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32[水の惑星アクアリンド・2]
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宇宙戦艦三笠
32[水の惑星アクアリンド・2]
暗黒星団ロンリネス以上の歓待だった。
アクアリンドは、夕刻の入港を指定してきた。
船の入港は朝が多く、異例といえたが俺たちは素直に従った。
二十一発の礼砲を鳴らすと、それが合図であったように、港街であり首都であるアクアリウムの各所から一斉に花火が上がり、花火には無数の金属箔が仕込んであって、それが他の花火や夕陽を反射して、ディズニーランドのエレクトリカルパレードの何倍も眩く、この世のものとは思えない美しさだった。
三笠のクルーは正装して上甲板に並び、登舷礼の姿勢のまま美しい歓迎を喜んだりビビったり。
「悪いけど、わたしは神棚にいるわね。この星の雰囲気、どうも肌に合わない」
で、ミカさんを除く全員で上陸し、アクアリンドの大統領以下、この星の名士やセレブの歓迎を受けた。
「いやあ、よくお越しくださいました。実に八十年ぶりの来航者で、我々も感動しております」
大統領の言葉から始まり、各界名士の挨拶が続いた。
歓迎レセプションには、この星一番のアイドルグループのエブザイルや、AKR48(アクアリンド48)のパフォーマンスが繰り広げられた。
「正直、退屈な民族舞踊なんか見せられると思っていたけどニャ。良い感じニャ!」
ネコメイドたちは、ほとんど素の猫に戻って地元猫たちと楽しくやっていたが。他のクルーたちは微妙な違和感を感じていた。
たかが水の補給にきて、この歓待はなんだ? 違和感の元は、ここにあった。
深夜になって、クレアが憂い顔で艦長室にやって来た。
クレアは元々はボイジャー1号で、漂流していたのを三笠で保護して、ミカさんが人間らしい義体を与えたものだ。ヘラクレアの娘さんのイメージが反映されているようだけど、並み居る敵艦隊を一手に引き受け玉砕した壮烈な軍人それではない。聡明で、でも少し引っ込み思案な……うん、トシの従姉だと言われたら、そのまま頷いてしまいそうな感じ。
「ちょっと、いいかしら……」
と言った時には、その夜の晩さん会の素晴らしさを語り合う二人のフェイクデータをダミーに流していた。だから「今夜のおもてなしは素晴らしかったわね」とアクアリンドの諜報機関には聞こえていたが、実際は「この星、おかしいわよ」になっている。深夜になったのは、このダミーデータを作っていたかららしい。
「具体的に言ってくれ」
「レセプションでも気づいたと思うんだけど、この星には伝統芸能や、伝統技能がないの。それに、この星のコンピューター全てにアクセスしてみたけど、八十年前以前の記録がどこにもないの」
「ロンリネスのときみたいにバーチャルってことはないのかい?」
「そう思って調べたけど、全て実体よ。人口は一億八千万。惑星としては少ない人口だけど、大陸としてはほどほどの人口。ジニ係数も二十以下で、地球のどの国よりも貧富の差が少ないの」
「歴史が分からないという点を除けば、よくできた星だな」
「それから、この星は、ほとんど無宗教。アクア神というのがあるけど、信者は数百人といったところで布教している様子もないの。大陸の南端に神殿があるほかは寺院とか教会とか呼べるものが無いし、サーチした限り僧侶や神官らしき人も居ない……穏やかに見えるけど、どこかおかしいわ、この星」
「明日、名所案内をしてくれる。そのときに、ちょっと気を付けてみよう」
「それから、この音を聞いてみて」
「あ、ちょ……」
クレアは、俺のオデコに自分のオデコを近づけて、自分の聴覚とシンクロさせてきた。見かけに似合わず大胆だ(;'∀')
「五感の99%を聴覚に集中して聞こえてきたの……目をつぶって集中して、そうでなきゃ聞こえないくらいに微かだから」
「う、うん……」
それは、微かにサラサラと水の流れる音だった。
「えと……クレアの体の中を流れる血流?」
「違います! わたしのは……」
「ちょ!」
頭を挟んで胸に持っていきやがる。
ドックンドックン
ウ!?
