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56『堕天使ブリュンヒルデだぞ!』
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RE・かの世界この世界
56『堕天使ブリュンヒルデだぞ!』テル
二号のエンジンでポンプを動かすのだ!
普段の倍ほど目を輝かせて、ヒルデは宣言した。
ムヘン街道での出会い以来、中二病的に言動が大げさなブリだが、この時は最高に大げさだった。
「タングニョーストが主命により四号を運んできたのは天啓である! シュタインドルフの村とヴァイゼンハオスを救い、その善行により我と我が眷属たちのステータスを上げるのだ! さあ、みな打ち揃って庭に集い、このブリュンヒルデの奇跡を目に焼けつけるがいい!」
「無理です、二号は十トンに満たない軽戦車とは言え、エンジンの重量だけで七百キロはあります。クレーンはおろか、目ぼしい工具も無い状態では作業できません」
ここに至って身分を隠しても仕方がないので、タングリスは臣下の物言いで、しかし、キッパリとNOを突き付けた。
タングリスの方が正しいと思う。
ヒルデは確かにオーディンの娘で姫騎士で多少の武術には秀でている。が、それは、わたしやケイトと変わらない駆け出し勇者のレベルで、とても戦車のエンジンを抜きだしてポンプに付け替えるような力は無い。いや、魔法だ。小なりと言えど戦車だ。その戦車のエンジンを取り外すのにはクレーンが無い現状では重力魔法を使う以外に道はない。ヒルデの魔力は戦闘においてさえ三十キロそこそこの自分の体を飛ばせる程度でしかない。とても七百キロのエンジンを浮遊させてポンプ小屋に運べるものではない。それに、運んだ後にいろいろ繋いで、きちんと動かすには、電気技師のスキルか機械を魔法で操るマキナ系の魔力がいる。
「益体もないことを申すな! 我は、主神オーディーンの娘にして堕天使の宿命を背負いたるブリュンヒルデなるぞ。エンジンの一つや二つ意のままに動かせるぞ! 見よ!」
ガチャ ゴトゴト ゴトン ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
庭の方で音がする。みんなで飛び出すと、二号のエンジンルームのカバーが開き、七百キロのエンジンが宙に浮きつつあった! 子どもたちは、それを取り巻いて胸をときめかせているではないか!
うわあああああ(゜O゜)!
「みんな、危ないから、下がりなさい!」
若いフリッグ先生が呼びかけるが、だれも耳に入っていない。
「目に焼き付けるがいい、堕天使ブリュンヒルデの秘めたる力を! さあ、エンジン! 汝は、この時よりシュタインドルフの命の水を絶やさず汲み上げる力となるのだ……汝エンジンに命ず! マキナとしてあるべき所に収まりて、ポンプを稼働せしめよ!」
ヒルデが身をのけ反らしながら、高々と両の手を挙げる!
すると、屋根ほどの高さに上がったエンジンはクルクルと旋回し、壊れたポンプ小屋からは、さまざまのパーツが磁石に吸い上げられるようにして衛星のようにエンジンの周囲を回り、次々とエンジンに接合。接合し終えると、エンジンは旋回を止め、そろりそろりと下りてきて、ジェネレーターに結合された。
ブルン ブルブル ブルン…………
エンジンが動き出し、同時にジェネレーターが発電を始めてモーターを動かし、ポンプが稼働した。
「見たか! ブリュンヒルデの力を!」
決めポーズをとると、ヒルデはポーズのまま仰向けに倒れ、ケイトがかろうじて受け止めた。
「気絶してます」
子どもたちが畏敬……というよりはヒーローショーの主役を見る眼差しで中二病の貴人をとりかこむ。何人かは、目が覚めたらサインをしてもらおうと色紙とサインペンを構えている。
「きみたち!」
タングリスが忌々しそうに子どもたちに呼びかける。
「この人は堕天使なんかじゃない。もう、隠し立てしても仕方がないから言うぞ!」
子どもたちは期待の眼差しでタングリスを見上げる。コホンと勿体を付けて、タングリスは宣言する。
「この人はね、主神オーディーンの娘のブリュンヒルデ姫殿下だ!」
「え、ただの姫さま……?」
「オーディンの娘ってことは、ただの神さま」
「神さまの娘だから……ま、見習いってとこ?」
「……」
口に出しては言わないが、子どもたちは、あきらかに失望している。わけがわからん。
「みんなに話があります」
院長先生が言うと、さすがに口をつぐむ子どもたち。
「魔法とか堕天使とかはいいんです。ブリュンヒルデ姫が渾身の力でポンプを動かしてくれたことをこそ喜び、その感謝を捧げなければなりません。そうでしょ?」
子どもたちを促すように神妙な顔でコクコク頷くフリッグ先生。わたしたちも真似て頷くと、ようやく子どもたちも大人しくなった。
「ブリュンヒルデ姫とお付きの方々はヴァルハラを目指されています。ポンプも無事に直った今、みなさんの中から一人、お供をしてもらいます。ただのお供ではありません。あなたたちのお母さんの元に戻ってお母さんを助け、この世界に真の平和が訪れる手助けをするのです。もちろん、今回はお母さんの存在がはっきりした人になります。お供できるのは一人だけですが、他の人も残念に思ってはいけません。これを皮切りとして、いつの日か、みんなが、お母さんやお父さん、または、それに代わる人を見つけて、あるいは、十分な力を付けて、ここを巣立っていくのですからね」
はーーい!
