せやさかい

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
104 / 432

104『ミカンの皮を剥く』

しおりを挟む
せやさかい・104

『ミカンの皮を剥く』 

 

 

 本堂の外陣(げじん)は教室一個半くらいの広さに畳が敷いてある。

 本堂は庇が深くて天井が高いので、夏場は涼しい。けど冬の寒さはひとしお。

 それでも、お年寄りの檀家さんが訪れては三十分とか一時間とか話し込んでいかはる。中には半日過ごすお婆ちゃんがいてたりするので、暖房は切られへん。

 電気カーペット、こたつ、石油ストーブが、それぞれ二つづつ。

 こたつと電気カーペットはともかく、石油ストーブは危ないので、おばさんが時々様子を見に来る。

 それが、今日はテイ兄ちゃん。

「檀家周りには行かへんのん?」

「ああ、今日は午前中に二件あっただけやさかいなあ」

 と、お婆ちゃんらにミカン皮を剥いたってる。

「若ボンは、皮剥くのん上手やなあ、皮が切れんと上手に剥きやる」

「きれいに剥けてると、一日ええことがありそうな気になれるしい」

「いやあ、褒めてくれるんはおばあちゃんらくらいですわ」

「今日は土曜日で部活ないよ」

「え、あ、そうか(^_^;)」

 プツン

 明らかに動揺した様子で、剥きかけの皮が千切れてしもた。

「てんご言うたらあかんがな、さくらちゃん」

「知ってるよ、土曜の午前中は文芸部あるのんは」

 そうなんや、土曜の午前は部活やて決めた。せやけど、おばあちゃんらは、なんで知ってるんや、先週三人で決めたばっかりやのに。

「あんたら、声大きいし(⌒∇⌒)」

 アハハ……気を付けよう(;^_^A。

 
 言ってるうちに留美ちゃんと頼子さんがやってきた。

 
「「お早うございます」」

 プツン

 二人が挨拶すると、テイ兄ちゃんは、またミカンの皮を失敗する。

 頼子さんは出来た人で、お婆ちゃんらと二言三言会話してから部室に向かう。最初は青い目にブロンドの中学生にビックリしてたお婆ちゃんらやったけど、このごろは「よりちゃん」と呼んで、わたし同様町内の子どもとして接してくれる。お婆ちゃんらも頼子さんも、大したもんや。

 
「昨日はごめんね」

 
 部室のこたつに収まるなり、頭を下げる頼子さん。

 ダミアが心配そうな顔を向ける。わたしも留美ちゃんも一瞬かしこまって、そして膝を崩す。頼子さんはかしこまられるのが苦手。

 ダミアがニャーと首をかしげて、頼子さんは切り出した。

「紀香のお母さんに聞いたの」

 やっぱ、あの足で紀香さんとこへ行ったんや。

「最後の二通は、お母さんが書いた手紙だった……」

「そうなんですか」

 穏やかに言うてるけど、うちらもショック。

「字が書けなくなっても、紀香は手紙を書きたがってね、お母さんは代筆しようかと言うんだけど『良くなったら自分で書く』って……それで、どんなことを書きたいの?って聞くんだよ、お母さん。そういうこと話してれば、励みになるって考えたんだよね。じっさい、手紙の中身話してる時は、紀香、楽しそうだって……」

「それで……亡くなってから、お母さんが書いたんですね」

「字が崩れてたのは……」

「お母さん、左手で書いたんだよ」

 ちょっと嫌な気がした。気持ちは分かるけど、結果的に人を騙してる。

「違うんだよ、右手は早くにダメになって、動かせるのは左手の先だけになってたから」

「紀香さんを……その……宿らせて書いたんですね、お母さんは」

「そうなの、だから、書かれてる気持ちは紀香そのものだったのよ」

「いい話じゃないですか」

 留美ちゃんは、そっと、自然に頼子さんの手に自分の手を重ねた。こういうことを自然にできる留美ちゃんは偉いと思う。

「うん、そうだよね……あ、みかん食べようよ、みかん」

「はい!」

 元気よく返事したけど、こたつの脇の籠のミカンは一個しかない。

「ちょっともろてきます」

 本堂の外陣に行ってミカンをもらう。

 ミカンといっしょにテイ兄ちゃんが付いてくる。

 テイ兄ちゃん剥くミカンは、プツンプツンと切れてばっかり。アセアセのテイ兄ちゃんに頼子さんがコロコロと笑う。

 まあ、ええか。

 アセアセのテイ兄ちゃんに頼子さんがコロコロと笑てるし。

 

 

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

身を引いたのに、皇帝からの溺愛が止まりません ~秘された珠の還る場所~

ささゆき細雪
恋愛
五年前、内乱の混乱のなかで姿を消した最愛の妃・白瑤華(はくようか)。 彼女を失った皇帝・景玄耀(けいげんよう)は、その後ただ一人を想い続けながら執務に追われていた。そんなある日、書類に彼女の名前を発見し、居ても立っても居られなくなる。 ――死んだはずの彼女が、生きている? 同姓同名かもしれないが確かめずにいられなくなった彼は地方巡察を決行。そこで、彼によく似た幼子とともに彼女と再会、地方官吏として働く瑤華と、珠児(しゅじ)を見て、皇帝は決意する――もう二度と、逃がさないと。 「今さら、逃げ道があると思うなよ」 瑤華を玄耀は責めずに、待ちの姿勢で包み込み、囲い込んでいく。 秘された皇子と、選び直した愛。 三人で食卓を囲む幸福が、国をも動かすことになるなんて――?    * * * 後宮から逃げ出して身を引いたのに、皇帝の溺愛は止まらない――これはそんな、中華風異世界ロマンス。

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...