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005: 始まりの草原に公衆トイレを出す
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待ての勇者と急ぎの姫騎士
005: 始まりの草原に公衆トイレを出す
さて……落ち着いてみると、どっちへ行っていいか分からない。
テンプレート的に『勇者の旅は魔王退治と決まっていま~す』と言われたが、果たして魔王なる者がどのような者なのか、どこにいるのかまるで分らない。
そもそも、ヒルデと佇んでいるこの場所からして取りとめがない。
草原のど真ん中に十数本の木が立っていて、ヒルデが落ちて来た木が最大で、その周囲にも明治神宮にありそうな木々が生えているが、十数本と数が少なく、森という規模ではなない。周囲は見渡す限りの草原(くさはら)で、視界の及ぶところに集落も山並みも見えない。
せめて道でもあればいいのだが……ヒルデと手分けして探っても、四方八方に道の痕跡のように草が疎らになっているところがあるのみで、そのいずれもが20メートルもたどると草原の中に溶けてしまって先をたどれない。
「……少し冷えてきたか」
ひとり言だったのだけど、ヒルデが反応してくれる。
「ああ、どうやら、あの太陽は南中を過ぎて日没まで三時間といったところだ。さっきまでは、上る朝陽か沈み始めの夕陽か分からなかったが高度が下がってきているから夕陽に違いない」
「ということは、そっちが西でこっちが東。向こうが北か……魔王は北に設定されていることが多いけど、必ずというわけじゃないしなあ」
「そもそも、魔王退治などには興味は無い。このブリュンヒルデには行くべき場所がある」
「行くべき場所?」
「あ、ああ……たいていの人間にはそういう場所があるだろう、朝なら仕事場、夕暮れなら自分の家とか、あるいは……ま、そういうところだ」
なにか誤魔化したようだが、知り合って一時間ほどの人間が踏み込んでいいことではないだろう。
と思うと、三回続いた会話が途切れてしまう。
俺は波のある性格で、紙屑が燃えるように饒舌になれることもあるが、電池が切れたように喋れなくなることがある。そういう時に無理に喋ると破綻して、往々にして人を不快にさせたり誤解されたりする。
ヒルデとは知り合って一時間、まして、この異世界。いいかげんな会話は控えた方がいい。
「少しの間、向こうに行っているが気にしないでくれ」
「え?」
「用を足しに行くんだ」
「は?」
「わたしは気にしないが、知り合って間がないからな、いちおう断っておく」
え、若い女性が、それも甲冑に身を固めたまんまで。
コスプレの大変さは分かっている。たいてい一度身に付けたら着脱は大変で、冬場のレイヤーたちは直前の水分摂取は控えている。ましてヒルデは本物の甲冑を見に着けて……そうだ、俺にはトイレのチートスキルがあるんだった!
「それなら、トイレを出してあげるから!」
「トイレ?」
「ああ、すぐに」
インタフェイスを出してトイレスキルから、新品の公衆トイレというのをクリックした。
ドン
「「おお!」」
六本木にあったような円形の公衆トイレが出てきて、その完ぺきさにヒルデとともに驚いてしまった。
「なんだこれは!?」
ヒルデは初めて見るんだ(^_^;)
「これは公衆トイレと言って……」
女性だし、ちょっと教えるのに抵抗があったけど、今どきの最新式なので外人観光客にも分かるようにイラスト付きの説明がついていて呑み込みは早かった。
「おお、便利なものだなあ! ん……しかしこれは……?」
ウォシュレットには感動するが、オトヒメには首をかしげるヒルデ。
そうか、日本人以外は、あまりそういう音を気にしないものだと、なにかの本で読んだ気がする。
「それじゃごゆっくり」
「なにをゆっくりするのだ?」
「あ、いやべつに」
「変な奴だなスグルは」
扉の前で待っているのも変なので、少し離れていようと木の根元まで戻り、木を背中にしゃがんだところで、ヒルデが出て来た。
「あ、なにか使い方分からなかった?」
「いや、もう済んだ」
「え?」
「戦乙女だ、こういうことに時間はかけん。いや、ウォシュレットには驚いたが、あらかじめ教えてくれていたんで……それでも、あの水の勢い、あやうく声が出るところだったがな(^_^;)」
「いや、でも、その甲冑姿……」
さっき木の上から下ろしてやる時に大変だったのを思い出す。あり得ない早やさだ。
「バカだなあ、いちいち脱ぐわけはなかろうが」
「え、いや、だって……」
さすがに、それ以上は話題にするのがはばかられる。
「ハハ、おかしなやつだな」
「あ、いや……」
一人で気まずくなっていると、二人の前に女神がにじみ出て来た。
☆彡 主な登場人物
・鈴木 秀(すずきすぐる) 三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ ブァルキリーの戦乙女
