待ての勇者と急ぎの姫騎士

武者走走九郎or大橋むつお

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041:トゥルクビルトを追ってスリップストリーミング

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待ての勇者と急ぎの姫騎士

041:トゥルクビルトを追ってスリップストリーミング




 パシ!

「な( ゜Д゜#)!?」

「追いかけるぞ!」

 気絶しかけた俺はヒルデのビンタで起こされて、そのままヒルデの後に続いた!

 
 タタタタタタタタタタタタタ…………


 奴は手練れの幻影魔術師、どんな手を使ってたぶらかしてくるか知れたもんじゃない。

 乱闘の動揺から立ち直る前に片付けなければ、どんな攻撃を仕掛けてくるか……立ち直る前にやっつけなければ……なによりもエマを取り戻さなければな! やつは、ズィッヒャーブルグ一番の幻影魔術師にして往年のベテラン冒険者だ、愚図っていれば逃げられる! 手遅れになる!

 ビュビューーーーン

 ヒルデも同じ思いなんだ、俺のすぐ前を風を切りながら疾走している。

 ビュビューーーーン

 俺もいつもより足が軽い。速い。エマを取り返したい一心なんだが、この足の軽さ速さは……スリップストリーミングだ!


『レースゲームの基本、アウト・イン・アウトのコース取り、ドリフトテクニック、そしてスリップストリーミング!』

 月に二度ほど、営業の合間にゲーセンに連れていかれた。やるのは決まってレースゲームだ。格ゲーはエネルギーを使いすぎる。クレーンゲームは底なし沼。先輩はレース専門。

『高速で走る車の直後に付けると性能以上の速度が出せる。リアルもゲームも同じ。だから、後続車は前の車にピッタリ付けるんだ。そして、コーナーに差し掛かった時に華麗にドリフトをカマして前の車を追い抜く! 多少のスペックの差なんて、このテクニックで一気に挽回できるのさ!』

 そうやって、どのサーキットを走っても先輩は三位以下に落ちることは無かった。むろん、俺は一度も先輩に勝てたことが無かったけどな。


 おっと、このテクニックは適度な車間が肝だ。遅れると乱れた気流にハンドルを持っていかれる。近づきすぎるとぶつかって壮大にクラッシュしてしまう。

 そろそろ奴の姿も見えるだろう……少しだけ車間距離を取るか。

 そう判断した時、先行車、いやヒルデが急停止した!

「オワ( ゜Д゜)!」

 キキキーーーー!

「奴は、まだ温泉だ!」

「え?」

「戻るぞ!」

「あ、ちょっと……」

「あの状況で姿をくらましたら、街道を先に行ったと思うだろ。奴は、その裏をかいて温泉に留まっている。奴にも二三発は食らわせたからな!」

「あ、そ、そうか!」

 スリップストリームをカマす余裕もなくヒルデは俺を引きはがし、全速で戻っていく。

 ぶちのめした奴らは正気に戻ったんだろう、討伐隊のコスやら装備やらを脱ぎ散らかして消えていた。

 ガラガラ!

 温泉の引き戸を音を立てて開ける!

 ヌヌ!

 そこには、一級品の装備に身を固めた男女の戦士が剣を構えて待ち構えていやがった。

「ここから先は通さぬ!」「ここで死ね!」

 え、こいつら?

 たぶらかされた湯治客は全滅させたはず……よく見れば、美女とイケメン! なんか腹立つ! 

 と……考える間もなく撃ちかかってきやがる!

「「トリャーー!!」」

 天井すれすれに跳躍する二人! ヒルデの方に男! 俺の方には女戦士!

 直上から打ちかかろうとする女戦士、そのチュニックが翻り、股の付け根が見える。

 むろんパンツは穿いているが、そのクロッチの際に見えた黒子(ホクロ)は……え?


 さっきの婆さん( ゜Д゜)!?


 気づいたけれど勢いは止められない!

 ドガ

 なんとか八割に力を落として蹴りを入れる。

 シュ ブン! チュィーン ☆

 しかし、簡単にいなされ、ソードを横薙ぎにしてくるので剣で払いのける! ヒルデも男の大剣を凌いで打ちかかるがチュニックの端を切っただけで躱されている。

「見かけだけじゃない! そこそこに力がある、油断するな!」

「でも、本性は年寄りだぞ!」

 年寄りと分かって本気では戦えない。

「お婆さん、しっかりしてくれ! あんたらは魔術でたぶらかされ……」

 シュ シュシュッ チュイーンチュイーン ガキン シュイン ガキンガキン チュイーン

 くそ、躱す一方だ! 隙を掴んで打ちかかっても本気では打てない。そこそこの女剣士だが、本性は親……もしかしたら亡くなった祖父ちゃん祖母ちゃんくらいの年寄りだ、ブチのめすわけにはいかない!

 チュイーンチュイーン ガキン シュイン

「待て、待ってくれ! あんたらはトルクビルトに魔術で若がえさせられ……」

 シュイン ガキンガキン! チュイーン!

「…………セイッ!!」

 ガッキーーーン! ギリギリギシギシ……

 強力に打ちかかられ、そのまま鍔ぜり合いになる。捻れば躱せるが勢いで相手の胴を払ってしまう……殺さないまでも、相当のけがを負わせてしまう!

 ドコン!

 鈍い音がしたかと思うと、ヒルデがソードの柄で女戦士の延髄を打って昏倒させた。その向こうでは、戦士が爺さんの姿に戻って泡を吹いている。

「殺したのか!?」

「いまから回復魔法をかける」

「白魔法使えんのかぁ?」

「エマの二割程度には、なに、少しは手加減した、大丈夫だろ……」

 目をそらせながら先にブチのめした爺さんにケアルをかけるヒルデ。

 俺の白魔法はヒルデほどにも効果が無い。ストレージからとっておきのハイポーションを出して……固まってしまう。婆さんは昏倒していて自力では飲めそうにない。

「口移しでやればいいだろ」

「だって……」

 婆さんは魔法が解け切ってなくて、若い女戦士のままだ……(#-.-#;)


 
☆彡 主な登場人物

・鈴木 秀(すずきすぐる)    三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ         ブァルキリーの戦乙女
・エマ              バンシーのメイド
・女神              異世界転生の境に立つ正体不明の女神
・ハンス・バウマン        ズィッヒャーブルグのギルドマスター
・フンメル            西の墓地に葬られている一万年前の勇者
・カルマ             フンメルとパーティーを組んでいたエルフの魔法使い
・トルクビルト          ズィッヒャーブルグの幻影魔法士(娘:ビアンカ、カリーナ)
・秀の友人たち          アキ 田中
・魔物たち            ガイストターレン
  
 
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