待ての勇者と急ぎの姫騎士

武者走走九郎or大橋むつお

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003:ヴァルキリーの戦乙女

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待ての勇者と急ぎの姫騎士

003:ヴァルキリーの戦乙女




 チャ


 目が合うと同時にソードを構えるヒルデ。

 もっと大きな音がしてもいいはずなのだが、身に着けた甲冑は小さな五月人形を揺らしたほどにしか騒がない。さすがはヴァルキリーの戦乙女、オーディンの姫騎士、動きに無駄が無い。

「ここはどこだ……」

「ええと……あなた……は?」

 気配を感じた時には鋭く反応した女神、身構えたヒルデにかけた言葉は保育所のせんせいを思い出させる穏やかさだ。

「旅の戦乙女だ、故あって道を急いでいる。先ほどの者にも言ったが、多くは語れぬし時間も無い。道さえ教えてもらったら、ただちに退散する。怪しい言動や動きがあれば切り捨てる」

「ちょっと待ってね……」

 女神が指を動かすと、50インチほどのインタフェイスが現われて、オレが横断歩道でためらっていた時の映像が映った。

「……この落ち着きのないのはお前か?」

「ま、そうだけど……」

「あ、ここで思い出したのよねぇ」

「思い出した? 貴様、なにか重要な使命を帯びているのか?」

「あ、まあ……」

 トイレの修理だとは言えない(^_^;)。

「女が子どもを連れて……進路を譲ってやったのか……」

「あ、ここ!」

 ちょうどヒルデが突進して来てぶつかったところで画面を停めた。

「ここで縁(えにし)ができてしまったんだわぁ……」

「「えにし?」」

「動かすわよ」

 ウファ~~ア!

 なんとも締まりのない悲鳴が出て、真横に気の短いセダンが迫ってきた!

 キーーーー! ドゴン!

「スグルくんが彼女とぶつかって、車に撥ねられるところまで、コンマ5秒……運命は同じ縁にカウントして、二人とも、この異世界の境に落としてしまったのねぇ……そうか……そうだったんだ」

 ズチャ

「異世界の境…………だと!?」

 いや、すごい演技力というか身の入り方だ、ほれぼれする!

 人の事故に巻き込まれて異世界に飛び込んでしまったヴァルキリーの姫騎士ヴリュンヒルデを見事に体現している!

「いや、実は、迷ったのは、キミのコスプレをもう一度見たかったからなんだ(^_^;)」

 29歳にもなって、オタク魂丸出しなことを言っている。

 なんか、高校生の頃コスプレに目覚めたころのテンションで恥ずかしい(-_-;)。

 だけど、ここは、ここを正直に言っておかなければ、彼女に失礼だ。コスプレの神に申しわけが無い!

「コスプレ?」

「そうだよ、コスハクに来てるレイヤーはみんな水準高いけど、キミのは、それをはるかに超えている。いや、そうなんだよ、この状況においても、キミはヴァアルキリーのブリュンヒルデであり続けようとしている。賞賛に値するよ!」

 ズチャ!

「貴様、我が名を……!」

「分かったわぁ……」

 50インチの仮想インタフェイスには、オレとヒルデの立ち姿がキャラクリの画面のようにクルクル回り、その両脇には二人のスペックが神さまの文字で事細かに書き込まれている。

「え?」

「なにが分かったのだ?」

「勇者スグルとヴァアルキリーの戦乙女ヴリュンヒルデは、共に旅を始めるしかありませ~ん」

「な」

「なんだと!?」

「後がつかえているんで、ここからは旅をしながら理解を深めていってくださいなぁ」

「え?」

「待て!」

「「うわ!」」

 足元が回り始め、女神の姿が薄くなっていく!

「しばらくは、説明に現れてあげるからぁ、とにかく前に向かって進んでくださいなぁ~~」

「なんのため……」

「なんのために行くのだ!」

『勇者の旅は魔王退治と決まっていま~す』

「「魔王退治ぃ!?」」

『それでは、励んでくださいね~~~』

「くそ!」

「ちょっとぉ~~~~」

 急速に女神の姿は遠ざかり、オレとヒルデはクルクルと異世界の底に落ちて行った……。



☆彡 主な登場人物

・鈴木 秀(すずきすぐる)    三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ         ブァルキリーの戦乙女
・女神              異世界転生の境に立つ正体不明の女神
・秀の友人たち          アキ 田中
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