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71『I want be Nikujyaga!』
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ここは世田谷豪徳寺 (三訂版)
第71話《I want be Nikujyaga!》さくら
メリメリメリ……
鈴奈(りんな)さんの手は、首の付け根にいくと顔の皮をめくり始めた……( ゚Д゚)!
で、そこにはノッペラボーのゆで卵みたいな顔が……現れたわけではない。あいかわらず鈴奈さんの顔だ。
「あたし、自分の顔が持ちたいんだ」
そう言いながら、ガンモの煮付け半分を美味しそうに口に運んだ。
ここは赤坂見附近くの食べ物屋さん。洋食とか和食とか中華の区別なく、オーナーが月ごとに気に入ったメニューを出すというお店。だから行くまでは、今月がなんの料理か分からない。そこが、この店のおもしろいところだそうだ。
「さくらも、リピーターになったらハマるよ」
今月は、日本の家庭料理がテーマのようで、煮物と天ぷらが出てきた。味は、うちの百倍はおいしい。
「このあと、メインのおかず。これが目玉だからね」
シェフってか、ご亭主がおっしゃる。木村さんといって、去年までは大阪のお店で修行していたらしい。
「大阪の、どこにいらっしゃったんですか?」
「南森町の『志忠屋』 狭いけど、味にうるさい店だったな」
「あ、ひょっとして、そこのオーナー滝川さんて言いません!?」
「そうだよ、知ってんの?」
「はい、大阪のロケで使ったお店です!」
「いやあ、もう半年いたら会えてたねぇ」
「じつは、お店のロケでぇ……」
「へえ、そんなことが……」
程よく大阪の話をすると木村さんは厨房に戻った。
お箸の袋を見ると『東京志忠屋』とあった。きっと店の前にもちゃんと看板があったんだろうけど、身の上話で一杯の頭では気が付く余裕がなかった。
「あたし、アメリカに行くんだ」
ガンモの残り半分を口に入れて、モグモグさせながら言った。
「勉強ですか?」
「うん……ハハ、もったいないって顔してるね」
「いえ……でも、おもいろタンポポって全盛じゃないですか」
「十八歳の女子高生だからね。自分で言うのもなんだけど、アイドルとしての人気だけ。五年先は、これじゃもたない。メンバーも方向性微妙に違うしね。その違いが決定的になるまでに、お互い勉強しなおそうということになったの。で、あたしはジャズとロックの勉強」
「二つもですか!?」
「うん、とりあえず。行ってみて自分に向いてる方にシフトしていこうと思ってるんだけどね」
「じゃ、ポップスじゃなくて、ロックかジャズになっちゃうんですか?」
「ううん。そのあたりを人並みにやれるようになったら、日本でちゃんとしたポップスやりたいと思って。ま、ヘタしたら今の人気なんかどっか行っちゃって、この世界から忘れ去られる恐れもあるけどね。人間、やって失敗する後悔よりもやらなかった時の後悔の方が大きいっていうからね」
たった一歳違いだけど、考えてることは、あたしが及びもつかないほど大人。学校で良くも悪くも注目されることなんてことは問題なんかじゃないみたい。
「はい、おまち……」
そのとき木村さんがメインディッシュを持ってきた。
「主菜って言ってほしいな。今月は家庭料理なんだから」
で、それは、我が家でもよくやる肉じゃがだった。
「わあぁ、肉じゃがって、家庭料理のお父さんて感じですね……うん! おいしい。なんだろ、このフワッとしたおいしさは?」
「食材を煮込む前の下ごしらえと、ちょっと日本酒をつかってるとこかな。おっと、それ以上のレシピは企業秘密」
スマホを出しかけたあたしに木村さんのご注意。
「肉じゃがって、元々はビーフシチューなんだよ」
「「え、肉じゃががですか!?」」
鈴奈さんと声が揃った。
「むかし、東郷平八郎さんがね、あ……東郷さんて知ってる?」
「はい、日本海海戦のですね。兄が海上自衛隊なんです」
「じゃ、話は早いな。東郷さんがイギリスの商船学校に入ったときにビーフシチューに出会ってね。調理が簡単で栄養価も高い、日本に帰ってから海軍のマカナイさんと相談して、アレンジしたのが肉じゃがの始まりなんだ」
「ビーフシチューをリスペクトして、日本料理の定番にしたんですね!」
「うん、糸コンニャクいれたところなんて絶妙だね」
「Oh i want be nikujyaga!」
鈴奈さんがきれいな英語で賛美した。
聞くと、鈴奈さんは六歳までアメリカで育った帰国子女だった。先見性と身の軽さは、そんなところも影響しているのかもしれない。
そして、ほんの数か月後に自分の修業時代が来るとは思ってもいないわたしだった……。
☆彡 主な登場人物
佐倉 さくら 帝都女学院高校1年生
佐倉 さつき さくらの姉
佐倉 惣次郎 さくらの父
佐倉 由紀子 さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
佐倉 惣一 さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
佐久間 まくさ さくらのクラスメート
山口 えりな さくらのクラスメート バレー部のセッター
米井 由美 さくらのクラスメート 委員長
白石 優奈 帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
原 鈴奈 帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
坂東 はるか さくらの先輩女優
氷室 聡子 さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
秋元 さつきのバイト仲間
四ノ宮 忠八 道路工事のガードマン
四ノ宮 篤子 忠八の妹
明菜 惣一の女友達
香取 北町警察の巡査
クロウド Claude Leotard 陸自隊員
第71話《I want be Nikujyaga!》さくら
メリメリメリ……
鈴奈(りんな)さんの手は、首の付け根にいくと顔の皮をめくり始めた……( ゚Д゚)!
で、そこにはノッペラボーのゆで卵みたいな顔が……現れたわけではない。あいかわらず鈴奈さんの顔だ。
「あたし、自分の顔が持ちたいんだ」
そう言いながら、ガンモの煮付け半分を美味しそうに口に運んだ。
ここは赤坂見附近くの食べ物屋さん。洋食とか和食とか中華の区別なく、オーナーが月ごとに気に入ったメニューを出すというお店。だから行くまでは、今月がなんの料理か分からない。そこが、この店のおもしろいところだそうだ。
「さくらも、リピーターになったらハマるよ」
今月は、日本の家庭料理がテーマのようで、煮物と天ぷらが出てきた。味は、うちの百倍はおいしい。
「このあと、メインのおかず。これが目玉だからね」
シェフってか、ご亭主がおっしゃる。木村さんといって、去年までは大阪のお店で修行していたらしい。
「大阪の、どこにいらっしゃったんですか?」
「南森町の『志忠屋』 狭いけど、味にうるさい店だったな」
「あ、ひょっとして、そこのオーナー滝川さんて言いません!?」
「そうだよ、知ってんの?」
「はい、大阪のロケで使ったお店です!」
「いやあ、もう半年いたら会えてたねぇ」
「じつは、お店のロケでぇ……」
「へえ、そんなことが……」
程よく大阪の話をすると木村さんは厨房に戻った。
お箸の袋を見ると『東京志忠屋』とあった。きっと店の前にもちゃんと看板があったんだろうけど、身の上話で一杯の頭では気が付く余裕がなかった。
「あたし、アメリカに行くんだ」
ガンモの残り半分を口に入れて、モグモグさせながら言った。
「勉強ですか?」
「うん……ハハ、もったいないって顔してるね」
「いえ……でも、おもいろタンポポって全盛じゃないですか」
「十八歳の女子高生だからね。自分で言うのもなんだけど、アイドルとしての人気だけ。五年先は、これじゃもたない。メンバーも方向性微妙に違うしね。その違いが決定的になるまでに、お互い勉強しなおそうということになったの。で、あたしはジャズとロックの勉強」
「二つもですか!?」
「うん、とりあえず。行ってみて自分に向いてる方にシフトしていこうと思ってるんだけどね」
「じゃ、ポップスじゃなくて、ロックかジャズになっちゃうんですか?」
「ううん。そのあたりを人並みにやれるようになったら、日本でちゃんとしたポップスやりたいと思って。ま、ヘタしたら今の人気なんかどっか行っちゃって、この世界から忘れ去られる恐れもあるけどね。人間、やって失敗する後悔よりもやらなかった時の後悔の方が大きいっていうからね」
たった一歳違いだけど、考えてることは、あたしが及びもつかないほど大人。学校で良くも悪くも注目されることなんてことは問題なんかじゃないみたい。
「はい、おまち……」
そのとき木村さんがメインディッシュを持ってきた。
「主菜って言ってほしいな。今月は家庭料理なんだから」
で、それは、我が家でもよくやる肉じゃがだった。
「わあぁ、肉じゃがって、家庭料理のお父さんて感じですね……うん! おいしい。なんだろ、このフワッとしたおいしさは?」
「食材を煮込む前の下ごしらえと、ちょっと日本酒をつかってるとこかな。おっと、それ以上のレシピは企業秘密」
スマホを出しかけたあたしに木村さんのご注意。
「肉じゃがって、元々はビーフシチューなんだよ」
「「え、肉じゃががですか!?」」
鈴奈さんと声が揃った。
「むかし、東郷平八郎さんがね、あ……東郷さんて知ってる?」
「はい、日本海海戦のですね。兄が海上自衛隊なんです」
「じゃ、話は早いな。東郷さんがイギリスの商船学校に入ったときにビーフシチューに出会ってね。調理が簡単で栄養価も高い、日本に帰ってから海軍のマカナイさんと相談して、アレンジしたのが肉じゃがの始まりなんだ」
「ビーフシチューをリスペクトして、日本料理の定番にしたんですね!」
「うん、糸コンニャクいれたところなんて絶妙だね」
「Oh i want be nikujyaga!」
鈴奈さんがきれいな英語で賛美した。
聞くと、鈴奈さんは六歳までアメリカで育った帰国子女だった。先見性と身の軽さは、そんなところも影響しているのかもしれない。
そして、ほんの数か月後に自分の修業時代が来るとは思ってもいないわたしだった……。
☆彡 主な登場人物
佐倉 さくら 帝都女学院高校1年生
佐倉 さつき さくらの姉
佐倉 惣次郎 さくらの父
佐倉 由紀子 さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
佐倉 惣一 さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
佐久間 まくさ さくらのクラスメート
山口 えりな さくらのクラスメート バレー部のセッター
米井 由美 さくらのクラスメート 委員長
白石 優奈 帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
原 鈴奈 帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
坂東 はるか さくらの先輩女優
氷室 聡子 さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
秋元 さつきのバイト仲間
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