せやさかい

武者走走九郎or大橋むつお

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135『救助した? された?』

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せやさかい

135『救助した? された?』         

 

 
「あかんやろ」と「そやろなあ」が重なった。

 
「あかんやろ」がテイ兄ちゃん、「そやろなあ」がおっちゃん。

 間に座ってるお祖父ちゃんは知らん顔してお茶飲んでる。詩(ことは)ちゃんとおばちゃんは朝食後の洗い物をやってて、うちは洗濯機の終了を待ってる。

 テイ兄ちゃんとおっちゃんの意見が分かれたのはテレビのニュース。

 石川県の知事さんが『どうか、症状のない方は石川県にお運びください』とアピールしてる。

「こんな時期に旅行なんかいったら、感染のリスクあがりまくりやろ」

「せやけど、観光地はどこも閑古鳥や。温泉旅館なんか、一か月も客が無くなったら潰れるでえ」

「まあ、国が非常事態宣言もよう出さんと煮え切らんからなあ、そら、地方は、自分とこの事情でウロウロするわなあ」

 ズズーッとお茶を飲むお祖父ちゃんと目ぇが合うてしもた。

「さくらの学校は、どないやねん?」

「え、うん。今のとこ例年通り八日に始業式」

 うちも、心の中ではどないやねんやろと思てる。

 大阪は、東京に次いで感染者が多い。もう二百人を超えてるんちゃうんかなあ。

 まあ、毎日びっくりするようなことが起ってるから、まあ、少々の事では驚かへんよ。

 うちの男たちは「しかしなあ」「せやけどなあ」と次々に問題を重ねては議論が収まれへん。

 お祖父ちゃんは「どっこいしょ」と、朝食後二回目のトイレに立つ。

「世間の心配もいいですけど、お花まつりの結論も出してくださいね。もう一週間しかないんだから」

 おばちゃんがプンプンしてリビングに入ってきた。

 
 せや、四月八日は俗に『お花まつり』いう灌仏会なんや。そんで、うちの誕生日でもある。

 この話題に乗ると、誕生日のお祝いを催促してるみたいやから、ダミアを連れて境内で遊ぼ……と思たら、ダミアがおらへん(^_^;)。

 ダミア~

 ダミアを呼びながら境内へ、たいていは本堂の縁側とかに居るんやけど……姿が見えへん。車のボンネットにも、日当たりのええ山門の脇にも気配が無い。

 ダミア~

「ネコやったら、あそこ……」

 まだ名前憶えてない近所の小学生が、上の方を指さしてる。

「え……え……あ!?」

 ダミアは、山門の桜の木の張り出した枝の上で固まってる。

「上がって、下りてこられへんみたい」

「しゃあないなあ……」

「え、ねえちゃん、登るん?」

「このくらい、軽いもんよ」

 サンダルを脱ぐと、山門の縁に足をかけて、スルスル……とはいけへんけど、桜の木に登った。

 もう七分咲きになってる桜は、濃厚な春の匂いがした。ネコは、人間の何十倍も嗅覚がいい。この匂いに誘われて、ダミアは上がっていったのかもしれへんなあ。

「ダミア~、こっちおいでえ~」

「ニャーー」

 助けに来てくれたんが分かってるみたい……やねんけど、このビビりネコは、うちのとこまでようこうへん。

「しゃ、しゃあないなあ……」

 枝に沿って腹ばいになって腕を伸ばす。

「フニャ~」

「ちょ、ダミア!」

 ダミアは、ピョンとジャンプすると、あたしの背中に乗ってきよった。み、身動きがとれへん!

 
 ピー ピー ピー

 
 なんのアラームや? せや、洗濯機や!

 そこで、下を向いてしもた。 めっちゃ高い!

「う、動いたらあかんでえ」

 そろ~っと、枝の上を後ろ向きに戻る。

 ズリ……え?

 べつの枝に引っかかって、ジャージの上が胸のとこまでずり上がってしもた。

 フグッ!

 うろたえた拍子に、重心が崩れて落ちそうになる。反射神経で、隣の枝に足を掛ける。

 地上の小学生に声をかけよう……と思たら、居らへん。

 フググ……!

 やばい、足かけた枝がしなって、あたしは『へ』の字を逆さにした感じになってしもた!

 ジャージが、さらに上下方向にめくれ上がって……もうアカン!

「こっちこっち!」

 そう思たときに声がした。

 さっきの小学生が、近所で電話線工事してた男の人を連れてきた。

「じっとしとりや!」

 男の人は、すぐにアルミのハシゴをかけて、救助の態勢にはいってくれるんやけど、めっちゃハズイ!

 ジャージは、胸元とへその下までズレてしもて、メッチャみっともない(;'∀')。

 
 とりあえず、無事に助かったとだけ言うときます。
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