意外に強い乙女の血潮に、ちょっとたじろぐ。
俺の反応に満足すると、再びオデコに戻される。
見かけも振舞も、ほとんど普通なんだけど、まだ人間に成り切れていないんだ。ま、いいんだけどな。俺が指摘したら、逆に変になりそうな気がする。俺も器用なほうじゃないからな(^_^;)
「ちょっと、聞いてる?」
「あ、すまん」
横須賀港で見かけた自衛隊の……世界一と言われる静粛性を誇る潜水艦、それが限界潜行深度でたてるキャビテーションノイズを聞いたような気がした。
うかつに目を開けると、目の前にクレアのドアップ。
(灬╹X╹灬)
「ちょっと、なにやってんの二人で!?」
樟葉が怖い顔をして立っている。
三笠の外にはバリアを張ってくれたクレアだが、艦長室のドアには気が回っていなかったようだ(^_^;)
☆ 主な登場人物
修一 横須賀国際高校二年 艦長
樟葉 横須賀国際高校二年 航海長
天音 横須賀国際高校二年 砲術長
トシ 横須賀国際高校一年 機関長
ミカさん(神さま) 戦艦三笠の船霊
クレア ボイジャーのスピリット
ウレシコワ ブァリヤーグの船霊
メイドさんたち シロメ クロメ チャメ ミケメ
32[水の惑星アクアリンド・2]
暗黒星団ロンリネス以上の歓待だった。
アクアリンドは、夕刻の入港を指定してきた。
船の入港は朝が多く、異例といえたが俺たちは素直に従った。
二十一発の礼砲を鳴らすと、それが合図であったように、港街であり首都であるアクアリウムの各所から一斉に花火が上がり、花火には無数の金属箔が仕込んであって、それが他の花火や夕陽を反射して、ディズニーランドのエレクトリカルパレードの何倍も眩く、この世のものとは思えない美しさだった。
三笠のクルーは正装して上甲板に並び、登舷礼の姿勢のまま美しい歓迎を喜んだりビビったり。
「悪いけど、わたしは神棚にいるわね。この星の雰囲気、どうも肌に合わない」
で、ミカさんを除く全員で上陸し、アクアリンドの大統領以下、この星の名士やセレブの歓迎を受けた。
「いやあ、よくお越しくださいました。実に八十年ぶりの来航者で、我々も感動しております」
大統領の言葉から始まり、各界名士の挨拶が続いた。
歓迎レセプションには、この星一番のアイドルグループのエブザイルや、AKR48(アクアリンド48)のパフォーマンスが繰り広げられた。
「正直、退屈な民族舞踊なんか見せられると思っていたけどニャ。良い感じニャ!」
ネコメイドたちは、ほとんど素の猫に戻って地元猫たちと楽しくやっていたが。他のクルーたちは微妙な違和感を感じていた。
たかが水の補給にきて、この歓待はなんだ? 違和感の元は、ここにあった。
深夜になって、クレアが憂い顔で艦長室にやって来た。
クレアは元々はボイジャー1号で、漂流していたのを三笠で保護して、ミカさんが人間らしい義体を与えたものだ。ヘラクレアの娘さんのイメージが反映されているようだけど、並み居る敵艦隊を一手に引き受け玉砕した壮烈な軍人それではない。聡明で、でも少し引っ込み思案な……うん、トシの従姉だと言われたら、そのまま頷いてしまいそうな感じ。
「ちょっと、いいかしら……」
と言った時には、その夜の晩さん会の素晴らしさを語り合う二人のフェイクデータをダミーに流していた。だから「今夜のおもてなしは素晴らしかったわね」とアクアリンドの諜報機関には聞こえていたが、実際は「この星、おかしいわよ」になっている。深夜になったのは、このダミーデータを作っていたかららしい。
「具体的に言ってくれ」
「レセプションでも気づいたと思うんだけど、この星には伝統芸能や、伝統技能がないの。それに、この星のコンピューター全てにアクセスしてみたけど、八十年前以前の記録がどこにもないの」
「ロンリネスのときみたいにバーチャルってことはないのかい?」
「そう思って調べたけど、全て実体よ。人口は一億八千万。惑星としては少ない人口だけど、大陸としてはほどほどの人口。ジニ係数も二十以下で、地球のどの国よりも貧富の差が少ないの」
「歴史が分からないという点を除けば、よくできた星だな」
「それから、この星は、ほとんど無宗教。アクア神というのがあるけど、信者は数百人といったところで布教している様子もないの。大陸の南端に神殿があるほかは寺院とか教会とか呼べるものが無いし、サーチした限り僧侶や神官らしき人も居ない……穏やかに見えるけど、どこかおかしいわ、この星」
「明日、名所案内をしてくれる。そのときに、ちょっと気を付けてみよう」
「それから、この音を聞いてみて」
「あ、ちょ……」
クレアは、俺のオデコに自分のオデコを近づけて、自分の聴覚とシンクロさせてきた。見かけに似合わず大胆だ(;'∀')
「五感の99%を聴覚に集中して聞こえてきたの……目をつぶって集中して、そうでなきゃ聞こえないくらいに微かだから」
「う、うん……」
それは、微かにサラサラと水の流れる音だった。
「えと……クレアの体の中を流れる血流?」
「違います! わたしのは……」
「ちょ!」
頭を挟んで胸に持っていきやがる。
ドックンドックン
ウ!?
意外に強い乙女の血潮に、ちょっとたじろぐ。
俺の反応に満足すると、再びオデコに戻される。
見かけも振舞も、ほとんど普通なんだけど、まだ人間に成り切れていないんだ。ま、いいんだけどな。俺が指摘したら、逆に変になりそうな気がする。俺も器用なほうじゃないからな(^_^;)
「ちょっと、聞いてる?」
「あ、すまん」
横須賀港で見かけた自衛隊の……世界一と言われる静粛性を誇る潜水艦、それが限界潜行深度でたてるキャビテーションノイズを聞いたような気がした。
うかつに目を開けると、目の前にクレアのドアップ。
(灬╹X╹灬)
「ちょっと、なにやってんの二人で!?」
樟葉が怖い顔をして立っている。
三笠の外にはバリアを張ってくれたクレアだが、艦長室のドアには気が回っていなかったようだ(^_^;)
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