 爆風で腹が破れるぞ!」
「キュウクツ!」「足あたる!」「腕がぁ!」「蹴んな!」「触って……!」「いや!」「キャ!」「あち!」「いて!」「……!」
「ちょ、どいて! なに、この大勢は!」
「避難訓練です!」
「先生、早く! 木田さん! 木田さ……息してな……い……木田さん! 先生!」
「いま行く、ちょ、どいて!」
「先生! 早くし……息してな……い……」
「人工呼吸! マウスツー マウス!」
「ちょ、先生! お前ら邪魔! お前……ら!」
女生徒を気遣う先輩と養護教諭の先生の声、押し寄せた避難訓練のわたしたちに消されてる。先輩とは逆の側から潜ったせいか、先輩は気づいていない。
「木田さん、しっかり!」
「人工……呼吸……よ!」
「木田さん!」
ベッドの下で思った、先輩は誰にでも、こんな風に優しくて一生懸命になるんだ。
あたしの胸が痛んだのは、窮屈な姿勢のせいばかりじゃない……。
☆彡 主な登場人物
妻鹿雄一 (オメガ) 高校三年
百地美子 (シグマ) 高校二年
妻鹿小菊 高校一年 オメガの妹
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柊木小松(ひいらぎこまつ) 大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
ミリー・ニノミヤ シグマの祖母
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