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070『ゼウスとポセイドン』
しおりを挟む漆黒のブリュンヒルデ
070『ゼウスとポセイドン』
白い虚空と言うのはやっかいなもので、上下左右があやふやだ。
堕ちていると思ったら、瞬間で上昇したり左右への方向移動になったり、でたらめな軸を中心に回転したり、あるいは、その複合運動であったり、人間なら耐えられない動きをしている。
例えるなら全自動洗濯機のドラムに入れられ、そのドラムごとナイアガラの滝から落とされたような按配だ。
何十秒か何時間か、判然としない時間が過ぎると急速に落ち着いて来て、足の裏が地面に付いている感じになって静止した。
ここが次の異世界か……?
すまん、ちょっと立ち寄ってもらった。
脳みそに直接語り掛けてくる声がした。
振り返ると懐かしい顔が二つ、第一印象は――老けたなあ――だ。
「ゼウス……そっちはポセイドンか?」
二人は遠縁にあたるギリシアの主神ゼウスとその弟のポセイドンだ。
むかし、ゼウスの娘アルテミスが月に引きこもった時に相談されて以来の邂逅だ。
「ブリュンヒルデは相変わらずだな」
「ここが問題の異世界か?」
「いや、時空の狭間だ」
「正しくは、時空の狭間に浮かんだオリンポスの空気の中だ。兄者が、どうしてもオーディンの娘に言っておかなければならないことがあるというので、エーゲ海の泡を時空の狭間に打ち上げたものだよ。泡が弾けるまで……十分もない、兄者、手短にな」
「ああ、分かっている。ブリュンヒルデ、おまえは綻び始めた世界を救いに行く途中なのだな」
「ああ、全ての世界を正すことはできないだろうが、手の届くところだけでもという思いだ。そうだ、もし思い当たる異世界があれば教えてくれないか、やみくもに当たるのは、ちょっと不安でもあったんだ」
ゼウスはオリンポスの山から全世界を見下ろしているはずだ、父のオーディンよりも見えていてもおかしくない。古代ギリシアの昔から全知全能の触れこみなんだからな。
「いまは、自分の世界さえ意のままにはならないんだ。まして異世界の事など、とてもとても」
「兄者、急いでくれ、もう二分も持たないぞ」
「ああ、異世界の群れの束ねは複数の神が担っているが、そ一人がわが父なのだよ」
「ゼウスに父親が居るのか?」
「ああ、クロノスというヘンクツ親父だ。時空を超えて時を支配している。クロノスならば、どこを直せば全体のつり合いがとれるか分かっているはずだ」
「そうなのか、ありがとう。手当たり次第に目についたところから当たらなければと覚悟していたから助かる」
「兄者」
「ああ、アルテミスのことで世話になって、その礼も済まないうちに申し訳ないんだが……クロノス……親父に会ったら、オリンポスに戻ってくるように伝えてはくれないか。いや、父も歳なんでな、少しは息子らしい孝養をと思ってな」
「兄者」
「ああ……実のところは、年老いた父の力を借りなければオリンポスの平安も図りがたくなってきておってな」
「そうなのか? ギリシアの神々と言えば我々ブァルハラの世界よりも堅牢であろうに」
「まあ、ことのついでという感じでいいよ。半分は、年老いた父にもオリンポス再興の栄誉の一端をと願う気持ちなのだから」
「見栄を張るな兄者、今年はオリンピックも開けない状況ではないか」
「あれはコ□ナの影響で仕方なく……」
「あれは……いや、言い合っても仕方がない、ブリュンヒルデ、これを……」
「これは、エーゲ海の真珠……!?」
「ああ、本来ならアルテミスの事で世話になった礼の徴(しるし)になるものだが、こいつを親父に飲ませて欲しい。強制的にオリンポスに転移させられる」
「分かった、預かっておこう。老人を騙すようなやり方は嫌いだ、きちんと話して納得してもらったうえで飲んでいただく」
「しかし、まともに言っては……」
「兄者、時間だ」
「ああ」
パチン
泡が弾ける音がして、ギリシアの二柱の神は降下していき、わたしは斜め上のさらなる時空へ飛ばされて行った、
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