上 下
54 / 230

54『早朝の四号』

しおりを挟む
RE・かの世界この世界

54『早朝の四号』テル  

 


 朝の諸々の音で目が覚めた。     

 子どもたちのさんざめき、キッチンでお湯が沸いて食器を並べる音、古びた床の軋みと軋ませている足音、野鳥のさえずり、微かな瀬音……それらは騒音ではなく、朝の微睡みをいやますような心地よさがあった。遠い子どものころ、ひょっとしたらわたしが、いまのわたしであるもっと前のわたしであったころに田舎の祖父母の家で目覚めた時のような安堵感のある諸々の音。

 その優しい音たちに、もう一つの聞き慣れた音が混じって来た。

 キュロキュロキュロキュロ……

 二号ではない、三号……四号か……?

 四号の履帯の音であると気づくと同時に、一気に現実に戻った。

 パンツァージャケットを掴むと片方袖を通しただけで庭に出た。

 子どもたちも二人の先生も出ていたが、上り坂に差し掛かった四号に目を奪われて、お早うの挨拶も返ってこない。

「タングニョ-ストが四号で追いかけてきました」

「グニさんが?」

 村の廃墟の中を生きた戦車が通ると、豆戦車の二号でも逞しく見えるが、二号よりも二回りも大きな四号は神がかって見えるほどだ。

 四号がゲートから入ってくると、子どもたちが一斉に駆け寄る。

 わーー! おっきい! つよそー! 昨日のよりかっくいい!

 事故が起こってはいけないので、四号はゲートを入っていくらも進まないところで停車した。

 むろん先生たちや、いつのまにか混じって来たヒルデとケイトも制止しているんだけども、言うことを聞くような子たちじゃない。

 ガチャリ

 砲塔のキューポラではなくて、一段下の操縦手のハッチが開いた。

「トール元帥のご指示で伺いました、元帥副官のタングニョーストです。早朝からお騒がせして申し訳ありません」

 院長先生への挨拶が終わると、申し訳なさそうな顔で近づいてきた。

「元帥にバレてしまいましてね、わたしが二号を回したことが」

 まさか、二号を取り上げて、ここからは歩いて行けとか……。

「二号では力不足だろうとおっしゃって、急きょ四号を持ってきた次第です」

 
 四号は重量で二号の三倍近くあり、武装が優れているだけでなく、居住性も段違い。例えば、二号の出入りは砲塔のキューポラ一か所だけだけど、四号は定員五人に対して一つづつのハッチがある。走破性にも優れ、整備も簡単だ。

「ちょうどいいわ、四号のタングニョーストさんもいっしょに朝ごはんにしましょう。今朝は水も豊富なので、パンも柔らかいし、スープも付けたわよ」

 わあースープ! やわらかパン! パンパンパン!

 子どもたちの目が輝く。好奇心より食欲が優先されるのは、やっぱり、シュタインドルフの厳しさなのだろう。

「で、タングニョーストは帰りどうするんだ?」

「二号に乗って帰るつもりだ」

 タングリスもわたしも順当な考えだと思ったが、ヒルデが飛躍したことを思いつてしまった。

 
「なあ、二号のエンジンを外してジェネレーターにすればポンプが生き返るんじゃないか?」

 
 先生たちは遠慮気味に、子どもたちは、とても無邪気に――それがいい!――と賛成した。

 そのことと、例の子どもを一人連れて行くことで、事態は二転三転することになった。




☆ ステータス

 HP:1000 MP:800 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・20 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル
 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 
☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘
 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にブリの世話係

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 
しおりを挟む

処理中です...