37 / 84
037『琥珀浄瓶・4』
しおりを挟む
漆黒のブリュンヒルデ・037
『琥珀浄瓶・4』
東京全域で携帯電話が使えなくなった!
71カ所ある携帯基地局の電源が全て落ちたからだ。
すぐに全基地局の点検が行われた。携帯が使えないのはライフラインが止まったことと同義で、管理会社の作業車は都内全域から駆り出されたパトカーに先導されて現場に急行した。
しかし、電源を落としたのはスクネとヒルデ。どちらも神である。
神の御業は人の目や知識では認識不能だ。
「どこにも異常はありません!」
基地局を周った担当者からは同じ答えが送信される。携帯以外の通信システム(固定電話、電信、パソコンなど)は生きているのだ。
もう一つ異変が起こった。
急性記憶障害に陥った者が、都内で数千人現れたのだ。
自分の名前が分からなくなってしまい、ひとに呼ばれても返事をしなくなった。
テレビやラジオのアナウンサーが番組の初めに名乗りを上げられずに立ち往生したり、銀行や病院で順番を待っていて、呼ばれても返事が出来ない者、宅配便が来て「~さん、宅配便です」と呼びかけられても分からない者、ご近所の人の挨拶されても返せない人などが続出。学校は武漢ウiルスで休校になっているところが多いので問題化することは少なかったが、携帯の不通とともに混乱をもたらした。
その二つの問題に比べれば、ほとんど問題にはならなかったが、東京の上空に現れた七色に輝く雲が不気味がられた。
雲の上に太陽が昇ってくると、太陽光は雲を通して照射されるので、地上は七色のマーブル模様にに照らされて、異様な雰囲気になる。
太陽が雲の上を通過してしまうと、普通の日照りになるので、人々は「不気味だなあ」呟き、インスタ映えがすると言っては写真を撮るが、それを人に送って見せびらかすこともできないので、ちょっと詰まらないと舌を鳴らしたりため息をつくくらいであった。
ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
その妖雲を見上げては盛大にため息をついているのがスクネとヒルデの二人の神さまだ。
二人は世田谷八幡の拝殿の屋根に、武装も解かず、腕を組んで思案にふける。
「『寿限無』もダメでござったなあ」
琥珀浄瓶は人の名を喰らうので、日本一長い名前とされている『寿限無』を食らわせてみたところだったのだ。『寿限無』にたどり着くまでには『死』とか『災』『悪』『毒』『傾』『倒』など縁起の悪い文字を含む名前を食らわせてみたが、ことごとく不発だった。
「狙いは悪くない、もっと奴の体を悪くするような名前を食らわせば、きっと中毒を起こす」
「しかし、もう種が……」
「大丈夫か、スクネ老人」
「かたじけない、少し立ち眩みがしたまでのこと」
ヒルデは、老人を鰹木を枕にして寝かせてやった。
「あ、そんなところに居たニャ!」
声がしたかと思うと、鳥居の所からねね子がジャンプしてきた。
「探したニャ、ここ三日ほど姿が見えなかったニャ……その姿は、戦闘モードなのかニャ?」
「実はな……」
これまでの事情を説明してやると、ねね子はぶっ飛んだ!
「フニャーー! そんなことが起っていたのニャアアア!?」
「あと二十四時間で琥珀浄瓶を成敗しないと、おきながさんも戻ってこられなくなってしまう……」
「じゃ、じゃ、ねね子の名前を使うといいニャ!」
「ねね子の名前は、ね・ね・子。たった三文字じゃないか」
「違うのニャ!」
「どう違うんだ?」
「ねね子は、いまの名前ニャ」
「他にも名前があるのか、ハンドルネームとか、源氏名とか?」
「違うニャ、ネコは百万回生まれかわるのニャ」
「おまえ、百万回生まれかわったネコなのか!?」
スクネ老人も驚いた。
「そうなのニャ、そういう猫でなければ、豪徳寺のボスは張っていられないのニャ」
そうだ、先日、豪徳寺の境内を訪れた時に見た招き猫の怪異、あれのトリに現れたのはねね子だった。
「ねね子の他にも豪徳寺の猫を総動員すれば、一億とか二億とかになるニャ!」
そう言うと、ねね子は印を結び鰹木の上に飛び乗ったかと思うと空中三回転ジャンプ!
