漆黒のブリュンヒルデ

武者走走九郎or大橋むつお

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052『玉代の玉依姫・2』

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漆黒のブリュンヒルデ

052『玉代の玉依姫・2』 

 

 

 玉代さんのテンションは一時間目から高い。

 
 国語の授業は和歌と俳句だ。

 本来なら和歌と俳句に分けて四時間はかかると思うのだけど、鍋島という四十路の女性教師は和歌二首と俳句二首を解釈してお終いにしようとする。俳句の一つは『プレバト才能ランキング』の作品で、作品の面白さよりも、プレバトのヨタ話で時間を消化しようという腹だ。

「あなたたちは、好きな俳句とかありますか?」

 一通りの板書と説明を終えて生徒に振る。半分はアリバイだ。座右の和歌や俳句を諳んじている高校生なんて、まず居ない。数秒待って反応がなければ次に行こうと教案の次のページに目を落とす鍋島先生。

「先生」

「なにかしら、荒田さん?」

「好きな俳句です、教科書の欄外にあります」

 
 あらくれの熔岩山のぼり女郎花  角川源義(かどかわげんぎ)

 
「いい俳句に目を点けましたね、溶岩山と女郎花の対比が面白い句です。えっちらおっちら山を上ったら、岩の間に可憐な女郎花を見つけた感動を読んだ句ですね。対比の上手さでは『富士には月見草がよく似合う』の太宰治の感性に通じるものがあると思いますよ」

 模範的な解説をして、鍋島先生は終わろうとしたが、玉代さんはあとを続けた。

「わたしは、女郎花がえっちらおっちら山登りした俳句だと思うんです。これを詠んだ角川源義さんの感性はは素晴らしいと思います」

「女郎花が山登り?」

「はい、桜島を登って、麓を振り返って、まだ追いつかない男郎花(おとこえし)、あ、こう書くんです!」

 玉代さんは、つかつかと教壇に上がると、黒板に絵を描いた。桜島を登る女郎花と男郎花、頂上で女郎花が「オホホホホホ!」と笑って男郎花を見下している。見下しているんだけども、男郎花への蔑みなどは無くって、陽気な達成感が感じられる、明るい豊かさを感じさせる絵だ。

「『おみな』というのは女性の古語です。『おんな』と発音するよりも、とても易しい響きです。昔の人は女性というものを『おみな』という響きで理解し、感じていたんですね。『おみな』という響きの中には、あかあかとした日本女性の優しさとたくましさが同時に表現されていると思うんです」

 ほーーーーお

 先生も生徒も、玉代さんが言った内容よりも、スガスガとした玉代さんの声と姿に魅入られている。

「そう、こんな感じ!」

 ヤバイと思ったが間に合わない。


 ドーーーーーーーーン!!

 桜島が元気よく噴火した。

 
 玉代さんは玉依姫の力で、それ以上の噴火を押えたが、その時の噴石と火山灰の処理で鹿児島県の一年分の予算が飛んでしまいそうだ。

 
 次の数学は大人しくしていた玉代さんだったが、三時間目の体育で三度目をやらかした。

 陸上競技のあれこれを体験的に学習するというもので、真剣に記録を出そうというものではない。

「砲丸投げと槍投げ、どっちをやりたい?」

 時間的に余裕がないので、体育の伊藤先生は、どちらかを選ぶように体育座りのわたしたちに問いかけた。

「はい、砲丸投げ!」

 元気よく手を挙げる玉代さん。

 一時間目が面白かったので「がんばってー荒田さーん!」「ファイト、玉代さーん!」と声援が掛かる。

 機嫌よく砲丸を構えた玉代さんは、クルンクルンと旋回し、三回回ったところで投擲した。

 セイ!

 ビューーーーーーーーーン!

 砲丸は、調子づいた勢いのまま、錦江湾を超えて、桜島の頂上付近に命中した。

 ドーーーーーーーーン!!

 また、桜島が元気よく噴火した。

 なんとか収めたが、鹿児島県は緊急対策援助を国に頼まなければならなくなった。

 
 五時間目は反省し、保健室で寝ていた玉代さんだが、六時間目の日本史で弾けてしまった。

「ええ、要するにぃ、鹿児島を攻めた政府軍はぁ、城山に西郷軍を攻め立ててぇ……」

 藤田先生ののんびりした講釈が逆効果。

「もっと劇的に!」

 
 ドーーーーーーーーン!!

 またまた、桜島が元気よく噴火した。

 
 放課後には、自衛隊が出動する羽目になった。

 
 玉代さんは落ち込んだ。

 帰りは電車にも乗らず、甲突川を眺めながら二人で橋の欄干に寄り掛かっている。

 わたしも、どうしていいか分からなくなった。

「やっぱり、もう百年ほど引きこもります……」

 なにか言ってあげようとおもうんだけど、言葉が出ない。

「ひるでぇ……」

 女生徒に化けたねね子が寄ってきた。

「なにさ、ここでは伊地知香奈枝よ」

「いや、世田谷八幡のオキナガさんから……」

 肉球型のスマホを差し出すねね子。

―― かえってお世話を掛けました、わたしも回復しましたので、戻ってきてください ――

 オキナガさんが元気になったのはいいが、玉代……玉依姫を置いておくわけにはいかない。

 ねね子の伊地知香奈枝もニッコリと頷く。

「玉代さん、いっしょに来る?」

「え……いいの!?」

 
 二か月ぶりに世田谷に戻るわたし……いや、わたしたちだった。

 

 

 
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