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069『蚕食』
しおりを挟む漆黒のブリュンヒルデ
069『蚕食』
無数にある異世界の中で軸になっているのが、儂の世界とヒルデが飛ばされた世界だ。
父、オーディンが広げた両手の先を異世界の両極に例える。
「この両の手の平の間に、無数の異世界があって、両極が不動であることによって全体が安定する」
「今は、その両極が不安定ということなのか?」
「分かっているだろう、おまえが戦死者を選ばないものだからラグナロク(最終戦争)の予定が立たん」
「あらかじめ戦死する者を選ぶなんて、わたしにはできない」
「今はまだいい、ヴァルハラ一つなら、しばらくは儂一人でなんとかする。ヴァルハラ以上に厳しいのが、おまえが居る世界だ」
「ああ、まだ名前を取り戻してやらなければならない妖が無数にいる。他に訳の分からない魔物とかも出始めているしな」
「そんなヒルデには酷な話なんだが、周辺の異世界の歪みも放置してはおけなけなくってきている」
「それを、わたしにやらせようと言うのか」
「儂やトール元帥も手の届く限りは処理しよう。しかし、こちらに近い異世界は、ヒルデがやったほうが効率がいい」
「そうなのか?」
「ああ、どうしても手に余るものは……互いに助け合おう」
「『互いに』というところで言いよどんだな」
「突っかかるな、ここの世界は直ぐに崩壊する。少しでも早く綻びの浅い世界を救いにかからねばならんぞ」
「なんか誤魔化していないか?」
「ほら、この世界を蚕食する音がしだしたぞ」
「え?」
耳を澄ますと、ムシャムシャと、それこそ毛虫が葉っぱを食いつくすような音が聞こえてきた。
「上から見てみよう、付いてこい!」
父に付いて、上空三百メートルほど駆けあがる。
上空には遮蔽物が無いために蚕食の音はますます大きくなり、ムシャムシャはバリバリと荒っぽく聞こえる。
そして、眼下には、巨大な虫……いや、マイバッグ共が口を開いて世田谷区を食っている。
「こいつらが、世界を食っているのか!?」
「ああ、ここいらではマイバッグだが、場所を変えると他にも色々のものが居るぞ」
「あれをやっつけろと言うのか?」
「ここは、もう手遅れだ。見ろ、真下を」
「真下……あ!?」
たった今まで居た武笠家の敷地は暗い穴に滲んで、穴からは三匹のマイバッグが盛んに残った地面を食いつくそうとしている。
三匹のマイバッグが、敷地の最後に噛みついた時、世界はグニャりと歪んで、わたしは声をあげることもできなかった。
シュボン!
マイバッグが世界を食いつくした音がして、わたしは白い虚空に投げ出された……。
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