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023『ねね子の仮病』
しおりを挟む漆黒のブリュンヒルデ
023『ねね子の仮病』
豪徳寺脇の通学路にさしかかると、いつものようにねね子が現れた。
「どうした、ねね子?」
いつもと様子が違う。
大時代なドテラを着て、首にはグルグルとマフラー、モフモフの手袋をはめ、額にはアイスキャンディーほどの冷えピタを貼っている。
「ゴホゴホ……ちょっと風邪をひいたニャ」
「ほう、風邪か……」
一目見て仮病と分かる。咳も白々しいし、顔色も悪くない。目を熱感知モードにしても、ねね子としては平熱の37度だ。何よりも、大仰な出で立ちが仮病臭い。
「だ、だから、がっこ休むニャ、先生に言っといて欲しいニャ!」
ピューー
視線を合わさずに、それだけ言うと逃げるように駆け去ってしまった。
まあいい、うちのクラスに転校生で入って来たのも気まぐれだろうし、仁義を通すだけ可愛いというものだ。
教室に行く前に職員室に寄って、ねね子の病欠を担任に告げる。
「あ、たった今本人から電話があったわ。ありがとう」
念の入ったことだ、仮病で休むのがよっぽど後ろめたいにちがいない。
四時間目が終わって、昼休みに入ろうかという時に、クラスのA子とB子が喧嘩を始めた。
ささいなことが原因なのだが、互いに我慢して仮面親友をやっていたので、いざぶつかると、いささか激しい。
「そこまでにしとけよ。頭冷やしてから、話し合えばいい」
要らざることとは思いながら、互いに手が出そうな気配に割って入った。
A子はその足で帰ってしまい、B子は保健室に行ってしまった。
昼休み……五時間目……六時間目……表面は平穏なのだが、クラスの中にわだかまりがある。あるどころか、時間を経るにしたがって大きくなってくる。
A子に同情する者。B子をひいきする者。これまでのしがらみはクラスの半分ほどに広がっていて、単に仲裁したから済むと言うものではなさそうだ。
それどころか、わたしの仲裁がA子びいきにもB子擁護にもとられ、中には「余計なことを」などと、わたしに矛先を向ける者もいる。
むろん、面と向かって文句を言いにくる者はいない。余計なケンカを始める者もいない。表面はとても穏やかなのだ。
六時間目も残り五分というころに異変が起こった。
教室のゴミ箱がブスブスと黒煙を上げ始めたのだ。
しかし、誰も気に留めない。先生などは、チョーク箱の溜まったカスをゴミ箱に捨て、上半身が黒煙に覆われたのに平気でいる。
どうやら、クラスのみんなが押さえ込んだ悪気(あっき)がゴミ箱に溜まって凝り固まってしまったようだ。
この日は掃除当番にあたっている。チャッチャと掃除を済ませると宣言した。
「今日は、わたしがゴミ捨てに行く」
ケンカの事もあったので、当番の二人もわたしが気を使っているのだと思ってくれ、済まなさそうな顔で頷いてくれた。
ゴミ捨て場に向かって困った……悪気は捨てただけではわだかまってしまう。
火で焼かなければ浄化できないのだが、ゴミ集積場横の焼却炉はダイオキシンとかのために閉鎖されているのだ。
自分で火を起こしてもいいのだが、学校の中でははばかられる……。
さて、どうしたものか……
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