・女神 異世界転生の境に立つ正体不明の女神
・秀の友人たち アキ 田中
005: 始まりの草原に公衆トイレを出す
さて……落ち着いてみると、どっちへ行っていいか分からない。
テンプレート的に『勇者の旅は魔王退治と決まっていま~す』と言われたが、果たして魔王なる者がどのような者なのか、どこにいるのかまるで分らない。
そもそも、ヒルデと佇んでいるこの場所からして取りとめがない。
草原のど真ん中に十数本の木が立っていて、ヒルデが落ちて来た木が最大で、その周囲にも明治神宮にありそうな木々が生えているが、十数本と数が少なく、森という規模ではなない。周囲は見渡す限りの草原(くさはら)で、視界の及ぶところに集落も山並みも見えない。
せめて道でもあればいいのだが……ヒルデと手分けして探っても、四方八方に道の痕跡のように草が疎らになっているところがあるのみで、そのいずれもが20メートルもたどると草原の中に溶けてしまって先をたどれない。
「……少し冷えてきたか」
ひとり言だったのだけど、ヒルデが反応してくれる。
「ああ、どうやら、あの太陽は南中を過ぎて日没まで三時間といったところだ。さっきまでは、上る朝陽か沈み始めの夕陽か分からなかったが高度が下がってきているから夕陽に違いない」
「ということは、そっちが西でこっちが東。向こうが北か……魔王は北に設定されていることが多いけど、必ずというわけじゃないしなあ」
「そもそも、魔王退治などには興味は無い。このブリュンヒルデには行くべき場所がある」
「行くべき場所?」
「あ、ああ……たいていの人間にはそういう場所があるだろう、朝なら仕事場、夕暮れなら自分の家とか、あるいは……ま、そういうところだ」
なにか誤魔化したようだが、知り合って一時間ほどの人間が踏み込んでいいことではないだろう。
と思うと、三回続いた会話が途切れてしまう。
俺は波のある性格で、紙屑が燃えるように饒舌になれることもあるが、電池が切れたように喋れなくなることがある。そういう時に無理に喋ると破綻して、往々にして人を不快にさせたり誤解されたりする。
ヒルデとは知り合って一時間、まして、この異世界。いいかげんな会話は控えた方がいい。
「少しの間、向こうに行っているが気にしないでくれ」
「え?」
「用を足しに行くんだ」
「は?」
「わたしは気にしないが、知り合って間がないからな、いちおう断っておく」
え、若い女性が、それも甲冑に身を固めたまんまで。
コスプレの大変さは分かっている。たいてい一度身に付けたら着脱は大変で、冬場のレイヤーたちは直前の水分摂取は控えている。ましてヒルデは本物の甲冑を見に着けて……そうだ、俺にはトイレのチートスキルがあるんだった!
「それなら、トイレを出してあげるから!」
「トイレ?」
「ああ、すぐに」
インタフェイスを出してトイレスキルから、新品の公衆トイレというのをクリックした。
ドン
「「おお!」」
六本木にあったような円形の公衆トイレが出てきて、その完ぺきさにヒルデとともに驚いてしまった。
「なんだこれは!?」
ヒルデは初めて見るんだ(^_^;)
「これは公衆トイレと言って……」
女性だし、ちょっと教えるのに抵抗があったけど、今どきの最新式なので外人観光客にも分かるようにイラスト付きの説明がついていて呑み込みは早かった。
「おお、便利なものだなあ! ん……しかしこれは……?」
ウォシュレットには感動するが、オトヒメには首をかしげるヒルデ。
そうか、日本人以外は、あまりそういう音を気にしないものだと、なにかの本で読んだ気がする。
「それじゃごゆっくり」
「なにをゆっくりするのだ?」
「あ、いやべつに」
「変な奴だなスグルは」
扉の前で待っているのも変なので、少し離れていようと木の根元まで戻り、木を背中にしゃがんだところで、ヒルデが出て来た。
「あ、なにか使い方分からなかった?」
「いや、もう済んだ」
「え?」
「戦乙女だ、こういうことに時間はかけん。いや、ウォシュレットには驚いたが、あらかじめ教えてくれていたんで……それでも、あの水の勢い、あやうく声が出るところだったがな(^_^;)」
「いや、でも、その甲冑姿……」
さっき木の上から下ろしてやる時に大変だったのを思い出す。あり得ない早やさだ。
「バカだなあ、いちいち脱ぐわけはなかろうが」
「え、いや、だって……」
さすがに、それ以上は話題にするのがはばかられる。
「ハハ、おかしなやつだな」
「あ、いや……」
一人で気まずくなっていると、二人の前に女神がにじみ出て来た。
☆彡 主な登場人物
・鈴木 秀(すずきすぐる) 三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ ブァルキリーの戦乙女
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