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046『函館の八幡坂』
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漆黒のブリュンヒルデ
046『函館の八幡坂』
わき腹をつつかれて目が覚めた。
「あ……寝てしまった」
「次だよ」
つついた奴がニコニコしている。ん? ねね子か?
「おまえ、まんま……化けなくていいのか?」
「今はなな子、ほら、下りるよ」
東急の宮の坂駅……と思ったら、街中を走る路面電車だ。
末広町という停留所で降りる。
見送る電車のロゴは……函館の市電になっている。
「函館……何年前だ?」
宇都宮 郡上八幡 根岸八幡 石清水八幡宮 いずれも四十年ほど昔の昭和だった。
「たったの一年前さ、行くよ」
「アグレッシブだな、ねね子」
「なな子」
「あ、すまん……しかし、なかなか、この時代の意識にならないぞ。まだ、武笠ひるでのままだぞ」
「まあ、ちょっとね……」
停留所を下りて歩道に移り百メートルほど歩くと『八幡坂⇒』の標識。上ったところに八幡宮があるのだろう。
角を曲がるとデジャブ。デジャブの八幡坂を生徒たちが慣れた足どりで登っていく。
「アニメに出てくる高校生みたいだな」
男子は袖口、女子はスカートの裾に二本の線が入っている。アニメでは、制服を単調なものにしないためにラインが入れられていたり、セーラーの襟を胸元近くで角度をつけられていることが多いのだが、ここの生徒たちの制服には、アニメのように、それがある。
「あたしたちだって、そうなんだよ」
「え? ああ……」
気づくとなな子もわたしも同じものを着て、肩に通学カバンを掛けている。
「……ここ『ラブライブ!サンシャイン!!』に出てくるよな?」
「うん、シーズン2」
「なな子、ちょっと歌ってみ」
「なんで?」
「いいから、歌ってみ」
「えと……ネコ踏んじゃった♪ ネコふっじゃった♪ ネコ踏んづけちゃったら……」
「オンチだな」
「あー歌わせといて、それはないぞヽ(`Д´)ノプンプン」
「……アニメのキャラになるというわけでもなさそうだな」
坂道を上ったところに八幡宮は無かった。
「学校だぞ」
「当たり前でしょ、平日に高校生が制服着ていくところは学校しかないじゃない」
「ねね子、喋り方が普通だぞ」
「ゆったでしょ、なな子なんだから」
「そか……」
北海道八幡坂高校、道立の『立』が抜けているが、北海道では『立』を付けないのが普通らしい。
「一時間目は体育だ……よし、行くぞ!」
「あ、待って!」
学校は標高差四十メートルの間に雛祭りの段飾りのように施設が散らばっている。それが生徒の身体能力に挑戦しているようで、面白くなって駆けてしまう。
「アハハ、どうだ、一番乗りだ!」
昇降口で上履きに履き替えると、教室までダッシュ! 着替えの体操服を掴んで更衣室へ、十秒で着替えると、敷地の最高峰にあるグラウンドに駆けて、またまた一番乗り。用具倉庫からラインひきを持ち出して、消えかかっているトラックを引きなおす。
今日は新学期から始まった短距離走の測定テストだ。
わたしは体育委員のようで、みんなに号令をかけて準備運動をやって整列させ、先生がやってきた時には準備万端整っている。
測定結果は、クラスで一番……いや、学校で一番になってしまった(^▽^)/
授業は普通に大人しく受けたが、休み時間は高低差が大きい学校のあちこちを飛び回った。
雛壇の一段目が校門、二段目と三段目が校舎で、下の校舎の三階部分が渡り廊下で上の校舎の一階部分に繋がって、上の校舎の四階分が体育館の一階、体育館の屋根が、それでもグラウンドの高さには十メートル足りないという立体ラビリンスなのだ。
遠い昔、蛮族の迷宮城塞に殴りこんだ時のことを思い出して、ちょっと楽しくなった。
そして、こうやって飛び回ること一つ一つに意味があって、先生の用事を二件片づけ、気分の悪くなった生徒を保健室に運び、技能員さんの階段修理を手伝い、ケンカの仲裁をやって、校舎の樋(とい)に嵌まった猫を助け出し(発見したのはねね子のなな子、ややこしい)たりもした。
放課後は、部活に悩んでいるというコーラス部の同級生を元気づけ、いっしょに音楽室へ行って、一時間歌いまくった!
