72 / 84
072『利根4号機』
しおりを挟む漆黒のブリュンヒルデ
072『利根4号機』
波しぶき……え?
意識がクリアーになると船の上だと言うことが分かった。
振り仰ぐと、頭上に電柱のようなものが二本のびている。振り返ると、軍艦の大砲だと分かる。
わたしは、軍艦の前甲板の砲塔の前に立っている。
波浪がきつく、大きな軍艦のようだけど結構揺れる。
無意識に足腰で揺れをいなしているのは、数多くの戦場で馬を乗りこなしてきたからかもしれない。
右舷に向かって数歩出ると、同じ15サンチの砲塔が背負式に二基……いや、二番砲塔の後ろにさらに二基。その後ろに小振りな艦橋が精悍な騎士の兜のように座っている。艦橋の後ろには演奏直前の指揮者が伸ばした腕のようにマストのヤードが張りだし、その後ろには蹲ったような煙突が真後ろに煙を吐き出し、煙の合間に後部マストに翻る旭日旗が窺える。
艦橋や甲板のあちこちに対空・対水見張り員がいるのだが、わたしの存在に気づく者はいない。
この艦で何かをしろというわけか……う!?
この艦に関する情報がインストールし終えたアプリのようにクリアになった。
昭和十七年六月五日 重巡利根はミッドウェー攻略艦隊の一艦として南雲中将指揮のもとに中部太平洋を驀進している。攻撃目標はミッドウェー島であるが、近海に敵空母艦隊を発見すれば、そちらを優先的に叩くべしとの命を受けている。
重巡利根は、その――居るかもしれない――敵空母部隊を発見するため、索敵機を飛ばす準備の真っ最中なのだ。
史実では、この時の利根四号機がカタパルトの故障のために出発が遅れて、この時各艦から飛んで行った数十機の索敵機の中で、ただ一機敵空母部隊を発見して味方艦隊に通報している。
しかし、通報は間に合わず、ほぼ同時に日本艦隊を発見した敵攻撃機部隊によって、空母四隻を撃沈されて、日本は敗戦に至るまで勝機を失うことになる。
これを何とかしろというわけか?
わたしは四基の砲塔の脇を通って、タラップを上がり艦尾の飛行甲板を目指す。
飛行甲板には不調に気づいた飛行科の整備兵たちがカタパルトに取りつき、四号機のコクピットから操縦士と測敵手が悔しそうに下りようとしている。
このカタパルトを直せばいいわけだな。
ん?
なんだ、この胸騒ぎ。カタパルトの修理だけではうまくいかない気がしてきた。
取りあえずは艦橋に向かった方がいい。
数千回に及ぶ戦いの経験が飛行甲板に下りることを躊躇わせ、わたしを艦橋に向かわせた……。
0
あなたにおすすめの小説
失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた
しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。
すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。
早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。
この案に王太子の返事は?
王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
いいえ、望んでいません
わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」
結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。
だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。
なぜなら彼女は―――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる