漆黒のブリュンヒルデ

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
21 / 84

021『ひるでの初詣』

しおりを挟む

漆黒のブリュンヒルデ

021『ひるでの初詣』 

 

 

 声をかけようと思ったがやめた。

 
 向かいの窓を一瞥して『バーカ』と口の形だけで言っておく。

 今から初詣に行くのだ。

 祖母からもらったリュックの中には去年のお札とお守りが入っている。神社に納めて新しいのを買うんだ。

 付いてくるかと思ったねね子は踏切が近くなっても現れない。

 まあ、学校に行くんじゃないんだからなと思いつつ、ねね子が付いてくるのが当たり前になっている自分が可笑しかった。

 芳子に声をかけても良かったんだが、大晦日から生徒会の面々と初詣のハシゴをやって、今ごろは爆睡しているだろうから、それも止した。

 踏切が見えてくる通りに出て、沢山の初詣の人たちの流れに乗る。

 日ごろは信心など無い人たちが、行儀よく三列になって鳥居をくぐる。

 たいていの人が鳥居の前で一礼し、心持ち石畳の真ん中を外して拝殿に向かう。石畳の真ん中は神が通るところで、人間は遠慮しなければならないという作法だ。

 しかし、その肝心の神さまであるおきながさんは、巫女姿で参拝客の道案内をやっている。こころなし若く見えるのは、巫女姿であることよりも、生き生きと人の相手をしているからだろう。

 目が合うと『あとでね』と口の形で伝えてくれる。

 
 ガラガラと鈴を鳴らして、お賽銭を投入。二礼二拍手一礼『今年もよろしく』とお願いして、納め所で去年のお札とお守りを返納。流れに乗ってお札売り場へ。

「お札とお守り……」

 言い終わらないうちに差し出される。慌てて二千円を差し出すと、巫女さんが笑った。

「ニャハハ」

「ねね子!?」

「ニャハ、ご奉仕ニャ(と言いながら、言葉の中身は『アルバイト』だ)。あっちから入ってニャ」

 社務所の横に小振りな鳥居がある。こんなところにあったか?

 思いながら鳥居を潜ると、そこは一面の白砂が敷き詰められ、歩くたびに、シャキッ シャキッっと清らかな音がする。四方は春霞がかかったように茫洋としているが、けして不快な感じではなく。この場に適度な潤いを与えているような気がした。

 目の前に向かい合わせの床几が現れ『掛けてちょうだい』と声がした。

 腰かけると同時に、向かいの床几に春霞が凝るようにして人が現れた。

 
 女の大魔神がいたら、こんな感じだという出で立ちだ。

 古風な装束の上から古代の挂甲(けいこう)をまとっている。兜は被らず、長い黒髪にキリリと鉢巻をしている。

「これが、わたしの正装。ほんとは、ジャージか巫女姿で人の相手してる方が性に合っているんだけど、お正月だからね」

「え……え? おきながさん!?」

「オキナガタラシヒメ。教科書的に言うと神功皇后だから、三韓征伐の時の衣装が正装なんでね……よっこいしょ」

 わたしの漆黒の甲冑もたいがいだが、おきながさんも相当重そうだ。

「大鎧の原型になった鎧で、馬に乗ることを前提に作られてるから。ま、それで、座ったまんまで失礼するわ」

 おきながさんは、ガチャリと音をさせ、意を決したように背筋を伸ばした。

 
 姫え~~~~~~~~~~~~!

 
 春霞の向こうから、甲冑を揺すりながらおきながさんを呼ばわる声が走ってきた。

 白髭の五月人形のような爺さんだ。

 背中に大荷物を背負い、おきながさんの前まで来ると荷物を背負ったまま平伏した。

「ただいま帰着いたしました、お申し越しの……グヘ!」

 荷物の重さに、最後まで挨拶できずに、のびた蛙のようにへたばってしまった。

「歳なんだから、がんばっちゃいけないって言ってるでしょ。まずは荷物を下ろして」

「はい、申し訳もございません……」

 わたしも手伝って、荷物を下ろしてやると、おきながさんがお爺さんを紹介した。

「わたしの古くからの家来で、武内宿禰(たけのうちのすくね)って言うの、わたしはスクネとか爺とか呼んでる」

「ひるで殿には初にお目のかかります、姫の守り役をつとめております。どうぞ、気軽に『すくね』とお呼び下され」

「縁あってこの世界に来たが、日も浅い、よろしく頼む」

「それが、例のものだな」

「はい、元日に間に合うように、特急でまいりました」

「そ、それは!?」

 
 爺さんが取り出したものを見てビックリした。

 それは、さっき思い浮かべた漆黒の甲冑であったのだ。こちらの世界に来るときに身の回りのものは消え失せて、やっとオリハルコンの剣一つを召喚できるだけだった。

「正月だから、いっしょに記念写真撮ろうと思って、爺に取りに行かせてたのよ」

「ヴァルハラの城にですか?」

 よく父が許したものだ。

「爺は、こういう交渉事にはもってこいでね。さっそく着替えて記念撮影にしよう」

「は、はい」

 
 スクネの爺さんがカメラマンになり、もう、こちらでは身に着けることは無いであろう漆黒の甲冑に身を固め数十枚の記念写真を撮った。

 
「記念に、こんなものも作ってみましたぞ」

 爺さんが差し出したものは3Dプリンターで作った、わたしとおきながさんのフィギュアだ。ちょっと恥ずかしい(-_-;)

 そのあとは、式神の巫女たちが、一瞬で会場を作ってしまい、新年宴会になってしまった。

 おきながさんは、なにか言いたげだったが、とうとう言いそびれてしまったようだ。

 
 まあいい、通学で毎日通る世田谷八幡、折を見て話を聞こう。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

盾の間違った使い方

KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。 まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。 マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。 しかし、当たった次の瞬間。 気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。 周囲は白骨死体だらけ。 慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。 仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。 ここは―― 多分、ボス部屋。 しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。 与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる 【異世界ショッピング】。 一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。 魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、 水一滴すら買えない。 ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。 そんな中、盾だけが違った。 傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。 両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。 盾で殴り 盾で守り 腹が減れば・・・盾で焼く。 フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。 ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。 ――そんなある日。 聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。 盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。 ​【AIの使用について】 本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。 主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。 ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

処理中です...