「ひるで先輩、すごいです!」
なな子といっしょに校門を出ると、一年生の眼鏡っ子が駆け寄ってきた。
「いつも素敵だと思っていましたけど、今日の先輩は際立っていました。いっぱい人の役に立って、それでいて、何をやるのも楽し気で、感動しました。それに、この子も……」
「あ、その猫?」
「はい、先輩が樋に挟まってたのを助けてくれたニャンコです。ノラで、わたしが世話してたんです。今日、連れて帰って、家で飼います。本当にありがとうございました!」
「ニャーー」
ネコも、改めて礼を言う。
「それじゃ、失礼します!」
「お、おう」
眼鏡っ子は、ハリストス正教会の方へ、幾度も振り返っては手を振って帰って行った。
「名前も聞かなかったな……」
「あれでいいニャ」
「ねね子に戻った?」
「あ、つい緊張がほぐれて(*ノωノ)」
「しかし、本当に楽しかった。礼を言うぞ」
「意味はあるニャ、あの子は漫研の子でニャ、数年先には今日のひるでの感動をモチーフにマンガを描くニャ。アニメにもなって、みんなに夢を与えるのニャ」
「そうか、意味はあったんだな」
「それに、今日の事が無いと、あの子は来年コ□ナウィルスに罹って死んでしまう。いろいろ既往症のある子だからニャ」
「そうなのか?」
「そうニャ、人は最後には希望で救われることもあるニャ(^^♪」
「そうか、ひとりではしゃぎまくって、ちょっと恥ずかしいところだった。よかった」
「じゃ、行くニャ!」
夕陽を受けながら下る八幡坂は、アニメの大団円のように素敵だった……。
046『函館の八幡坂』
わき腹をつつかれて目が覚めた。
「あ……寝てしまった」
「次だよ」
つついた奴がニコニコしている。ん? ねね子か?
「おまえ、まんま……化けなくていいのか?」
「今はなな子、ほら、下りるよ」
東急の宮の坂駅……と思ったら、街中を走る路面電車だ。
末広町という停留所で降りる。
見送る電車のロゴは……函館の市電になっている。
「函館……何年前だ?」
宇都宮 郡上八幡 根岸八幡 石清水八幡宮 いずれも四十年ほど昔の昭和だった。
「たったの一年前さ、行くよ」
「アグレッシブだな、ねね子」
「なな子」
「あ、すまん……しかし、なかなか、この時代の意識にならないぞ。まだ、武笠ひるでのままだぞ」
「まあ、ちょっとね……」
停留所を下りて歩道に移り百メートルほど歩くと『八幡坂⇒』の標識。上ったところに八幡宮があるのだろう。
角を曲がるとデジャブ。デジャブの八幡坂を生徒たちが慣れた足どりで登っていく。
「アニメに出てくる高校生みたいだな」
男子は袖口、女子はスカートの裾に二本の線が入っている。アニメでは、制服を単調なものにしないためにラインが入れられていたり、セーラーの襟を胸元近くで角度をつけられていることが多いのだが、ここの生徒たちの制服には、アニメのように、それがある。
「あたしたちだって、そうなんだよ」
「え? ああ……」
気づくとなな子もわたしも同じものを着て、肩に通学カバンを掛けている。
「……ここ『ラブライブ!サンシャイン!!』に出てくるよな?」
「うん、シーズン2」
「なな子、ちょっと歌ってみ」
「なんで?」
「いいから、歌ってみ」
「えと……ネコ踏んじゃった♪ ネコふっじゃった♪ ネコ踏んづけちゃったら……」
「オンチだな」
「あー歌わせといて、それはないぞヽ(`Д´)ノプンプン」
「……アニメのキャラになるというわけでもなさそうだな」
坂道を上ったところに八幡宮は無かった。
「学校だぞ」
「当たり前でしょ、平日に高校生が制服着ていくところは学校しかないじゃない」
