24 / 84
024『校舎裏の焼却炉』
しおりを挟む漆黒のブリュンヒルデ
024『校舎裏の焼却炉』
ダメもとで校舎裏の焼却炉に行ってみた。
こないだチラ見した時には投入口のハッチには鎖が巻かれて使用禁止の札が掛かっていたように思う。
あれ?
非常階段の脇から覗く煙突から煙が出ている。
近くまで行くと、投入口が半開きになっていて、チロチロと炎が立っているのが分かる。
長年使われていないはずなのに、通気口はきれいに掃除されていて、炉の中は様々なゴミが陽気な音を立てて燃えている。
いいのかなあ……?
逡巡していると、後ろから声が掛かって、不覚にもドキッとした。
「今日は特別だから、燃してもいいよ」
作業着姿の技能員さんが火かき棒を持って立っている。
「いいんですか?」
「ちょっと待って……」
技能員さんが火かき棒で炉をかき回して隙間を作ってくれる。
「はい、どうぞ」
「ありがとう、焼かせてもらいます」
バサバサ……ボウッ!!
「若い子たちの悪気(あっき)はよく燃えるねえ……」
「うん……でも、すぐに燃え尽きる」
「悪気は早く焼き清めるに限るね」
「底になってるのはなかなか燃え尽きないのね……」
「古い悪気は石炭みたいでね、火の付きは悪いけど、燃え始めると、いつまでも燃えている。だからね、燃え尽きるまでは目が離せない」
「そうなんだ……」
並の人間が悪気を燃やせるわけなど無い、無いどころか悪気を認識できるわけなど無いのだが、この時は不思議にも思わず廃棄された椅子に腰かけてしまった。
技能員のおじさんと悪気が燃える炎を眺める、グラズヘイムでやった冬至の火祭りを思い出す。
一年溜まった穢れを依り代に籠めて王宮の広場で焼くのだ。盛大に燃えるほど来年の実りが大きいとされていた。
心地よい火照りに眠気がさしてくる。おじさんも同様で、火かき棒を杖にしたまま舟をこいでいる。
おじさんの姿が変わってきた……作業服は古式ゆかしい甲冑になって、豊かな白髭が鼻の下を覆う。
「あ……スクネ?」
「あ、これはしたり。つい居ねむって本性を晒してしまいましたな」
「スクネが技能員さんだったのか」
「巡回しております。世田谷のあちこちを周って溜まった悪気やあれこれを清めるのが仕事ですわ、アハハハ。正月の三が日は姫の元に戻って休みを頂いておりました」
おきながさんのところで、写真を撮ってもらったのは、その休みの時だったのだろう。つい先日の事なのに懐かしく思い出す。
「実は、ひるで殿……」
いつのまにか、わたしのほうが眠ってしまっていた。スクネが優しいまなざしを向けている。
「姫が申されましたな……妖どもを懲らしめた後は名前を付けてやってほしいと」
「ああ。もう八人ほどになるかなあ、懲らしめてやると自然に名前が浮かんできてな。自分で言うのもなんだが、いい名前を付けられたと思う」
「妖の多くは戦争で焼け死んだ者たちです。名前の確認も出来ぬままに、あるいは、名前もろとも容も残さずに燃え尽きた者たち……七十余年の年月の間に妖になってしもうた、そういう者たちに名前を取り戻してやって欲しいと言うのが姫の願いなのです」
「そう言うことだったのか……みんな、自然な名前だったのは、そういう訳か。それならそうと、おきながさんも言ってくれればいいのに」
「言いづらかったのですよ……なんせ数が多い」
「どのくらいになるのだ?」
「ざっと、十万」
「十万!?」
「はい、だから言いそびれておられた。この爺からもお頼みします。どうか、妖たちに名前を取り戻してやってくだされ」
「あ、ああ。しかし十万とはなあ……」
「及ばずながら、この爺もお手伝いをいたしますれば……東京は古い都ですので、戦災以外の妖もわだかまっております。全貌は、この爺も姫も掴み切れてはおりませぬがなあ」
「この異世界に来たのは、そういう役目があっての事なのか……」
「そこまでは分かりませぬが、いえ、お伝え出来てホッといたしました。さ、炉の中にイモを仕込んで……よしよし、これなど食べごろ。お一つどうぞ」
スクネは仕込んでおいた焼き芋をくれた。
思いのほかおいしくて、ハフハフと食べているうちにスクネの姿は消えてしまった。
0
あなたにおすすめの小説
失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた
しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。
すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。
早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。
この案に王太子の返事は?
王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
いいえ、望んでいません
わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」
結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。
だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。
なぜなら彼女は―――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる