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53『院長先生』
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RE・かの世界この世界
53『院長先生』テル
ここの子たちは、みな戦災孤児です。
院長先生は、ごく当たり前のことを言った。
ヴァイゼンハオスというのは孤児院という意味なのだから、当たり前だ。
「そうですね、当たり前のことです」
表情を読んだのか、言い当てられてしまった。
「ムヘンで一番安全なところですが、最も辺鄙なところでもあります。だから、ここが孤児院であることを誰も疑いません」
「なんだか意味深ですね」
「じつは、大切な人を預かっているのです。それをカモフラージュするために孤児院をやっています」
「どういうことでしょう?」
グリとふたりで顔を見合わせてしまった。
「十年前に、さるお方からとても大切な人を匿うように言いつかりました」
「……子どもなんですね?」
院長先生は、黙って頷いた。
「その子を送り届けてはいただけないでしょうか」
「送る?」
「ええ、そこは、その子を戻さなければ成り立たなくなってきているのです」
タングリスはじっと院長先生の目を見ている。事の重大性と自分の任務と院長先生の話の重さを計っているのだろう。具体的な話を聞いてはいないが、話の重さは、先生の人柄と共に伝わってきている。
「詳しいことは申せません。ただ、このムヘンのみならず、この世界全体の命運に関わることだと申し上げておきます」
話は、まだほんのさわりだが、院長先生の目は我々の決意を促している。
「その話だけでは、申し訳ありませんが、答えようがありません」
「……あなたがたが、ここに立ち寄られた理由を考えてください」
「立ち寄った理由?」
それははっきりしている、ブリたちが旅行気分で買い込み過ぎたお菓子を届けに来たのだ。
「ムヘンブルグの北門を出たところで、警戒任務から帰って来たばかりの戦車兵とお話になったでしょ?」
そうだ、車長の軍曹にゲペックカステンのお菓子を発見されて、不審に思われたところをタングリスが、とっさに誤魔化したんだ。シュタインドルフのヴァイゼンハオスに慰問に行くところだと……。
「その場の言い繕いなら、わざわざ来ることも無かったでしょう、そのままノルデンハーフェンに向かわれれば済む話です」
「「な……!?」」
タングリスと揃って愕然とした。
院長先生の言う通り、本来の目的からは何の意味もないことを、何の疑いもなくやってきているのだ。
「じつは、わたしが呪を掛けたのです」
「しゅ?」
「呪いと書きますが、悪意はありません。今は、こんなナリをしていますが、聖戦のころは、さるお方にお仕えする白魔導士でした」
「驚きました、おっしゃる通りです。我々は、ここまで足を運ばなければならない事情は何もなかったんです」
「でも、不快な感じや恐れはありません」
「それは、心の底では、共感いただいているからだと思いますよ。あなた方の任務は……いま、子どもたちを寝かしつけてくださっているブリュンヒルデ姫をヴァルハラにお連れすること」
恐れ入った。院長先生はなにもかもご存じのようだ。
「騙されてはいけませんよ」
いつのまにか間近にやってきたフリッグ先生がニコニコしながらとんでもないことを言う。
「院長先生は孤児院を続けるカモフラージュのために、あの子を預かられたんです」
「あらあら、そうなのかしら?」
「正解は、明日の朝になったら分かる……ということでいかがでしょう。そろそろ日付も変わる時間になってきましたから」
「え、あ、そうですね……」
フリッグ先生の目を見ているうちにグリもわたしも急速に眠くなってきた……。
☆ ステータス
HP:1000 MP:800 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
持ち物:ポーション・20 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル
装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)
☆ 主な登場人物
―― かの世界 ――
テル(寺井光子) 二年生 今度の世界では小早川照姫
ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ
ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘
タングリス トール元帥の副官 タングニョーストと共にブリの世話係
―― この世界 ――
二宮冴子 二年生 不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
中臣美空 三年生 セミロングで『かの世部』部長
志村時美 三年生 ポニテの『かの世部』副部長
53『院長先生』テル
ここの子たちは、みな戦災孤児です。
院長先生は、ごく当たり前のことを言った。
ヴァイゼンハオスというのは孤児院という意味なのだから、当たり前だ。
「そうですね、当たり前のことです」
表情を読んだのか、言い当てられてしまった。
「ムヘンで一番安全なところですが、最も辺鄙なところでもあります。だから、ここが孤児院であることを誰も疑いません」
「なんだか意味深ですね」
「じつは、大切な人を預かっているのです。それをカモフラージュするために孤児院をやっています」
「どういうことでしょう?」
グリとふたりで顔を見合わせてしまった。
「十年前に、さるお方からとても大切な人を匿うように言いつかりました」
「……子どもなんですね?」
院長先生は、黙って頷いた。
「その子を送り届けてはいただけないでしょうか」
「送る?」
「ええ、そこは、その子を戻さなければ成り立たなくなってきているのです」
タングリスはじっと院長先生の目を見ている。事の重大性と自分の任務と院長先生の話の重さを計っているのだろう。具体的な話を聞いてはいないが、話の重さは、先生の人柄と共に伝わってきている。
「詳しいことは申せません。ただ、このムヘンのみならず、この世界全体の命運に関わることだと申し上げておきます」
話は、まだほんのさわりだが、院長先生の目は我々の決意を促している。
「その話だけでは、申し訳ありませんが、答えようがありません」
「……あなたがたが、ここに立ち寄られた理由を考えてください」
「立ち寄った理由?」
それははっきりしている、ブリたちが旅行気分で買い込み過ぎたお菓子を届けに来たのだ。
「ムヘンブルグの北門を出たところで、警戒任務から帰って来たばかりの戦車兵とお話になったでしょ?」
そうだ、車長の軍曹にゲペックカステンのお菓子を発見されて、不審に思われたところをタングリスが、とっさに誤魔化したんだ。シュタインドルフのヴァイゼンハオスに慰問に行くところだと……。
「その場の言い繕いなら、わざわざ来ることも無かったでしょう、そのままノルデンハーフェンに向かわれれば済む話です」
「「な……!?」」
タングリスと揃って愕然とした。
院長先生の言う通り、本来の目的からは何の意味もないことを、何の疑いもなくやってきているのだ。
「じつは、わたしが呪を掛けたのです」
「しゅ?」
「呪いと書きますが、悪意はありません。今は、こんなナリをしていますが、聖戦のころは、さるお方にお仕えする白魔導士でした」
「驚きました、おっしゃる通りです。我々は、ここまで足を運ばなければならない事情は何もなかったんです」
「でも、不快な感じや恐れはありません」
「それは、心の底では、共感いただいているからだと思いますよ。あなた方の任務は……いま、子どもたちを寝かしつけてくださっているブリュンヒルデ姫をヴァルハラにお連れすること」
恐れ入った。院長先生はなにもかもご存じのようだ。
「騙されてはいけませんよ」
いつのまにか間近にやってきたフリッグ先生がニコニコしながらとんでもないことを言う。
「院長先生は孤児院を続けるカモフラージュのために、あの子を預かられたんです」
「あらあら、そうなのかしら?」
「正解は、明日の朝になったら分かる……ということでいかがでしょう。そろそろ日付も変わる時間になってきましたから」
「え、あ、そうですね……」
フリッグ先生の目を見ているうちにグリもわたしも急速に眠くなってきた……。
☆ ステータス
HP:1000 MP:800 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
持ち物:ポーション・20 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル
装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)
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