せやさかい

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
403 / 432

403『王宮某重大事件・2・救急搬送』

しおりを挟む
せやさかい

403『王宮某重大事件・2・救急搬送』ヨリコ   




 王宮の廊下をこんなに長く感じたのは初めて。



 ソフィーからの連絡を受けて、ケージと呼ばれる皇太子用の別棟から渡り廊下を通って母屋の宮殿に向かっている。

 王族の者は空襲や襲撃にでも合わない限り宮殿の中では走ってはいけない。

 だから到着まで五分もかかった(あとで確認したら一分ちょっとだったけど、その時は、それくらいに感じた)。



「お祖母ちゃん!」



 プライベートで二人っきりの時以外、王宮では「陛下」と呼ばなくちゃいけないんだけど、この時は「お祖母ちゃん」になってしまった。

 そして、イザベラさんやソフィー、それに王宮警備の衛士さんたちが介抱している女性に気付いて悲鳴が出るところだった。

 ソフィーのメッセージは――陛下が階段から転落なさいました、第二図書室下の階段です――というものだった。

 この時間は、お祖母ちゃんがお気に入りの詩(ことは)さんを連れまわしている時間。きっと話に夢中になって階段を踏み外した……と思っていた。



 想像は、半分当って半分外れていた。



 日本人的礼儀と謙譲の美徳を兼ね備えた詩さんは、お祖母ちゃんの二段下の階段を上がっていて、足を踏み外して転げ落ちてくるお祖母ちゃんを全身で庇ってくれていた。

「ヨリコ、大変なことをしてしまったわ( ´༎ຶㅂ༎ຶ`)」

 こんなに動揺してるお祖母ちゃんは初めて。

「陛下、殿下も来られました。あとはわたしどもにお任せになって、医務室へ!」

 イザベラさんが急き立てるけど、お祖母ちゃんは首を横に振る。

「トマス、お連れして!」

 きっぱり言うと、ベテラン衛士のトマス曹長が部下と共に担ぐようにしてお祖母ちゃんを連れて行った。

「詩さんも……」

 医務室へ運んでと言おうとしたら、ソフィーが耳もとで囁いた。

「脊髄損傷のおそれがあります、動かせません」

「ええ(⊙▃⊙)!!?」



 その直後、王宮医師のフレデリック博士が駆けつけ、ソフィーの見立てが正しいことを証明した。



 詩さんは、フレデリック博士の指示によってドクターヘリに載せられて、三十分後には王立病院で緊急手術の運びとなった。

「車を出して! わたしも病院に行くから!」

 いっしょにヘリに乗ると言ったら「前例がない」と止められ、次善の策で車で急ぐことにした。

 ソフィーが用意してくれたのは職員の自家用車。王室の車では法定速度を守らなくてはならないから。

 途中信号に引っかかってイライラするんじゃないかと思ったけど、不思議と信号に引っかかることが無い。

 信号を気にしていると、時おり妖精の標識が目に入る。

 子どもの頃から見慣れて気にも留めない交通標識だけど――お願い、力を貸して――と思う。

 五つ目の信号も、寸前で青に変わって――妖精が、神さまが味方してくださってる――と感謝の十字をきっているとイザベラさんからの電話。

『陛下は右手首を捻挫されただけで済みました。念のために、これから精密検査を受けていただきますが、フレデリック博士の御忠言もあって、陛下は一つの決断をなさいました』

「え、まさか王位を譲るって言うんじゃないでしょうね?」

 憲法で国王は死ぬまで国王。でも、お祖母ちゃんなら言い出しかねない。

「来月の戴冠式は、陛下の名代として殿下に出ていただきます」

 ちょっと混乱してから気づいた。

 来月の6日はイギリス国王の戴冠式だ。これは引き受けざるを得ない。

「分かったわ、謹んでお引き受けすると、お祖母ちゃ……陛下に申し上げて」

「畏まりました」

 電話を切ると、ちょっと胃のあたりが痛い。

 戴冠式……親類のお祝い事に、ちょこっと顔を出す……ようなもんじゃない。

 しきたりやマナーがいっぱいある。外国の王族や皇族とも挨拶やお話もね、そのためのレクチャーやら情報収集やらもね。

 それと、詩さんのこと……さくらや如来寺のみなさんにどう伝えたらいいんだろう……。

 心配と重圧……そして、詩さんにヤマセンブルグに来ていただくように、あれこれ企んだのはわたしだ。

 みんなに良かれと思って……でも、結局は世間知らず王女の我がままだったのか……。

「そんなことありませんよ」

 ルームミラーのソフィーがお姉ちゃんのような微笑みを返してくれる。

 そして、数えて七つ目の信号も寸前に青に変わって、ヘリに遅れること二十分で病院に着いた。




☆・・主な登場人物・・☆

酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中
酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 
ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
  
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜

小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。 でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。 就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。 そこには玲央がいる。 それなのに、私は玲央に選ばれない…… そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。 瀬川真冬 25歳 一ノ瀬玲央 25歳 ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。 表紙は簡単表紙メーカーにて作成。 アルファポリス公開日 2024/10/21 作品の無断転載はご遠慮ください。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

それぞれの道

真田直樹
現代文学
主な登場人物 藤川優斗(ふじかわ ゆうと) 高校野球部ショート。堅実な守備と冷静な判断力が武器。チームの精神的支柱。 丹羽雅人(にわ まさと) 野球部エースピッチャー。豪速球と強気の性格。優斗とは中学からの親友。 尾上紀子(おのえ のりこ) 吹奏楽部トランペット担当。県大会常連校の中心メンバー。優斗に密かな想い。 富田さゆり(とみた さゆり) 演劇部。表現力が高く、舞台では別人のようになる。クラスのムードメーカー。

処理中です...