せやさかい

武者走走九郎or大橋むつお

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168『耳をすませば・1』

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せやさかい

168『耳をすませば・1』    

 

 
 感動というのは伝染する。

 
 と言うのは、松任谷由実さんをディスった某大学のS先生のツイート。

 ちょっと騒ぎになったけど、それがきっかけで文芸部でジブリのアニメを観ることになったいうのんは言うたよね。

 最初に松任谷由実さんが主題歌を歌ってる『魔女の宅急便』を観ようと思たんやけど、ブルーレイが間に合ったのが『耳をすませば』やったんで、それをリビングの4K60インチで鑑賞。

『耳をすませば』は、主演:清野菜名 松坂桃李で実写映画化されるんで、まあ、話題性もあってね。

 わたしも留美ちゃんも観たことあるねんけど、銀ちゃん(夏目銀之助)は始めてやった。

 エンドロールが流れてお茶にしようかと思ったら、ソファーに座ったまま銀ちゃんは固まってた。

「素敵です……」

「どないしたん、銀ちゃん?」

「先輩、今から図書館に行きましょう!」

「え?」

「学校以外の図書館は行ったことが無いんです」

「え、そうなの!?」

 留美ちゃんが目をむく。

「必要な本は買ってました、図書館の本は不衛生ですから」

 たしかに図書館の本はくたびれてるのが多いけど、不衛生いう感じはなかった。留美ちゃんも、彼女には珍しく、ちょっと心外という顔になってる。

「でも、銀ちゃんは古本も買うんでしょ?」

「中古の本は消毒してありますし、小口のところなんかは削って新品同様にしてあります」

「え、そうなん?」

「はい、何カ月も棚ざらしになっている新刊書よりもきれいだったりします」

 そうか、ブックオフなんかで買った文庫本は微妙に小さかったりするのは削ってたからやねんなあ。新発見に感心する。

「でも、図書館の本を汚いって決めつけるのはどうかと思うわよ」

「あ、気に障ったらすみません。母が、そういう人だったんで自然に身に付いて。というか、図書館の本で、こんなドラマが生まれるって素敵なことだと思います」

「それで、図書館に行ってみたいというわけやねんな」

「でも、いまの図書館てニューアーク方式はとってないわよ」

「「ニューアーク?」」

「あ、本のカードに記録が残るやり方。今は、どこでもポスだから」

「ああ、レジみたいにピってやるやつ?」

「アニメが公開された時はすでにポスシステムだったけど、あの図書カードの方式じゃないとドラマが成立しないから」

「あ、そか、ポスだったら、雫は聖司とは出会わないもんね」

「それに、今から図書館行くと、帰りは夜になっちゃうよ」

「あ、中央図書館やもんな」

「じゃ、こんど」

「うん、いいわよ。わたしたちも去年初めて行ったんだけど、堺で一番の図書館だから、きっと感動よ!」

「はい、楽しみにしてます!」

「ほんなら、お茶にしようか」

「うん」

「あ、ぼくも手伝います」

「男は黙って座ってなさい」

「あ、でも……」

 
『あなたたちも座ってていいわよ』

 
 キッチンからおばちゃんの声がする、と思たら、ええ匂いのする紙袋持って現れる。

「ちょうど試作のパンケーキもらってきたところだから、試食してみてえ。とりあえず、パンケーキ」

「すみません」

「あら、これ『耳をすませば』じゃない」

「うん、文芸部で鑑賞会やってて、いま観終ったとこ」

「いやあ、なつかしいなあ。かけていい?」

「あ、どうぞうどうぞ、再生押したら頭から再生やさかい」

 おばちゃんはソファーの真ん中に腰を下ろして、観る気満々になってしもた。

「これね、諦念君と初めていっしょに観た映画だったのよ」

「え、おっちゃんと?」

「うん、ごめん桜ちゃん、お茶淹れてきてくれるぅ?」

「え、あ、はいはい」

 けっきょく、あたしと留美ちゃんでお茶を淹れることになる。

 あたしらは、おばちゃんらの恋バナが聞けるんちゃうかなあと、ちょっとウキウキしてきた。

 
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