ここは世田谷豪徳寺

武者走走九郎or大橋むつお

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101≪疎遠な米井由美≫

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ここは世田谷豪徳寺・101(さくら編)

≪疎遠な米井由美≫



 夏休みは、ほとんど成果とか成長とかからは無縁で終わってしまった。

 毎年のことだけれど。

 でも、まったく無かったわけでもない。しいて挙げれば二個ある。
 一つがピンクピーナッツを発見したこと。You Tubeを見ていたら偶然「発見」した。
 アカぬけきっていあない少女たちが、ピーナッツの「情熱の花」と「ふりむかないで」歌って踊っている。
 ピーナッツには昭和の力がこもっていると思う。根拠はないよ。何年か前にナントカってデュオがピーナッツをリカバーライブ、お父さんが照れ隠しにあたしを連れて行った。「いやあ、娘が見たいって言うもんですから」という言い訳のため。

 落語で似たようなのがあった。人前でオナラをする癖がある母親が、万一の言い訳のために息子を連れていく。ついていくと10銭の小遣いがもらえる。ところが、ある日、母親は二回も訪問先で放屁してしまった。

「まあ、この子は人様の前で、二回も。もうしわけありません」
「お母ちゃん、二回で10銭は安いよ!」

 で、バレてしまうというはなし。

 あたしは、大人しくしていたし、お父さんが心配するように人に言い訳しなきゃならない状況にはならなかった。

 で、あたしがハマってしまった。ハマるといっても熱烈なおっかけなんかはしない。動画サイトでピーナッツを探しては録画して観たり聞いたり、スマホのマチウケにするほど浅はかでもない。

 言っとくけど、あたしに音楽的才能なんてのは無い。ただ、なんとなくいいなあと思って聞いている。他にもキャンディーズ、中島みゆき、イルカ(名残雪だけ) かぐや姫、スマップなんか好き。スマップがピンクレディーとコラボしたときなんて、ワクワクした。

 ピーナッツというのは、そういうワクワクの源流みたいな感じ。

 もう一つの成果は『はるか ワケあり転校生の7カ月』の発見。以前は『はるか 真田山学院高校演劇部物語』でネットに出ていた。タイトルを変えて本物の本になったのでビックリするやら、先見の明がビビッとするやら。

 主人公のはるかが、今時こんな女子高生いるかって感じなんだけど。ちょっと抜けててピュアなところが、で、坂東はるかって女優さんのセミドキュメンタリー風。あたしのアンテナの周波数にあった。

 今日は夏休み明けの短縮授業なんで渋谷Tデパートの本屋さんに行った。恵里奈は部活があるので、マクサを誘う。


「あ、絵の展示会やってる」


 エレベーターの中でマクサがささやくように言った。

 見ると印象派っぽい広告が貼ってあった。印象派は好きだしタダで観られるので、本屋さんの階は飛ばして催事場へ。H・大林という人の絵だ。港を海側から見た絵で『魔女の宅急便』の冒頭に似たものを感じる。ヨットの帆柱が林立する向こうに、ローマ時代の水道橋が見えて、その下のあたりが入江か川でがあることを暗示している。印象派的な光の使い方もいいけど、見えないところに空間の奥行きを感じさせるところがいい。
 このコンパクトでツボを押さえた評はマクサ。お茶の家元の娘だけのことはある。

「ちょっと、そのまま、ガラスに目の焦点合わせてみそ」
「え、なに?」
「いいから……」

 あたしが、そう言うとマクサも、ようやく分かった。

 ガラスには、あたしたちと同じ帝都の制服と乃木坂学院の制服のアベックが、絵を観ているのが映っていた。
 乃木坂は、ぜんぜん方角違い。これは、乃木坂の男子が気を使って、渋谷にまで来て、絵の鑑賞をしながらのつつましいデート。

「ウラヤマ~」

 マクサが呟く。あたしも、このアベックのありようをとても好ましく思った。だからして、お邪魔虫にならないよう、二人の視界に入らないように気を使った(n*´ω`*n)。

 ここから問題なのよね!

 一階下の本屋さんのフロアーに行ったら、また、このアベックに出くわした。本屋さんに来ることは問題なし。微笑ましいくらいに、あたしのアンテナには好ましく感じられ。

 ところが、ところがよ。あとがダメダメ!

 女の子は、ファッション雑誌のコーナーで若者向きのファッション雑誌見ながら「かわいい~」「いけてる~」を連発。よくよく見ると、甘ロリのところでキャピキャピ。男の子は、スマホでモバゲーとかやってる感じで、テキトーに返事。で、二人から感じられるのはイケてるオーラ。さっきのつつましさはどこ行ったんだ!

「ちょっ、よしなさいよ」

 マクサの制止をを振り切って横に並ぶ。彼女と同じ雑誌めくって「サイテーのセンスだね!」と独り言。さすがに女の子はムッとして、こちらをチラ見。

「あ、佐倉さん!?」
「あ、(学級委員長の)米井さん!」

 同じクラスで、疎遠な米井由美と初めて会話を交わした瞬間だった。

 

 
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