ここは世田谷豪徳寺

武者走走九郎or大橋むつお

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29《成人式と蝉の抜け殻》

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ここは世田谷豪徳寺 (三訂版)

第29話《成人式と蝉の抜け殻》さつき 




 来年の成人式には出ないだろうと思った。


 去年の成人式は大荒れだった。暴走族が早くから集結し、式の最中に舞台に上がってメチャクチャにしたらしい。
 成人式は終戦直後、荒廃した日本の社会に成人として羽ばたいていく若者たちに、せめてものはなむけにと始まったものだ。

 今は、ただ慣例化して行われているルーチンワークのようなセレモニーにすぎないしね。

 それに、あの晴れ着というのは落ち着かない。大の大人が七五三やってるみたいだし。

 七五三の写真は、仏頂面で写ってる。あくる年に撮ったさくらのは、かわいく写ってる。
 あんまり「可愛い可愛い(^▽^)」と言われてるし「子どもの頃に可愛いやつは、大きくなったらブスになるよ」と言って泣かしてやった。

 犬養のおいちゃん、中学に入ったころから「成人式が楽しみだねえ」と言っていた。おいちゃんには娘さんがいたらしいんだけど、子どもの頃に亡くなっている。だから、わたしのこともさくらのことも娘のように思ってくれて、忙しい両親に代わって自転車を乗れるようにしてくれたのもおいちゃんだったしね。

 そのおいちゃんも亡くなったし。もういいだろうと思う。

「秋元クンは、来年どうするの?」

 バイトの休憩時間に聞いてみた。

「オレ、親父が警察だから……やっぱ、出るかな」

 補充注文カードを整理しながら呟くように言った。仕事熱心というよりは、この話題には乗りたくないというのが本音のようだ。そういう態度をとられると、ますます絡んでみたくなる。

「お父さんのメンツで決めるの?」

「オレ、大阪の東成ってとこなんだ。なんてのかなぁ、大阪でも、わりと地縁結合が強いところでさ……友だちもみんないくし……」

「でもさ、成人式ぐらい、自分の意志で決めてもいいんじゃない?」

「え、ああ、まあ、そうだけど……」


 この生返事で、話の接ぎ穂が無くなってしまった。

 考えたら、いらぬお節介。黙々と仕事に励む。

 キャ!

 バックヤードの奥でサトコちゃんの悲鳴。秋元君がすっとんで行って、わたしも後に続く。

「すみません、段ボール整理してたら……」

 そう言って見下ろした床にはセミの抜け殻が落ちていた。

 あ、ああ……思い当たった。

 去年の夏に店の中で蝉の抜け殻を入った袋をひっくり返した子がいた。どこか公園で遊んでいて見つけたんだろう。店の本で抜け殻の正体を調べていたんだ。ちょっと騒ぎになったけど、その時の抜け殻が一つ空調の風に飛ばされ、人に蹴られして、このバックヤードに残ってしまったんだろう。


 昨日家に帰ると、ご近所の四ノ宮クンが来ていた。


「アイテ、テテテ……もう少し優しくやってくれる」

「どうしたの、四ノ宮くん!?」

「成人式見にいったら、暴走族とケンカになったんだって」

 さくらが、甲斐甲斐しく手当をしている。

「病院行かなくて大丈夫?」

「救急車満員だったの」

「え、なに、それ?」

「暴走族八人ノシちゃって、擦り傷と打ち身だけだから。警察に呼ばれちゃったのよね。で、駅前で一緒になって連れてきたの」

「すんません。お邪魔しちゃって」

 このカップルもよく分からない。同じ一年生でも大学と高校。それが、まるで同い年のお友だち。いや、さくらの方が上に見える。


 ネットで、わが帝都大のホームページにアクセス。後期試験のことを調べようとしていたんだけど、違うものが目に飛び込んできた。

――フランス、クレルモン大学交換留学生募集――

 わたし自身への脱皮の誘いに見えた。
 


☆彡 主な登場人物
佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
佐倉  さつき       さくらの姉
佐倉  惣次郎       さくらの父
佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
秋元            さつきのバイト仲間
四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
四ノ宮 篤子        忠八の妹
明菜            惣一の女友達
香取            北町警察の巡査

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