みんな、お利口に返事する。おそらく、院長先生は、ここ一番というところでしか、こういう話をしないのだろう。
「ブァルハラへの旅は過酷です、厳しいものです、また、姫さまたちのお邪魔になってもいけません。ですので、一人に絞ります。ロキ、フレイ、フレイア、前に出て」
三人は、一様にドキリとした顔になった。
おずおずと前に出ては来たけれど、その緊張が喜びによるものなのか、未知の旅に対する不安なのか、わたしたちには分からなかった。
「それでは、決めます……ジャンケンで!」
ズッコケてしまった。
☆ ステータス
HP:2000 MP:1000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
持ち物:ポーション・25 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル
装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)
憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)
☆ 主な登場人物
―― かの世界 ――
テル(寺井光子) 二年生 今度の世界では小早川照姫
ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ
ヒルデ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘
タングリス トール元帥の副官 タングニョーストと共にブリの世話係
―― この世界 ――
二宮冴子 二年生 不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
中臣美空 三年生 セミロングで『かの世部』部長
志村時美 三年生 ポニテの『かの世部』副部長
56『堕天使ブリュンヒルデだぞ!』テル
二号のエンジンでポンプを動かすのだ!
普段の倍ほど目を輝かせて、ヒルデは宣言した。
ムヘン街道での出会い以来、中二病的に言動が大げさなブリだが、この時は最高に大げさだった。
「タングニョーストが主命により四号を運んできたのは天啓である! シュタインドルフの村とヴァイゼンハオスを救い、その善行により我と我が眷属たちのステータスを上げるのだ! さあ、みな打ち揃って庭に集い、このブリュンヒルデの奇跡を目に焼けつけるがいい!」
「無理です、二号は十トンに満たない軽戦車とは言え、エンジンの重量だけで七百キロはあります。クレーンはおろか、目ぼしい工具も無い状態では作業できません」
ここに至って身分を隠しても仕方がないので、タングリスは臣下の物言いで、しかし、キッパリとNOを突き付けた。
タングリスの方が正しいと思う。
ヒルデは確かにオーディンの娘で姫騎士で多少の武術には秀でている。が、それは、わたしやケイトと変わらない駆け出し勇者のレベルで、とても戦車のエンジンを抜きだしてポンプに付け替えるような力は無い。いや、魔法だ。小なりと言えど戦車だ。その戦車のエンジンを取り外すのにはクレーンが無い現状では重力魔法を使う以外に道はない。ヒルデの魔力は戦闘においてさえ三十キロそこそこの自分の体を飛ばせる程度でしかない。とても七百キロのエンジンを浮遊させてポンプ小屋に運べるものではない。それに、運んだ後にいろいろ繋いで、きちんと動かすには、電気技師のスキルか機械を魔法で操るマキナ系の魔力がいる。
「益体もないことを申すな! 我は、主神オーディーンの娘にして堕天使の宿命を背負いたるブリュンヒルデなるぞ。エンジンの一つや二つ意のままに動かせるぞ! 見よ!」
ガチャ ゴトゴト ゴトン ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
庭の方で音がする。みんなで飛び出すと、二号のエンジンルームのカバーが開き、七百キロのエンジンが宙に浮きつつあった! 子どもたちは、それを取り巻いて胸をときめかせているではないか!
