せやさかい

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
311 / 432

311『こいつは才能だと思う』

しおりを挟む
せやさかい

311『こいつは才能だと思う』頼子   




 こいつは才能だと思う。


 こいつというのは酒井さくら。

 中学からの、わたしの後輩。

 客観的には、ちょっと厳しい人生を歩んできてるのよ。

 小学校の時にお父さんが失踪して、中学に入学すると同時に失踪宣告して……失踪宣告というのは法律的に死んだのと同じ扱いになる。七年間消息不明ってことが条件なんだけどね。

 そうして、さくらは、お母さんの姓になって実家である如来寺にやってきた。そして、越して二年足らずで、今度はお母さんが失踪。

 如来寺には、さくらのお祖父さんと伯父さん夫婦。従兄姉のテイ兄ちゃんと詩(ことは)さん。

 今どき、親類と言っても、そうそうあてになる世の中じゃない。それを、さくらは、生まれてからずっと如来寺の子だったみたいに愛されているし、さくら自身も、如来寺の子として屈託なく過ごしている。



 さくらにはオーラがあるんだ。



 本人に言ったら怒るかもしれないけど、人の輪の中に入って行くのが上手い。

 上手いだけだったら、ただの人たらし。

 さくらの生き方には、ほとんど打算というものがない。その時その時、周囲の人と泣いたり笑ったり、怒られたり恥をかいたり。その姿には、どこか愛嬌があって、人はさくらのことを放っておけなくなる。

 そういうさくらを友だちにしていたから、同級生だった留美ちゃん(榊原留美)が、これまたお父さんの仕事の都合で一人暮らしになったときも、如来寺でいっしょに姉妹同然に暮らさせるという芸当をやってのけた。

 留美ちゃんは、真面目な文学少女で、人交わりが苦手な子。秘めた好奇心や向上心には見るべきものがあるんだけど、リアルの生活で、それを活かせるような子ではない。一人暮らしを余儀なくされた二年前、さくらが居なければ、ちょっとミゼラブルな状況になっていたかもしれないと思う。

 歳の差四年の女の子が三人、広いお寺だとはいえ、如来寺が広いのは宗教施設であって、住人の生活環境は、そんなにぶっ飛んだ広さではない。そこで、うまくいってるのはすごいよ。

 恥ずかしがるから、本人には言ったことないけど、お風呂やトイレが他人と共用というのは、思春期の女の子にはハードルが高い。

「洗濯物とか、けっこう難しいんじゃないの?」

 部活の合間に、さくらには聞いたことがある。

「うん、三人で相談して、ブラとかパンツとか、イニシャル入れてます!」

 そう言って、楽し気にプリントの裏側に仕様を書いて説明してくれる。

 そのメモを後から見た留美ちゃんはユデダコみたいに顔を赤くして、さくらをぶつんだけどね。

 さくらが笑って、わたしも笑って、そして、留美ちゃんもつられて笑っておしまい。

 わたしのガードのソフィーは「さくらのアレは、諜報部員に向いてます」と、ちょっと羨ましそうにしている。

「諜報部員の資質は、いかに、自然に人の中に溶け込めるかなのです。溶け込めるだけではなく、空気のありがたさみたいな信頼を勝ち取れるかです」

 上司のジョン・スミスも言う。

 なるほど……わたしは頷いた。

 ソフィーは、ゴルゴ13に孫娘がいたら、こんな感じってだろうって女の子だからね。



 昨日もね、通学用の自転車を置かせてもらってる『スナックはんぜい』のマスターからいっぱいサンドイッチもらって――いっしょにサンドイッチランチしましょう!――って、嬉しそうにサンドイッチの写真を送ってきた。

 サンドイッチランチ、ちょっとモッサリだけど、ちゃんと韻を踏んでる。

「さすがは文芸部」

 ソフィーは感心するけど、さくらは天然です。

 そして、中庭の藤棚で、女四人楽しくランチしたんだけどね、放課後になったら回復したお天気とは逆に落ち込んでる。

「どうした、午前中の曇り空全部呑み込んだみたいな顔して?」

「せ、せんぱい! どないしょ、ペコちゃんが中間のテスト結果くれたんやけど、二個も欠点あるんです!」

 成績伝票を見ると英語と数学が欠点。

 数学・38点  英語・37点

「なんだ、いくらでも挽回できる点数じゃないの」

 一年の初テストは、ほとんどゲタがない。ありのまま点けて、ありのままの実力を思い知らせるという聖真理愛学院の昔からの方針。

「せ、せやかて、留美ちゃんは欠点あれへんし! うちら、家でもいっしょにテスト勉強してたんですよ! ううん、うちアホやさかい、しっかり5%増しぐらいでやってたのにい!」

「仕方ない。勉強に関しては、さくら、脳みその皴が留美ちゃんよりも少ない」

「ええ、そんなあ~(;゚Д゚)」

 ソフィーに言われて、ムンクの『叫び』みたいに両手で頬っぺたを挟んで揉む。

「脳みそは、頬っぺたじゃなくて、頭にある。揉んで皴が増えるなら手伝ってあげる」

「うん、手伝うてえ!」

 ソフィーは、ポーカーフェイスでさくらの頭をグリグリ。

「イタ、イタタタ……あ、でも、皴が増えていく感じ……する……イタタ……」

 留美ちゃんとメグリンと三人でお腹を抱えた。

 で、散策部の部活を兼ね、みんなでペコちゃん先生の神社に足を運んで、さくらに学業御守りを買ってやりました。 




☆・・主な登場人物・・☆

酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
ソフィー      頼子のガード
古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜

小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。 でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。 就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。 そこには玲央がいる。 それなのに、私は玲央に選ばれない…… そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。 瀬川真冬 25歳 一ノ瀬玲央 25歳 ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。 表紙は簡単表紙メーカーにて作成。 アルファポリス公開日 2024/10/21 作品の無断転載はご遠慮ください。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

それぞれの道

真田直樹
現代文学
主な登場人物 藤川優斗(ふじかわ ゆうと) 高校野球部ショート。堅実な守備と冷静な判断力が武器。チームの精神的支柱。 丹羽雅人(にわ まさと) 野球部エースピッチャー。豪速球と強気の性格。優斗とは中学からの親友。 尾上紀子(おのえ のりこ) 吹奏楽部トランペット担当。県大会常連校の中心メンバー。優斗に密かな想い。 富田さゆり(とみた さゆり) 演劇部。表現力が高く、舞台では別人のようになる。クラスのムードメーカー。

処理中です...