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079『ポチ袋』
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せやさかい
079『ポチ袋』
うちにも有ったなあ……。
タウン誌をテーブルの上に置いたお祖父ちゃんは、坊主頭を撫でながら廊下の突き当りの納戸に行ってしもた。
何気に、広げたままのタウン誌を見ると、町家歴史館山口家住宅でやってるポチ袋の特別展のことが載ってる。
「お年玉の袋や」
あたしの言い方が美味しそうやったんか、ダミアが膝の上からテーブルに乗り移って、いっしょにタウン誌を覗く。
ミャーー?
ネコ語で「これのなにが美味しいねん?」言うたかと思うと、スタスタと二階のコトハちゃんの部屋に行きよる。
あたしは頼子さんほどのネコ中毒やないのんで、のべつ幕なしモフモフしてやってるわけやない。
そうすると、ダミアはコトハちゃんのとこに行く。コトハちゃんがおらんときは、おばちゃんのとこ。
お年玉の袋を『ポチ袋』というのんを初めて知った。イメージ的には、犬が入れられてる感じ。けど、犬が入ってるわけやない(^_^;)。
タウン誌の説明では、なにか、人に心づけを渡す時に、このポチ袋を使うらしい。
関西でポチというのは「小さな」とか「少ない」とかいう意味があって、少ないお礼、心づけの意味で、舞妓さんがお師匠さんやらご贔屓さんから心づけを頂くのに使われたんが始めとか。
ポチ袋もおもしろいねんけど、写真の『町家歴史館山口家住宅』いうのんもおもしろそう。
堺でも、最も古い木造住宅で、なんでも大坂夏の陣のあとに建てられたらしい。
そこだけで、家の二軒ぐらいが建ちそうな広い土間。三口のオクドサンが並んでて、昔は大勢の食事を作ってたことが偲ばれる。土間は吹き抜けになってて、黒光りしてる梁には、木綿かなんかの布が長々と干したある。
土間の左手には広い和室が三つ……やと思たら、写真からは見えへんとこに部屋が十個ほどもある。他にも蔵みたいなんが三つ。うちのお寺も広いけど、ここは、その上を行く。
「あった、あった」
お祖父ちゃんが黒塗りの箱みたいなんを持ってきた。大小の二段重ねになってて、組みひもで結んだある。なんか玉手箱みたい。
「よそから貰たんと、うちからあげる用のんみたいやなあ」
大きい方には未使用と思われるのんがビッシリ入ってる。お馴染みのお年玉袋だけとちごて、封筒ぐらいとか、お布施袋くらいのとか、サイズが色々。
小さい方は、よそから貰たやつみたいで、口を蓋するとこが折られてるのんが多い。
「これは、わしのお母さんが残してたやつやろなあ」
お祖父ちゃんのお母さんて……ひいお婆ちゃんか。
「なんでも、とっとく人やったからなあ」
檀家周りから帰ってきたおっちゃんが加わって、にぎやかになってきた。
「せやなあ、いただきもんの包装紙なんかきれいに剥いで、仏壇の座布団の下に敷いとったなあ」
「あ、これ、中身入ったままや」
今度はテイ兄ちゃんが、袋を取り上げた。
「いやあ、懐かしい」
お祖父ちゃんが出したそれは、赤茶けたお札。
「百円でお札があったん?」
「ああ、昔の百円は大金やったなあ」
「なんかの記念や、さくらにあげよ」
袋に入ったまま三百円をもらう。
「ありがとう、お祖父ちゃん」
とは言うたけど、百円札なんて、どこで使たらええねんやろ。
「これ、なんやろ?」
テイ兄ちゃんが取り上げたポチ袋には、紙の人型が入ってた。
「あ、それ、欲しい!」
「これはなあ……」
お祖父ちゃんの目ぇが、ちょっとだけ険しなってきた……。
079『ポチ袋』
うちにも有ったなあ……。
タウン誌をテーブルの上に置いたお祖父ちゃんは、坊主頭を撫でながら廊下の突き当りの納戸に行ってしもた。
何気に、広げたままのタウン誌を見ると、町家歴史館山口家住宅でやってるポチ袋の特別展のことが載ってる。
「お年玉の袋や」
あたしの言い方が美味しそうやったんか、ダミアが膝の上からテーブルに乗り移って、いっしょにタウン誌を覗く。
ミャーー?
ネコ語で「これのなにが美味しいねん?」言うたかと思うと、スタスタと二階のコトハちゃんの部屋に行きよる。
あたしは頼子さんほどのネコ中毒やないのんで、のべつ幕なしモフモフしてやってるわけやない。
そうすると、ダミアはコトハちゃんのとこに行く。コトハちゃんがおらんときは、おばちゃんのとこ。
お年玉の袋を『ポチ袋』というのんを初めて知った。イメージ的には、犬が入れられてる感じ。けど、犬が入ってるわけやない(^_^;)。
タウン誌の説明では、なにか、人に心づけを渡す時に、このポチ袋を使うらしい。
関西でポチというのは「小さな」とか「少ない」とかいう意味があって、少ないお礼、心づけの意味で、舞妓さんがお師匠さんやらご贔屓さんから心づけを頂くのに使われたんが始めとか。
ポチ袋もおもしろいねんけど、写真の『町家歴史館山口家住宅』いうのんもおもしろそう。
堺でも、最も古い木造住宅で、なんでも大坂夏の陣のあとに建てられたらしい。
そこだけで、家の二軒ぐらいが建ちそうな広い土間。三口のオクドサンが並んでて、昔は大勢の食事を作ってたことが偲ばれる。土間は吹き抜けになってて、黒光りしてる梁には、木綿かなんかの布が長々と干したある。
土間の左手には広い和室が三つ……やと思たら、写真からは見えへんとこに部屋が十個ほどもある。他にも蔵みたいなんが三つ。うちのお寺も広いけど、ここは、その上を行く。
「あった、あった」
お祖父ちゃんが黒塗りの箱みたいなんを持ってきた。大小の二段重ねになってて、組みひもで結んだある。なんか玉手箱みたい。
「よそから貰たんと、うちからあげる用のんみたいやなあ」
大きい方には未使用と思われるのんがビッシリ入ってる。お馴染みのお年玉袋だけとちごて、封筒ぐらいとか、お布施袋くらいのとか、サイズが色々。
小さい方は、よそから貰たやつみたいで、口を蓋するとこが折られてるのんが多い。
「これは、わしのお母さんが残してたやつやろなあ」
お祖父ちゃんのお母さんて……ひいお婆ちゃんか。
「なんでも、とっとく人やったからなあ」
檀家周りから帰ってきたおっちゃんが加わって、にぎやかになってきた。
「せやなあ、いただきもんの包装紙なんかきれいに剥いで、仏壇の座布団の下に敷いとったなあ」
「あ、これ、中身入ったままや」
今度はテイ兄ちゃんが、袋を取り上げた。
「いやあ、懐かしい」
お祖父ちゃんが出したそれは、赤茶けたお札。
「百円でお札があったん?」
「ああ、昔の百円は大金やったなあ」
「なんかの記念や、さくらにあげよ」
袋に入ったまま三百円をもらう。
「ありがとう、お祖父ちゃん」
とは言うたけど、百円札なんて、どこで使たらええねんやろ。
「これ、なんやろ?」
テイ兄ちゃんが取り上げたポチ袋には、紙の人型が入ってた。
「あ、それ、欲しい!」
「これはなあ……」
お祖父ちゃんの目ぇが、ちょっとだけ険しなってきた……。
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