うわあああああ(゜O゜)!
「みんな、危ないから、下がりなさい!」
若いフリッグ先生が呼びかけるが、だれも耳に入っていない。
「目に焼き付けるがいい、堕天使ブリュンヒルデの秘めたる力を! さあ、エンジン! 汝は、この時よりシュタインドルフの命の水を絶やさず汲み上げる力となるのだ……汝エンジンに命ず! マキナとしてあるべき所に収まりて、ポンプを稼働せしめよ!」
ヒルデが身をのけ反らしながら、高々と両の手を挙げる!
すると、屋根ほどの高さに上がったエンジンはクルクルと旋回し、壊れたポンプ小屋からは、さまざまのパーツが磁石に吸い上げられるようにして衛星のようにエンジンの周囲を回り、次々とエンジンに接合。接合し終えると、エンジンは旋回を止め、そろりそろりと下りてきて、ジェネレーターに結合された。
ブルン ブルブル ブルン…………
エンジンが動き出し、同時にジェネレーターが発電を始めてモーターを動かし、ポンプが稼働した。
「見たか! ブリュンヒルデの力を!」
決めポーズをとると、ヒルデはポーズのまま仰向けに倒れ、ケイトがかろうじて受け止めた。
「気絶してます」
子どもたちが畏敬……というよりはヒーローショーの主役を見る眼差しで中二病の貴人をとりかこむ。何人かは、目が覚めたらサインをしてもらおうと色紙とサインペンを構えている。
「きみたち!」
タングリスが忌々しそうに子どもたちに呼びかける。
「この人は堕天使なんかじゃない。もう、隠し立てしても仕方がないから言うぞ!」
子どもたちは期待の眼差しでタングリスを見上げる。コホンと勿体を付けて、タングリスは宣言する。
「この人はね、主神オーディーンの娘のブリュンヒルデ姫殿下だ!」
「え、ただの姫さま……?」
「オーディンの娘ってことは、ただの神さま」
「神さまの娘だから……ま、見習いってとこ?」
「……」
口に出しては言わないが、子どもたちは、あきらかに失望している。わけがわからん。
「みんなに話があります」
院長先生が言うと、さすがに口をつぐむ子どもたち。
「魔法とか堕天使とかはいいんです。ブリュンヒルデ姫が渾身の力でポンプを動かしてくれたことをこそ喜び、その感謝を捧げなければなりません。そうでしょ?」
子どもたちを促すように神妙な顔でコクコク頷くフリッグ先生。わたしたちも真似て頷くと、ようやく子どもたちも大人しくなった。
「ブリュンヒルデ姫とお付きの方々はヴァルハラを目指されています。ポンプも無事に直った今、みなさんの中から一人、お供をしてもらいます。ただのお供ではありません。あなたたちのお母さんの元に戻ってお母さんを助け、この世界に真の平和が訪れる手助けをするのです。もちろん、今回はお母さんの存在がはっきりした人になります。お供できるのは一人だけですが、他の人も残念に思ってはいけません。これを皮切りとして、いつの日か、みんなが、お母さんやお父さん、または、それに代わる人を見つけて、あるいは、十分な力を付けて、ここを巣立っていくのですからね」
はーーい!
みんな、お利口に返事する。おそらく、院長先生は、ここ一番というところでしか、こういう話をしないのだろう。
「ブァルハラへの旅は過酷です、厳しいものです、また、姫さまたちのお邪魔になってもいけません。ですので、一人に絞ります。ロキ、フレイ、フレイア、前に出て」
三人は、一様にドキリとした顔になった。
おずおずと前に出ては来たけれど、その緊張が喜びによるものなのか、未知の旅に対する不安なのか、わたしたちには分からなかった。
「それでは、決めます……ジャンケンで!」
ズッコケてしまった。
☆ ステータス
HP:2000 MP:1000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
持ち物:ポーション・25 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル
装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)
憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)
☆ 主な登場人物
―― かの世界 ――
テル(寺井光子) 二年生 今度の世界では小早川照姫
ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ
ヒルデ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘
タングリス トール元帥の副官 タングニョーストと共にブリの世話係
―― この世界 ――
二宮冴子 二年生 不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
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