ここは世田谷豪徳寺

武者走走九郎or大橋むつお

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98『さくらのアイドリングな日々・1』

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ここは世田谷豪徳寺

98『さくらのアイドリングな日々・1』



 あたしは、このごろアイドリングのような毎日だ。

『長徳寺の終戦 ファーストレインボウ』の仕事以来、ドラマや映画の仕事が無かった。

 かと言って、まとまった休みが取れるわけでもない。

 ワイドショーやトーク番組、ラジオの仕事などが単発で入っている。いわばアイドリング状態である。

 この日は『プロフェッショナル日本』という番組のロケ取材だった。

 タイトルは地味だけど、関東ローカルで18ぐらいの数字を取っている。8月放送分からは全国ネットになる。その記念すべき第一回のレポーターに、あたしが選ばれた。

 むろんメインではない。メインレポーターは『はるか ワケあり転校生の7カ月』でいっしょになった坂東はるかさん。

『世界一のドール制作』というのが今回のテーマで、気楽なお人形さんの取材だと思っていた。

「「えー、こんなのがあるんですかあ!?」」

 はるかさんと同時に叫んでしまった。ほんとは「キャー!」と言いそうなのを、職業意識で堪えた。

 葛飾にあるその工場は一見普通の三階建ての中小企業。アイボリーの外壁は、そろそろ塗りなおしたほうがいいんじゃないかと思われるくらいの……老舗の会社で、看板も「帝都ドール」と真面目が椅子に腰かけたような名前。

 ところが、清純そうな広報担当のオネーサンが出迎えてくれて、最初に通されたショールームでぶっタマゲタ。

 20畳ほどのスペースには、ベッドやカウチが並べられていて、女の子がいろんな衣装で、寝たり、座ったりしていた。

「これって、言われなきゃ人間だと思っちゃいますね!?」

「驚いたあ……触っていいですか?」

「フフ、ええどうぞ」

「あ、なんか可笑しかったですか?」

 はるかさんが、赤い顔をして聞いた。

「わたしが入社した時も、そっくり同じことを社長に聞きましたから」

「ハハ、ですよね……ウワー、プニプニだあ。さくらちゃんも触ってみ」

 はるかさんは、ネグリジェで寝ている女の子の胸を揉みながら言った。あたしは、横で座っているカットソーに短パンの女の子の太ももに触ってみた。体温が低いことを除いて本物そっくり。

「キャ!」

 はるかさんに、いきなりお尻を掴まれた。

「柔らかさ、いっしょよ!」

 そういうことは言ってからやってほしい……でも、これくらいはレポートを面白くするための演出だと納得する。

「この子たちは、ドイツ製の最高のシリコンで出来てるんです。中はシリコンだけだと重くなるのでウレタンのお肉とジュラルミンの骨格が入っていて、一応人間がとれるポーズは、たいていとれるようになってるんです。

 広報のオネーサンは無造作に女の子の足を持ち上げて、曲げたり開いたり。で、なんちゅーか大事な部分もリアルに作られているので、目のやり場に困った。

「えー、こんなとこマジマジ見たことないけど……この子のはきれいですね!」

 と、はるかさんは平気でご覧になっている。

「ここは完全にボカシですね」

 カメラさんが黙ってうなづいた。

「今度一緒にお風呂入ったら見せっこしよう!」

 はるかさんは計算している。清純そうな自分が、そう言ったときのインパクトを。

「でも、シリコンというのはたいへん静電気を帯びやすいもので、愛情を持ってお世話してあげないといけないんです」

「ほんとだ、あたしが触ったとこ、もうホコリが付いてる」

「そういう時は、軽く水拭きしたあと、ベビーパウダーをはたいてあげるんです」

 オネーサンがやると、赤ちゃんのような匂いがした。

 仕事だけど、なんだか、とんでもない世界に飛び込んだような気がした。そのとき、セーラー服を着た人形が起きだした。

 キャア!

「じゃ、社長に来ていただきます」

「ハハ、社長のお孫さんです。ゲストが来られたとき、ああやって遊んでるんです」

 ああ、訳の分からん世界だ!
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