せやさかい

武者走走九郎or大橋むつお

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134『ごりょうさん奇談・2』

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せやさかい

134『ごりょうさん奇談・2』         


※ 堺では仁徳天皇陵のことを「ごりょうさん」とよびます。

 

 
 え………………………………………………………?

 
 丸保山古墳の傍まで来ると、にわかに霧が立ち込めてきて数メートル先も見えへんようになってきた。

 朝と言うても、もう九時は回ってる。こんな時間に霧がかかったりするんやろか……?

 不思議に思いながらも、危ないので自転車を下りて押して歩く。

 自転車を押す手にパシパシと地面からの手応え……あれ、アスファルトと違う。

 いつの間にか土の道になって、タイヤが砂を噛む音がしてる。意識すると靴の底の感触も違う。

 土の地面て、学校のグラウンドか公園の中くらいしかあれへん。

 ボサーっとしてて、どこか人さんの敷地にでも迷い込んでしもたんやろか?

 
 立ち止まって、周囲を見渡すと、ちょっとずつ霧が晴れてくる。

 え?


 丸保山古墳のシルエットが見えてきて、その次にごりょうさんの山みたいな姿もおぼろに浮かんでくる。

 で、二つの古墳以外のものが何も見えへん。

 というか、なんにも無い。

 足元は、自分が居てるとこが教室くらいの範囲で見えるだけで、地面に残ってる霧に隠れて、その先は窺い知れへん。

 さくら……さくら……

 霧の中から『さくら』と呼ぶ声がする。

 この霧の中、花見に来て、お目当ての桜が見えへんのでボヤいてる……のんか。ひょっとして、あたしの名前?

 ちょっと怖い。

『さくら……お前のことだよ、さくら』

 はっきり聞こえたかと思うと、お堀に面したとこの霧がサーーっと晴れて、馬を曳いた男の人が現れた。

「あ、え、わたしのことですか?」

「そう、さくらのことだよ」

 その人は『まんが日本の歴史』の第二巻くらいに出てきそうな風体をしてる。髪を角髪(みずら)に結って、生成りのツーピースみたいなんを着てる。

 上着はダボッとしてて、腰のとこで帯みたいなんで締めてる。ズボンはダボッとしてて、膝のとこでくくって、毛皮のブーツみたいなんを履いてる。

 髭を生やして、真っ直ぐな刀を下げてて、ほんまに『まんが日本の歴史』のコスプレや。

「すまん、ここまで来て馬が動かなくなってしまった。道を急いでいるのだが、これでは間に合わない。少しの間でいい、さくらの馬を貸してくれないか」

「馬?」

「さくらが曳いている、それだよ」

 え、自転車のこと?

「そうだ、すまんな」

 そう言うと、その人は、あたしの自転車に跨って霧の向こうに走り去ってしもた。

 
「ええと……」

 
 呆然としてると、馬が顔を寄せてくる。

「あたし、馬になんか乗られへんよ……」

 そう言うと、馬は器用に姿勢を低くして『早く乗りな』という顔をする。

「だ、だいじょうぶ?」

 おっかなびっくりで跨ると、馬はゆっくり歩きだした。

「え、あの人のこと待たんでもええのん?」

 馬は応えずに、ポックリポックリと霧の中を歩いて行く。

 
 しばらく行くと、ようやく霧は晴れ渡って、うちの山門の前に着いた。

 
 よっこらしょ……。

 おばちゃんに、どない言お……霧の中で、古代のコスプレおじさんに自転車貸してやったら、こないなってしもた。

 ぜったい信じてもらわれへん。

 え?

 なんと、馬が腰の高さほどの馬の埴輪に変わってしもた!

 怖くなって山門の中に駆けこんで、ちょうど本堂から出てきたテイ兄ちゃんと出くわす。

「どないしたんや、目が泳いでるで」

「え、いや、せやさかいに、せやさかいにね」

 アタフタと説明すると、テイ兄ちゃんは山門の外を指さした。

「自転車やったら、山門の前に停めたあるやんか」

「え、ええ!?」

 今の今まで馬の埴輪があったとこに自転車が停まってる。

 
 キツネにつままれたような気持ちで自転車を片付けると、スマホがメールの着信音。

 
「え、うそ!?」

 なんと、頼子さんから。

 
―― いま、関空に到着。これから二週間の隔離生活に入ります ――

 

 
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