ニャニャニャニャニャニャニャニャニャア!
線路を挟んだ豪徳寺の境内から数百、数千、数万の招き猫が飛んできて、ねね子を中心に旋回。やがて、招き猫の群れの中から蛍のようなものが無数に抜け出て、上空の妖雲目がけて飛んで行った。
「あれが、猫たちの名前なんだな……」
「そうなのニャ、中には野良も混じってるんだけどニャ……」
「野良猫には、名前は無かろう?」
「ううん、野良には名前を表す鳴き方があるニャ『ニャウ』とか『ミュー』とか『ニャン』とか、字面は同じでもアクセントとか音の高さとかが違って、すごい数になるニャ」
そう言えば、立ち上っていく猫の名前たちは『なめるにゃー』と叫んでいるようにも聞こえる。
「あ、停まった!」
琥珀浄瓶の妖雲は、ギクシャクした動きをしたかと思うと、二三回、ピクリとして動きを停めてしまった。
数分の間、拝殿の屋根の上で妖雲を睨んでいた三人。
その眼力も幸いしたのか、琥珀浄瓶は完全に静止した。
ねね子が振り返って、自分を指さした。
「わ、わたしって、誰だったのかニャ(;'∀')?」
完全に自分の名前を忘れている。
「「ヤッターーー!!」」
呆然とするねね子を尻目に、喜びを分かち合う二人の神さまであった……。
『琥珀浄瓶・4』
東京全域で携帯電話が使えなくなった!
71カ所ある携帯基地局の電源が全て落ちたからだ。
すぐに全基地局の点検が行われた。携帯が使えないのはライフラインが止まったことと同義で、管理会社の作業車は都内全域から駆り出されたパトカーに先導されて現場に急行した。
しかし、電源を落としたのはスクネとヒルデ。どちらも神である。
神の御業は人の目や知識では認識不能だ。
「どこにも異常はありません!」
基地局を周った担当者からは同じ答えが送信される。携帯以外の通信システム(固定電話、電信、パソコンなど)は生きているのだ。
もう一つ異変が起こった。
急性記憶障害に陥った者が、都内で数千人現れたのだ。
自分の名前が分からなくなってしまい、ひとに呼ばれても返事をしなくなった。
テレビやラジオのアナウンサーが番組の初めに名乗りを上げられずに立ち往生したり、銀行や病院で順番を待っていて、呼ばれても返事が出来ない者、宅配便が来て「~さん、宅配便です」と呼びかけられても分からない者、ご近所の人の挨拶されても返せない人などが続出。学校は武漢ウiルスで休校になっているところが多いので問題化することは少なかったが、携帯の不通とともに混乱をもたらした。
その二つの問題に比べれば、ほとんど問題にはならなかったが、東京の上空に現れた七色に輝く雲が不気味がられた。
雲の上に太陽が昇ってくると、太陽光は雲を通して照射されるので、地上は七色のマーブル模様にに照らされて、異様な雰囲気になる。
太陽が雲の上を通過してしまうと、普通の日照りになるので、人々は「不気味だなあ」呟き、インスタ映えがすると言っては写真を撮るが、それを人に送って見せびらかすこともできないので、ちょっと詰まらないと舌を鳴らしたりため息をつくくらいであった。
ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
その妖雲を見上げては盛大にため息をついているのがスクネとヒルデの二人の神さまだ。
二人は世田谷八幡の拝殿の屋根に、武装も解かず、腕を組んで思案にふける。
「『寿限無』もダメでござったなあ」
琥珀浄瓶は人の名を喰らうので、日本一長い名前とされている『寿限無』を食らわせてみたところだったのだ。『寿限無』にたどり着くまでには『死』とか『災』『悪』『毒』『傾』『倒』など縁起の悪い文字を含む名前を食らわせてみたが、ことごとく不発だった。
「狙いは悪くない、もっと奴の体を悪くするような名前を食らわせば、きっと中毒を起こす」
「しかし、もう種が……」
「大丈夫か、スクネ老人」
「かたじけない、少し立ち眩みがしたまでのこと」
ヒルデは、老人を鰹木を枕にして寝かせてやった。
「あ、そんなところに居たニャ!」
声がしたかと思うと、鳥居の所からねね子がジャンプしてきた。
「探したニャ、ここ三日ほど姿が見えなかったニャ……その姿は、戦闘モードなのかニャ?」
「実はな……」
これまでの事情を説明してやると、ねね子はぶっ飛んだ!
「フニャーー! そんなことが起っていたのニャアアア!?」
「あと二十四時間で琥珀浄瓶を成敗しないと、おきながさんも戻ってこられなくなってしまう……」
「じゃ、じゃ、ねね子の名前を使うといいニャ!」
「ねね子の名前は、ね・ね・子。たった三文字じゃないか」
「違うのニャ!」
「どう違うんだ?」
「ねね子は、いまの名前ニャ」
「他にも名前があるのか、ハンドルネームとか、源氏名とか?」
「違うニャ、ネコは百万回生まれかわるのニャ」
「おまえ、百万回生まれかわったネコなのか!?」
スクネ老人も驚いた。
「そうなのニャ、そういう猫でなければ、豪徳寺のボスは張っていられないのニャ」
そうだ、先日、豪徳寺の境内を訪れた時に見た招き猫の怪異、あれのトリに現れたのはねね子だった。
「ねね子の他にも豪徳寺の猫を総動員すれば、一億とか二億とかになるニャ!」
そう言うと、ねね子は印を結び鰹木の上に飛び乗ったかと思うと空中三回転ジャンプ!
ニャニャニャニャニャニャニャニャニャア!
線路を挟んだ豪徳寺の境内から数百、数千、数万の招き猫が飛んできて、ねね子を中心に旋回。やがて、招き猫の群れの中から蛍のようなものが無数に抜け出て、上空の妖雲目がけて飛んで行った。
「あれが、猫たちの名前なんだな……」
「そうなのニャ、中には野良も混じってるんだけどニャ……」
「野良猫には、名前は無かろう?」
「ううん、野良には名前を表す鳴き方があるニャ『ニャウ』とか『ミュー』とか『ニャン』とか、字面は同じでもアクセントとか音の高さとかが違って、すごい数になるニャ」
そう言えば、立ち上っていく猫の名前たちは『なめるにゃー』と叫んでいるようにも聞こえる。
「あ、停まった!」
琥珀浄瓶の妖雲は、ギクシャクした動きをしたかと思うと、二三回、ピクリとして動きを停めてしまった。
数分の間、拝殿の屋根の上で妖雲を睨んでいた三人。
その眼力も幸いしたのか、琥珀浄瓶は完全に静止した。
ねね子が振り返って、自分を指さした。
「わ、わたしって、誰だったのかニャ(;'∀')?」
完全に自分の名前を忘れている。
「「ヤッターーー!!」」
呆然とするねね子を尻目に、喜びを分かち合う二人の神さまであった……。
0
あなたにおすすめの小説
盾の間違った使い方
KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。
まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。
マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。
しかし、当たった次の瞬間。
気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。
周囲は白骨死体だらけ。
慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。
仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。
ここは――
多分、ボス部屋。
しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。
与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる
【異世界ショッピング】。
一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。
魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、
水一滴すら買えない。
ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。
そんな中、盾だけが違った。
傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。
両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる