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74『タングリスと以心伝心の目配せ』

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RE・かの世界この世界

74『タングリスと以心伝心の目配せ』テル 

 


 乾杯の後は宴になった。

 いつの間にか広場のあちこちにテーブルが出され、そのテーブルを中心に人々が思い思いに集まってビールを飲んだり、山ほど用意された料理に手を伸ばして盛り上がっている。二十人ほどの楽隊がポルカのような軽快な音楽を奏で、町の人たちが二人一組で手を取り合ってステップを踏みはじめた。

 誰が指揮をしているわけでもないのに、ステップの輪は広場の噴水ステージを二重に取り巻く大きな輪に育ち、文字通りのフェスティバルになった。

「オイラたちも入っていいかなあ」

 ロキが目を輝かせながらも、しおらしくタングリスに聞く。

「ああ、いいとも。ここから見ていてやる」

「よし、行くぞ!」

「こら、引っ張んなあ!」

 ロキはケイトの手を取って踊りの輪の中に入っていく。

―― 見物だけとはつまらない ――

 うわーー!

 歓声があがったかと思うと、タングリスもブリュンヒルデも町長や町の若者に手を引かれていってしまった。

 臆したわけではないが、わたしは山車の陰に回ると、クルクルと踊っている人やビールの泡を飛ばしている酔っぱらいたちをかいくぐって、迎賓館のポーチに移った。宴もたけなわなのだろうが、一人ぐらいは覚めた頭で控えていないと、いざという時に対応できないと思ったからだ。

 タングリスも分かっているようで、踊りの輪の中で揉みくちゃになりながらも―― あとで代わる―― と以心伝心の目配せ。

 男たちは民族衣装のボレロに似た上着を脱ぎ、肘まで袖をまくり、それでも羽毛の付いた帽子だけは脱がずに。若い女たちのスカートには仕掛けがあって、膝下や、あるいは膝上10センチくらいのところから取り外せるようになっていて、元気に楽しく踊っている。

 冴子が得意にしていた日本の神話や昔話に似たものがあった、天岩戸の前で、岩戸に身を隠した天照を誘い出そうとやったお祭り騒ぎ。盆踊りの原型になったと言われる歌垣とかね。

 え、えと、冴子って……誰を思い出したんだ?

「いやあ、クリーチャー相手の戦闘の方が楽かもしれんなあ(;'∀')」

 十分もすると、ジョッキを二つ持ってタングリスがやってきた。ドレスは股下5センチほどになって、フリフリの袖も肩口から無くなっている。

「暑くて外したら、子どもたちが持って行ってしまった」

「あはは、戦隊物の女戦闘員みたいだ」

「あはは、お互いにな」

 気づくと、いつのまにか自分でもスカートを短くしていた。

「みんなタフだ。気は抜けないが、ま、一杯ひっかけてからでもいいだろう」

「そうだな、我々も、ようやくチームになりかけてきたな」

 縁の下の力持ち同士、小さく乾杯。特に言葉を交わすこともないが、これからの旅への覚悟と労いを交わすことができた。

「さ、交代するよ!」

 ポーチの陰から出ると、相変わらず盛り上がっている踊りの輪。だが、さすがに疲れたのか充電しているのか、柱にもたれかかったり、テーブルに突っ伏している者がチラホラ。

「大丈夫かい?」

 そんな一人の肩に手を置いて……驚いた。



 石化している《゚Д゚》!?



―― メデューサが入り込んでいる(⊙ꇴ⊙)! ――

―― 声を立てるな、パニックになる(`エ´*) ――



 タングリスが二度目の目配せをした。




☆ ステータス

 HP:2500 MP:1200 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・35 マップ:4 金の針:20 所持金:500ギル(リポ払い残高80000ギル)
 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 
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