せやさかい

武者走走九郎or大橋むつお

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039『のりちゃん危機一髪!』

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せやさかい

039『のりちゃん危機一髪!』 
 
 



 え? え?


 目の前ののりちゃんが消えてしもた!?

 キョロキョロしてみると、経机の香炉も消えてる。

 お葬式いうのは、参列者がお焼香するための香炉がある。一般焼香用は式が終わったら片付けてしまうねんけど、親族用のは骨上げの後、初七日もやってしまうので残ってる。けっこうな量のお香がくべてあるねんけど、それが、きれいさっぱり灰になってしもてる。

 ひょっとして……中二病的ヤマ勘やねんけど、お香入れからお香を継ぎ足して火をつけてみる。

 お香の煙が三十センチほど立ち上ると、のりちゃんの声がした。

——お、お経が無いと声しか出されへん——

「どないしたらええのん?」

——えと……お経唱えてみて——

「お経て、知らんし」

 坊主の孫やけど、お経なんて唱えたことない。

——そこらへんに、お経の本あらへん? 法事とかで使うアンチョコみたいな、正信偈とか仏説阿弥陀経とか——

「え? ええと……」

 とっさに探すと見つからへん。

——あ、あ、息が苦しなってきた……お、お経を……——

「ちょ、ちょ、待ってえ!」

——座布団積んだあるとこの、よ、よこ!——

 本堂の隅、座布団の山の横のテーブルにオレンジ色のお経が積んである!

「見つけた! ちょ、待っててね!」

 ダッシュで一冊とって、唱える気持ち満々でページを開く。

「えと、どのお経?」

 目次には、いろんなお経の表題があって、どれやら分からへん。

——ど、どれでも……はよ、して……——

 そない言われても、というか、どれもむつかしい漢字ばっかりや!

 しゃ、しゃあない! どのお経でも共通の六字を唱える!

「南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏……」

——よ、読み方……ちゃう……——

 よ、読み方て、南無阿弥陀仏は「なむあみだぶつ」やろが?

——い、いつもの……読み方……——

 お祖父ちゃんやら、伯父さんやらのを思い出す……分かった!

「なまんだぶ なまんだぶ……」
 
 バチバチバチ!
 
 さっきと同じ音がして、のりちゃんが現れる。

 仰向けにひっくり返って、息も絶え絶え、金魚みたいに口をパクパクさせてる。

 これは、人工呼吸や!

「い、いや、幽霊に人工呼吸は……」

「どないしたら、ええのん?」

「もうしばらく、お念仏を……」

「うん、分かった!」

 なまんだぶを百回ほど唱えると、やっとのりちゃんは落ち着いた。

「よかった、のりちゃんが生き返って!」

「生き返るは、ちょっとちゃうと思うねんけど……とりあえず、ありがとう」

「うん、それで、やり残したことて?」

「うん、それは……えと……えと…」

「えと……忘れてしもた……アハハハ」

「アハハハ……」

 二人で笑うしかない、お葬式の昼下がりでありました。
 
 
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