45 / 84
045『石清水八幡宮の鎌倉』
しおりを挟む漆黒のブリュンヒルデ
045『石清水八幡宮の鎌倉』
鎌倉に鎌倉大仏は無い。
地元なら小学生でも知っている。
それが、コロッと騙された。
―― 鎌倉駅で降りて大仏のとこに行ってくれる? ケメコ ――
日本史の授業中に回ってきたメモに書いてあった。
メモを寄越してきたのは池野さんだが、それは二列向こうのケメコが寄こしてきたものだ。
昨日、部室で王様ゲームをやった。
テストの前日で部活は禁止なんだけど、家でやってもはかどらないとか、いっしょにやった方が効率がいいとか理屈をつけてね。
三回目に、ケメコが王様になって、あたしに命令することになったんだけど、あんまり賑やかだったので、部室前を通りかかった小川先生に怒られた。そのために、ケメコの命令は保留になって、テスト中に手紙をよこしてきたというわけさ。
「大仏だったら長谷でしょーが。それとも、二駅向こうの鎌倉で降りて二駅分歩けっていうんかい?」
「ちがうよ、鎌倉で降りて、大仏(おさらぎ)君のとこにお使いして欲しいのよ」
「おさらぎ……ああ」
大仏……某(なにがし)
一年でいっしょだった男子。ハンサムだった気がするんだけど、あんまり印象には残っていない。ひょっとしたら、口をきいたこともないかもしれない。
「大仏淳だよ、えと……これ、渡してきてほしいんだぁ」
「え、え……」
それは、わたしに寄こしたレポート用紙のメモなんかじゃなくて、薄桃色の小振りな封筒で、いかにもラブレターだ。
「それを渡して、返事を聞いてきて欲しいっ!」
「じ、自分で渡せよ!」
「王様はあたしだよ」
「く、くそ」
「頼んだわよ!」
「あ、ああ……でも、あんた、ケメコってのはやめとけよ。緑子ってきれいな名前なんだからさ」
「いいよ、苗字はまんま桂馬(けめ)なんだからさ」
名前の通り、頭の回転も運動神経もいい奴で、眼鏡を外すと『これが青春だ』のヒロインが務まりそうなくらいだ。水泳の授業で眼鏡を外した時に言ってやると「そういう信子は『青春とは何だ』だよ」と返してきた。単なる語呂かと思ったら「信子は懐疑的になりすぎて前に進まないのが欠点だよ」と言い返された。
「人生長いんだから、簡単に答えなんか出さない方がいいんだよ」と、答えてやる。それぞれ十七年の人生で思い当たることがあるから、それ以上は踏み込まない。
江ノ電を逆方向に乗って鎌倉を目指す。
たった、駅五つ分だけど、湘南の海沿いを走る江ノ電は小旅行だ。
湘南の海の向こうに江ノ島を据えて富士山が見える。あっと言う間にジオラマのような極楽寺のトンネル。
抜けてクネクネいくと、鎌倉大仏最寄り駅の長谷。発車直前に外人の親子連れ、褐色の肌はハワイとかだろうか、お父さんが「いつまで食べてるんだ」的なことを男の子に言ってる。男の子は抹茶アイスを食べてるんだけど、急ぐ様子はない。美味しいものはしっかり味わうんだという笑顔をしている。お父さんも笑い出して車掌さんに「もういいです」的なことを言ってる。
この子は、将来大統領になるかもしれないなあ……バラク・オバマ? 聞き慣れない名前が瞬間浮かんで消えた。
大仏(おさらぎ)君の家は、小町通を抜けた先だ。
小町通は、若宮大路の西に沿った鎌倉有数の観光通り。平日なんだけど、けっこう若い人が、中には外人さんも混じって、ぞめき歩いている。
アーケードが無い分、開放的なんだけど、将来の発展を考えるとトータルにデザインしなおした方がいいかなあ……なんて生意気なことを考える。こういう商業施設のトータルデザインとかプロディユースは面白いかもしれない。
あ、信子ねえちゃん!
妄想を破る声がした。
「あ、ケメコ妹!?」
「何してんの?」
「ああ、ちょっと用事でね」
「あ、お姉ちゃんのでしょ!?」
「なにか、思い当たるのか?」
「え、あ、いや、お姉ちゃん人使い荒いからねえ」
「あんたも?」
「まあ、塾のついでだけど。じゃね」
「うん、用事が無かったらジュースぐらい奢ってやるんだけどね」
「惜しい! また今度ね、じゃ!」
ケメコ妹を見送って道を急ぐ。
ピンポーン
呼び鈴一回で大仏君が出てきた。
手紙を渡しても突っ立ってるあたしに、ちょっと微妙な顔をしたけど、こちらは返事を聞かなければならない。
「…………あ、えと、前向きに検討するって、伝えて」
「よし、前向きにだね!?」
罰ゲームとは言え、きちんと成し遂げたのは嬉しい。大仏君の前であることも忘れて、一瞬ガッツポーズしてしまった。
「そういう可愛いポーズもするんだ……あ、いや、ごめん」
なんだか、二人して赤くなって、そそくさと回れ右。
電柱の影にケメコ妹を見たような気がしたが、ま、どうでもいい。
小町通を引き返しているうちに信子の体を離れてしまった。
眼下に鎌倉の街と湘南の海が広がって、傍にはケメコ妹……ねね子が飛んでいる。
「あれで、よかったのか?」
「いいのニャ! あれがきっかけで三年後に結婚してニャ、生まれた子供が都市計画設計の世界一になるニャ」
「そういうことか」
もう四回目なので、そんなには驚かない。
「しかし、いいのか? いい結果は出てるようだが、わたしも正直楽しくなってきているぞ」
「いいのにゃ、ひるでには苦労かけたからって、オキナガ姫も言ってるにゃ」
「そうか、なら、いいんだが」
「長谷でバラクに会っただろ?」
「あ、やっぱりバラク・オバマか」
「信子が乗っていたんで、見とれていた乗客が居たニャ」
「ああ、信子は無自覚な美人だったからな」
「信子に見惚れて、長谷で降りそこなった」
「あ、そうなのか」
「本来なら、ギリギリで飛び出して、バラクにぶつかるんだ。バラクはホームのコンクリートの頭をぶつけて死んでしまう」
「え、ええ!?」
「オバマの命も救ったのニャ」
「そ、そうなのか(^_^;)、ちょっと盛り過ぎじゃないか?」
「なんの、オキナガ姫もやることに無駄は無いのニャ(^▽^)/」
「で、今度世話になったのは、どこの八幡だったのだ」
「知らなかったのか? 鎌倉の石清水八幡宮なのニャ!」
一陣の風が吹いて、わたしは次の八幡宮に飛ばされた。
0
あなたにおすすめの小説
盾の間違った使い方
KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。
まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。
マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。
しかし、当たった次の瞬間。
気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。
周囲は白骨死体だらけ。
慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。
仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。
ここは――
多分、ボス部屋。
しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。
与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる
【異世界ショッピング】。
一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。
魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、
水一滴すら買えない。
ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。
そんな中、盾だけが違った。
傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。
両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる