93 / 139
93『MAMORI』
しおりを挟む
ここは世田谷豪徳寺・93(惣一編)
『MAMORI』
その日、課業が終了すると私服に着替えて横須賀の街に出た。
明菜はカウンターの奥に座っていた。
「半年ぶりだな」
そう言いながら、マスターに「いつもの」という顔をしておいた。
この店は、志忠屋といい、大阪、東京に次ぐ3号店で、イタ飯屋の看板をあげた無国籍料理と酒の店だ。
「あたし、こんなことをやってるの」
明菜が名刺を出すのと、ピザが出てくるのが一緒だった。
「あ、あたしのピザなのに……」
ピザの一枚を見敵必殺の呼吸でかっさらうと、明菜がさくらを思い出させるように膨れた。
「妹みたいなこというなよ」
「さくらちゃんはスターよ」
「明菜だってスターだ」
「あたしが?」
「流れ星だけどな。一瞬輝いたかと思うと、すぐに消えちまう……丸川書店MAMORI編集 白川明菜。今度は雑誌社か」
「元防大で採用。女子にターゲットを絞った防衛雑誌。実はね……」
明菜は、この半年を超える空白を埋めるように多弁だった。以前は、こんなに自分から喋る奴じゃなかった。
「はい、いつもの。特盛とレギュラーにしといたよ」
マスターが、そう言いながら定番の海の幸のパスタを並べてくれた。
「レギュラーじゃ足りないだろう。オレの少しやるわ」
フォークとスプーンで、適量分けてやる。
「マスター、ソーセージの盛り合わせも。二人分」
「いいぜ、佐世保沖の記事。一応室長の許可はとらなきゃいけないけどな」
「単に海戦のことだけじゃなくて、手のひら返したような政府と国民の意識も平行して、これは、あたしが書くんだけど」
「その原稿は、あらかじめ見せてくれよな。うちは表に関わることは書けないから」
「大丈夫、文責ははっきり区別しとくから。もちろん事前に見せるけど」
そのあと、薩摩白波を飲みながら、脈絡のない話の末に、明菜がポツリと言った。
「自衛隊が、本当に戦闘やるなんて思わなかった。惣一がサルボーとかテーッなんて実戦で叫んでるとこなんて想像つかない」
「おれは、たかやすじゃ居候みたいなもんだったから、ただ吉本艦長のケツにくっついいていただけさ」
「でも、いずれは、そういう立場になるんだ……」
「……そうだな」
吉本艦長の姿が頭をよぎり、少し厳粛な言い回しになってしまった。
「惣一……」
「うん……?」
オレは前を向いたまま、明菜の言葉を待った。変な沈黙になってしまった。
「じゃ、今夜はありがとう。これがうまくいったら、本採用になれるかもね。いいからいいから、経費で落としとくから」
そういうと明菜は伝票を掴んで、レジに行った。
「あ、小銭ないから、崩すね」
マスターは、そう言って万札をオレにつきつけた。
「もう少し砕けろや。私服なんだしよ」
「え、ああ……」
万札を崩しながら、あいまいな返事にしかならない。
「あ、経費なら領収書いるよね。ごめん切らしてるから、こいつに買わせにいかせるから。一尉さん、そこの文具屋まで行って、水でも飲んで」
言われるままに領収書を買ってきた。マスターはゆっくりと領収書を書いた。
「今度、惣一が命令するとこ見たいわね。あんた、年上の部下にはまだ『実施』としか言えないんでしょ」
「んなことねえよ。明菜も……」
「なによ」
「いつか、かっこよく命令するとこ見せてやっから」
「ハハ、できたら、You Tubeにでも投稿しといて。じゃ、またね」
最後は、いつもの調子で明菜は、ドアの外に消えた。
ドガ!
マスターに、思い切りケツを蹴り上げられた。
『MAMORI』
その日、課業が終了すると私服に着替えて横須賀の街に出た。
明菜はカウンターの奥に座っていた。
「半年ぶりだな」
そう言いながら、マスターに「いつもの」という顔をしておいた。
この店は、志忠屋といい、大阪、東京に次ぐ3号店で、イタ飯屋の看板をあげた無国籍料理と酒の店だ。
「あたし、こんなことをやってるの」
明菜が名刺を出すのと、ピザが出てくるのが一緒だった。
「あ、あたしのピザなのに……」
ピザの一枚を見敵必殺の呼吸でかっさらうと、明菜がさくらを思い出させるように膨れた。
「妹みたいなこというなよ」
「さくらちゃんはスターよ」
「明菜だってスターだ」
「あたしが?」
「流れ星だけどな。一瞬輝いたかと思うと、すぐに消えちまう……丸川書店MAMORI編集 白川明菜。今度は雑誌社か」
「元防大で採用。女子にターゲットを絞った防衛雑誌。実はね……」
明菜は、この半年を超える空白を埋めるように多弁だった。以前は、こんなに自分から喋る奴じゃなかった。
「はい、いつもの。特盛とレギュラーにしといたよ」
マスターが、そう言いながら定番の海の幸のパスタを並べてくれた。
「レギュラーじゃ足りないだろう。オレの少しやるわ」
フォークとスプーンで、適量分けてやる。
「マスター、ソーセージの盛り合わせも。二人分」
「いいぜ、佐世保沖の記事。一応室長の許可はとらなきゃいけないけどな」
「単に海戦のことだけじゃなくて、手のひら返したような政府と国民の意識も平行して、これは、あたしが書くんだけど」
「その原稿は、あらかじめ見せてくれよな。うちは表に関わることは書けないから」
「大丈夫、文責ははっきり区別しとくから。もちろん事前に見せるけど」
そのあと、薩摩白波を飲みながら、脈絡のない話の末に、明菜がポツリと言った。
「自衛隊が、本当に戦闘やるなんて思わなかった。惣一がサルボーとかテーッなんて実戦で叫んでるとこなんて想像つかない」
「おれは、たかやすじゃ居候みたいなもんだったから、ただ吉本艦長のケツにくっついいていただけさ」
「でも、いずれは、そういう立場になるんだ……」
「……そうだな」
吉本艦長の姿が頭をよぎり、少し厳粛な言い回しになってしまった。
「惣一……」
「うん……?」
オレは前を向いたまま、明菜の言葉を待った。変な沈黙になってしまった。
「じゃ、今夜はありがとう。これがうまくいったら、本採用になれるかもね。いいからいいから、経費で落としとくから」
そういうと明菜は伝票を掴んで、レジに行った。
「あ、小銭ないから、崩すね」
マスターは、そう言って万札をオレにつきつけた。
「もう少し砕けろや。私服なんだしよ」
「え、ああ……」
万札を崩しながら、あいまいな返事にしかならない。
「あ、経費なら領収書いるよね。ごめん切らしてるから、こいつに買わせにいかせるから。一尉さん、そこの文具屋まで行って、水でも飲んで」
言われるままに領収書を買ってきた。マスターはゆっくりと領収書を書いた。
「今度、惣一が命令するとこ見たいわね。あんた、年上の部下にはまだ『実施』としか言えないんでしょ」
「んなことねえよ。明菜も……」
「なによ」
「いつか、かっこよく命令するとこ見せてやっから」
「ハハ、できたら、You Tubeにでも投稿しといて。じゃ、またね」
最後は、いつもの調子で明菜は、ドアの外に消えた。
ドガ!
マスターに、思い切りケツを蹴り上げられた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】メインヒロインとの恋愛フラグを全部ブチ壊した俺、サブヒロインと付き合うことにする
エース皇命
青春
《将来ヤンデレになるメインヒロインより、サブヒロインの方が良くね?》
16歳で自分が前世にハマっていた学園ドラマの主人公の人生を送っていることに気付いた風野白狼。しかしそこで、今ちょうどいい感じのメインヒロインが付き合ったらヤンデレであることを思い出す。
告白されて付き合うのは2か月後。
それまでに起こる体育祭イベント、文化祭イベントでの恋愛フラグを全てぶち壊し、3人の脈ありサブヒロインと付き合うために攻略を始めていく。
3人のサブヒロインもまた曲者揃い。
猫系ふわふわガールの火波 猫音子に、ツンデレ義姉の風野 犬織、アニオタボーイッシュガールの空賀 栗涼。
この3人の中から、最終的に誰を選び、付き合うことになるのか。てかそもそも彼女たちを落とせるのか!?
もちろん、メインヒロインも黙ってはいない!
5人の癖強キャラたちが爆走する、イレギュラーなラブコメ、ここに誕生!
※カクヨム、小説家になろうでも連載中!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる