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78『さざれ石・2』
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ここは世田谷豪徳寺・78(さつき編)
『さざれ石・2』
「ここに、もう一つ天守閣があったのよ」
「え、二つも天守閣があったの?」
タクミ君は、不思議そうに言った。
「うん、秀吉が死んだあと、家康は大老の名目で西ノ丸にも天守閣を作って、自分が事実上の天下人であることを形で示したの。大名の多くが、この西ノ丸に挨拶に来るようになったわ」
「ちょっと、今の世界に似てるね」
「あの大手門の脇にあるのが千貫櫓」
「千貫……建築にかかった費用?」
「ううん。大坂城の前の石山本願寺のころから、あそこに櫓があってね、あそこからたくさんの鉄砲で狙われるので、攻めあぐねた信長が『あの櫓を陥とした者には、褒美に千貫やるぞ!』って言ったのが始まりで、それ以来秀吉、家康に引き継がれても、あそこに建った櫓は『千貫櫓』ってよばれるようになったの」
「へえ、歴史にも、いろいろ学ぶところがあるね。天守閣が二つになった段階で、天下の権が移ったことを豊臣が理解していれば、滅びなくて済んだかもしれないし、『千貫櫓』の名前を引き継ぐだけで、程よく威嚇にも親しみにもなる」
あたしとタクミ君は、梅雨の晴れ間の大阪城に来ている。でもデートなんかじゃない。あるものの実用試験を兼ねた任務がある。
「しかし、タクミ君て晴れ男ね。あれだけの雨が、ピタリと止んじゃうんだもん」
「そうかな、ちょっと検索してみよう」
これが今朝決めたばかりの愛言葉。あたしは指輪を外し、タクミ君は自衛隊特製のスマホを取り出した。
「……タクミ晴れ男、で、エンターと」
――読める……C国領事が、瀋陽に向かう――
あたしは、もう一度指輪を嵌めた。
「もう一度試してみよう」
タクミ君は、もう一度「タクミ晴れ男」と打った。今度はタクミ君の心は読めなかった……。
その数時間後、関空で一騒ぎがあった。
C国の瀋陽行きの飛行機に乗ろうとしていた大阪のC国領事が拉致されそうになり、待機していた警察によって、容疑者たちの身柄は確保され、C国領事は、無事に瀋陽に飛び立った。
いくつかのことが明らかになった。
C国は、佐世保沖の海戦以来、分裂の様子がある。
首都を中心とする政府の中枢と、南部の大都市を中心とする分派。軍と地方政府は、どちらについているか分からなかった。表面的には静観の様子だが大阪の領事が動いたように、水面下では勢力争いがおこっており、C国は事実上分裂の方向に動き始めている。
C国は、日本に宣戦布告はしたものの目立った動きをしていない。在留邦人も一応無事だ。政府は事態の流動化を懸念して、帰国勧告を出している。日本企業の撤退は、この一週間で顕著になり、外国資本も逃げ出している。
C国は統一と分裂を繰り返すのが国家的体質である。七十年の統一の時期が終わり、分裂の時期に入ったと言っていいだろう。
もう一つ分かったことは、さざれ石がタクミ君の思念を読み取るバリアーになることである。タクミ君は喜んだ。これでヨコシマナことを思っても、あたしに気づかれずに済む。
ただ、さざれ石を身に着けるかどうかは、あたしの気持ち次第ではあるので、とりあえずC国とのことが決着がつくまでは、自衛隊での生活が続きそうな気配なのだ。
『さざれ石・2』
「ここに、もう一つ天守閣があったのよ」
「え、二つも天守閣があったの?」
タクミ君は、不思議そうに言った。
「うん、秀吉が死んだあと、家康は大老の名目で西ノ丸にも天守閣を作って、自分が事実上の天下人であることを形で示したの。大名の多くが、この西ノ丸に挨拶に来るようになったわ」
「ちょっと、今の世界に似てるね」
「あの大手門の脇にあるのが千貫櫓」
「千貫……建築にかかった費用?」
「ううん。大坂城の前の石山本願寺のころから、あそこに櫓があってね、あそこからたくさんの鉄砲で狙われるので、攻めあぐねた信長が『あの櫓を陥とした者には、褒美に千貫やるぞ!』って言ったのが始まりで、それ以来秀吉、家康に引き継がれても、あそこに建った櫓は『千貫櫓』ってよばれるようになったの」
「へえ、歴史にも、いろいろ学ぶところがあるね。天守閣が二つになった段階で、天下の権が移ったことを豊臣が理解していれば、滅びなくて済んだかもしれないし、『千貫櫓』の名前を引き継ぐだけで、程よく威嚇にも親しみにもなる」
あたしとタクミ君は、梅雨の晴れ間の大阪城に来ている。でもデートなんかじゃない。あるものの実用試験を兼ねた任務がある。
「しかし、タクミ君て晴れ男ね。あれだけの雨が、ピタリと止んじゃうんだもん」
「そうかな、ちょっと検索してみよう」
これが今朝決めたばかりの愛言葉。あたしは指輪を外し、タクミ君は自衛隊特製のスマホを取り出した。
「……タクミ晴れ男、で、エンターと」
――読める……C国領事が、瀋陽に向かう――
あたしは、もう一度指輪を嵌めた。
「もう一度試してみよう」
タクミ君は、もう一度「タクミ晴れ男」と打った。今度はタクミ君の心は読めなかった……。
その数時間後、関空で一騒ぎがあった。
C国の瀋陽行きの飛行機に乗ろうとしていた大阪のC国領事が拉致されそうになり、待機していた警察によって、容疑者たちの身柄は確保され、C国領事は、無事に瀋陽に飛び立った。
いくつかのことが明らかになった。
C国は、佐世保沖の海戦以来、分裂の様子がある。
首都を中心とする政府の中枢と、南部の大都市を中心とする分派。軍と地方政府は、どちらについているか分からなかった。表面的には静観の様子だが大阪の領事が動いたように、水面下では勢力争いがおこっており、C国は事実上分裂の方向に動き始めている。
C国は、日本に宣戦布告はしたものの目立った動きをしていない。在留邦人も一応無事だ。政府は事態の流動化を懸念して、帰国勧告を出している。日本企業の撤退は、この一週間で顕著になり、外国資本も逃げ出している。
C国は統一と分裂を繰り返すのが国家的体質である。七十年の統一の時期が終わり、分裂の時期に入ったと言っていいだろう。
もう一つ分かったことは、さざれ石がタクミ君の思念を読み取るバリアーになることである。タクミ君は喜んだ。これでヨコシマナことを思っても、あたしに気づかれずに済む。
ただ、さざれ石を身に着けるかどうかは、あたしの気持ち次第ではあるので、とりあえずC国とのことが決着がつくまでは、自衛隊での生活が続きそうな気配なのだ。
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