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103『さくらは秘密が苦手』

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せやさかい

103『さくらは秘密が苦手』 

 

 
 三谷紀香さんは一年も前に亡くなってる。

 

 え? ほんなら、あの持久走の事書いてた手紙は?

 ミステリーと言うか怪談めいてる(≧∇≦)やんか!

 思わず手を合わせて、ナマンダブナマンダブ……。

 頼子さんには言わんほうがええでえ……阿弥陀さんが言うたような気がした。

 はい、言わへん方がええと思います!

 
 阿弥陀さんに誓ったんやけど、不自然に視線がさまようわたしに、頼子さんも留美ちゃんも―― なにか隠してるやろう ――と疑われ、あくる日の部活で、たった五分で喋ってしもた(^_^;) 

 そうなんだ……。

 ダージリン一杯を飲む間は黙ってた頼子さんやったけど、最後の一口を飲んで宣言した。

「ちょっと行ってくる」

 そのまま、本堂を抜け、トトトっと小気味よく本堂前の階段を下りると、ローファーをつっかけて行ってしもた。

「かかと、踏んづけてたわよ」

 頼子さんは行儀のええ人で、かかとを踏んづけて靴を履くようなことはせえへん。

「なにかが滾って(たぎって)るんだよ、頼子さんの中で」

 留美ちゃんは的確に表現する、さすがは文芸部。

 わたしは、ただただ―― どないしょ ――が頭の中で渦巻いてる。

 
 部活は五時半までと決めてるんやけど、この日は六時になっても終わられへん。

 頼子さんが帰ってこーへんから。

 
「心配なこっちゃなあ」

 テイ兄ちゃんが豚まんを蒸かして持ってきてくれる。口ぶりから、頼子さんがローファーのかかと踏んですっ飛んで行ったことも知ってる感じ。

 いつもやったら「このロリコンがあ!」くらいカマシてやるんやけど、大人しく豚まんをいただく。

 剥いだ豚まんの紙が乾いてそっくり返ったころ、スマホに電話がかかってきた。

『ごめん、今日は、このまま帰るね。あなたたちにも話さなきゃいけないんだけど、ちょっと気分じゃないの、ごめん』

 こっちの返事も聞かんと電話は切れた。

 頼子さんに置いといた豚まん、包んでるラップの中に水滴がいっぱいついてる。

 ダミアが、ニャーと鳴いて気が付いた。頼子さん、カバンを残したままや。

 ラインで教えてあげよと思たら、逆に頼子さんのメールが入ってきた。カバンは明日の部活まで置いといてほしいとある。

「持ってってあげんでもええんか……」

 ダミアを抱っこしたテイ兄ちゃんは、ちょっと残念そうやった。

 
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