待ての勇者と急ぎの姫騎士

武者走走九郎or大橋むつお

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002:転生その境に立つ女神

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待ての勇者と急ぎの姫騎士

002:転生その境に立つ女神




 気が付くと霧の中…………あれだけの衝撃でアスファルトに叩きつけられたというのに、手足には痛みも痺れも無い。ひょっとして脊髄とかがイカレてしまったのか……しかし、手も足も動いて感覚もある。

 上半身を起こす。

 地面はフワフワと頼りなく、完全に立ち上がってみようという気にならない。

『立てば、しっかりしますよ』

 え?

 霧の向こうから優しい声がして、声の方向を向くと、滲み出るように女神が現れた。

 女神なんかリアルはもちろん夢の中にも出てきたことは無い。

 こういうシチュエーションで現れるのは、たいてい異世界転生系のアニメで、決まって女神。

「はい、わたしは異世界転生の女神です」

「あ…………」

 あまりのテンプレの状況に、すぐには言葉が出ない。

「いちおう確認しておきますね……鈴木秀(すずきすぐる)さん、30歳。ついさっき、秋葉原の中央通りを横断しようとしてセダンに撥ねられて……」

「えと、少し違う……かな」

「どこがかしら?」

「30は一週間先だ、まだ29歳(^^;)」

「え、あ、そうね。数えで30」

 数えにすんなよォ。

「横断しようとしたところで気が変わって広場に戻ろうとしたんだ、それで、急いでいた誰かに突き飛ばされて、車道に出てしまったところをセダンに撥ねられたんだ。自分としては、その瞬間は道を横断しようという気持ちは無かった」

「ああ、ごめんなさい。中央通りでセダンに撥ねられて、こちらに転生して来た……これでいいかしら?」

 なんか、重要なところを端折られた気がするけど、まあいい。早く目覚めて家に帰らなきゃな。

「ええとぉ、いま、自分の家に帰ろうと思った?」

「5時に管理人さんが来るし、トイレが壊れてて、その修理のことで……あ、少しは余裕あるから、広場に戻って少し見ておきたいのもあるし」

「確認しますけど、秀(すぐる)さん」

「あ、はい」

「あなたは、車に撥ねられて死んだんです」

「待って、心肺停止ってことですよね」

「そうとも言うかなあ、そっちの世界では……」

「病院で救命措置をやって、複数の医師が結論出さないと、死亡にはならないってSNSで見たような……」

「医師はともかく、秀さん、あなたは死んだんです」

「あ、待って」

「待ちません。あなたは、こちらの世界で勇者として生まれ変わるんです。その説明をして納得させ、前向きに勇者の旅を始めてもらうのが、わたしの務めなのです」

「待って、だから、納得するには至ってなくて」

「申しわけありませんが、本日お相手するのは秀さんだけじゃないんです。時間は限られているんです。ここで時間を取り過ぎると、永遠にこの霧の中を彷徨わなければならなくなりますよ。この霧の中には人の目には見えない落とし穴が……」

 うわぁぁぁぁぁぁぁ…………!

「え……今のは?」

 霧の向こうから悲鳴がして、女神は俺の前を左に進んで霧の彼方を窺った。

「……誰かが落とし穴に落ちたようですねぇ」

「そんなぁ……うわ!」

「あ、あぶない!」

 踏み出したところに手応え、いや足応えがなくて、落ちかけたところを女神が腕を掴んでくれる!

「す、すみません!」

「…………分かってもらえたかしら」

「いま、落ちた人は……どうなるんですか?」

「地獄に墜ちます」

「地獄……ほんとですか?」

「このまま落ちて確かめてみるぅ?」

 フ

「待ってえ(≧△≦)!」

 ギュッ!

 渾身の力で緩められた女神の手を握る!

「おお、すごい力ぁ(゜д゜)!」

「す、すみなせん(;'∀')」

「フフ……じゃあ、分かってもらえたということでいいかしら?」

「待って」

 チ

「あ、いま、舌打ちしましたぁ!?」

「ううん、時間と力がかかり過ぎて、コスが破れかかったの」

「コス?」

「そう、女神というのは、あなたに理解しやすいように見せているコスみたいなものでね……」

 メリメリメリ……

「うわぁぁぁ(◎▢◎)!!」

 女神の首のところのほつれが、あっという間に広がって、顔の下半分が見えてしまい、そのおぞましさに、喉を裏がえしにするような悲鳴が出てしまう!

「ヨイショっとぉぉぉぉッ!」

 それまでの女神とは思えない声を上げて、そいつはオレを引き上げてくれる。

「い、いまのは……?」

「え、なにかしらぁ?」

 引き上げられると、とんでもないものを見たという恐怖心は残っているんだけど、見てしまったそれは、起きる寸前に見ていた夢のようにおぼろになってしまった。

「あ……いや…………」

「とにかく、そういうことで、時間が無いの。分かってくれるわね」

「は、はい」

「よしよし、では、あなたはレベルEの勇者として再生します」

「E……レベルE?」

「ふつうはBくらいからいくんですけどね、あなたは時間と手間のかかり過ぎ。だからEからです」

「Eって……?」

「仮にも勇者ですからね、全てのスキルはあります。ホレ……」

 女神が指差した空間に画面が現れてスキルを表示する。

 剣士・1 弓士・1 槍士・1 その他の武器士・1 その他の技術士・1 武術士・1 白魔導士・1 黒魔導士・1

「全部1……たったの1……」

「仕方ないでしょ。でもね、ゼロじゃないから、努力した分は、それだけ加算されていくから頑張って!」

「は、はい……」

「しょげないの。一つだけ、一個だけ、わたしの権限でチート級のスキル持たせてあげるから」

「一個だけ?」

「うん、言ってみ」

「勇者のスキル全般!」

「そういうあつかましいのは不可!」

「だと思った」

「もっと具体的に」

「じゃ……えと……トイレのスキル」

「え、トイレのスキル?」

「ああ、もっと具体的に言えばウォシュレットのスキル!」

「あ、ああ、トイレがどうとか言ってたわよね」

「うん、先祖代々、その……尻の弱い体質でね」

「ああ、切れ痔とかイボ痔とか」

「う、うるさいわ(≧Д≦)!」

「よし!」

 シャキーーーン☆彡

 エフェクト付きでトイレ士・10000が付いた!

「称号は、トイレの勇者!」

「それは嫌だ!」

「じゃあ、空白にしといてあげるから、決まったら記入して」

「おお」

「ふざけたやつやら、不適当と思われるものは却下ですからね」

「おお」

「返事が横柄」

「あ、はい」

「よしよし……」


 ギャァァァァァ!


「「え!?」」


 再びの悲鳴、それも、さっきよりも近いところで!

 女神もオレも思わず身構えてしまう。

 霧の向こうから、すごい闘志が迫って来て……やがて姿を現した。


 え……ブリュンヒルデ!?


 
☆彡 主な登場人物

・鈴木 秀(すずきすぐる)    三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ
・女神              異世界転生の境に立つ正体不明の女神
・秀の友人たち          アキ 田中
 
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