「ねね子、喋り方が普通だぞ」
「ゆったでしょ、なな子なんだから」
「そか……」
北海道八幡坂高校、道立の『立』が抜けているが、北海道では『立』を付けないのが普通らしい。
「一時間目は体育だ……よし、行くぞ!」
「あ、待って!」
学校は標高差四十メートルの間に雛祭りの段飾りのように施設が散らばっている。それが生徒の身体能力に挑戦しているようで、面白くなって駆けてしまう。
「アハハ、どうだ、一番乗りだ!」
昇降口で上履きに履き替えると、教室までダッシュ! 着替えの体操服を掴んで更衣室へ、十秒で着替えると、敷地の最高峰にあるグラウンドに駆けて、またまた一番乗り。用具倉庫からラインひきを持ち出して、消えかかっているトラックを引きなおす。
今日は新学期から始まった短距離走の測定テストだ。
わたしは体育委員のようで、みんなに号令をかけて準備運動をやって整列させ、先生がやってきた時には準備万端整っている。
測定結果は、クラスで一番……いや、学校で一番になってしまった(^▽^)/
授業は普通に大人しく受けたが、休み時間は高低差が大きい学校のあちこちを飛び回った。
雛壇の一段目が校門、二段目と三段目が校舎で、下の校舎の三階部分が渡り廊下で上の校舎の一階部分に繋がって、上の校舎の四階分が体育館の一階、体育館の屋根が、それでもグラウンドの高さには十メートル足りないという立体ラビリンスなのだ。
遠い昔、蛮族の迷宮城塞に殴りこんだ時のことを思い出して、ちょっと楽しくなった。
そして、こうやって飛び回ること一つ一つに意味があって、先生の用事を二件片づけ、気分の悪くなった生徒を保健室に運び、技能員さんの階段修理を手伝い、ケンカの仲裁をやって、校舎の樋(とい)に嵌まった猫を助け出し(発見したのはねね子のなな子、ややこしい)たりもした。
放課後は、部活に悩んでいるというコーラス部の同級生を元気づけ、いっしょに音楽室へ行って、一時間歌いまくった!
「ひるで先輩、すごいです!」
なな子といっしょに校門を出ると、一年生の眼鏡っ子が駆け寄ってきた。
「いつも素敵だと思っていましたけど、今日の先輩は際立っていました。いっぱい人の役に立って、それでいて、何をやるのも楽し気で、感動しました。それに、この子も……」
「あ、その猫?」
「はい、先輩が樋に挟まってたのを助けてくれたニャンコです。ノラで、わたしが世話してたんです。今日、連れて帰って、家で飼います。本当にありがとうございました!」
「ニャーー」
ネコも、改めて礼を言う。
「それじゃ、失礼します!」
「お、おう」
眼鏡っ子は、ハリストス正教会の方へ、幾度も振り返っては手を振って帰って行った。
「名前も聞かなかったな……」
「あれでいいニャ」
「ねね子に戻った?」
「あ、つい緊張がほぐれて(*ノωノ)」
「しかし、本当に楽しかった。礼を言うぞ」
「意味はあるニャ、あの子は漫研の子でニャ、数年先には今日のひるでの感動をモチーフにマンガを描くニャ。アニメにもなって、みんなに夢を与えるのニャ」
「そうか、意味はあったんだな」
「それに、今日の事が無いと、あの子は来年コ□ナウィルスに罹って死んでしまう。いろいろ既往症のある子だからニャ」
「そうなのか?」
「そうニャ、人は最後には希望で救われることもあるニャ(^^♪」
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「じゃ、行くニャ!」
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