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013『よど号と須之内写真館』

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

013『よど号と須之内写真館』   




 寿川の柵の工事は予想に反して三日もかかって、三月も末日の31日。


 リアルの橋は工事中でも渡れるけど、わたしのは1970年に渡るための戻り橋。ガチガチに工事用フェンスで囲われては渡れません。

 今日もダメだったら、令和の世界で白黒の証明写真を撮り直しかと落ち込んでいたら、なんとか昨日の夕方には終わった。

 Mの標べも無事に再発見して戻り橋を渡る。

 自動でない改札やガックン電車にも慣れて、昭和の宮之森駅が見えてくる。

 あれ?

 軽く驚く。

 令和では八分咲きだった桜が、まだチラホラの二分咲きでしかない。

 乗った駅はすでに昭和の奥宮駅だったんだけど、写真のこととか気になって桜には気付かなかった。

 令和とは桜の種類が違うとか?

 スマホを出して調べてみる。

 わたしのスマホは魔法少女用のスマホでタイムリープしても使えるというスグレモノ。それに、昭和の人には手鏡にしか見えないから短時間なら怪しまれることも無い。

 で、分かった。令和と昭和では開花時期が違うんだ。原因は温暖化らしい。

 三月のこの時期は三寒四温。数回通っただけではピンとこないよ。

 あいかわらず、軍艦マーチマックスのパチンコ屋の前を通過。

 あれ?

 チラリと見えた店内は微妙にお客さんが少ない。

 商店街に入ると電機屋さんの前に人垣ができている。近寄って見ると、みんなで展示品のテレビを見ている。

 ……なんで? 

 1970は、もうカラーテレビとかも出ていて、そう珍しくも無いのに。

 うわあ、ちっこい。

 隙間から見えたテレビはカラーだけども図体は大きいだけで画面は20インチあるかどうか。画質もメチャクチャ悪くて色が滲んでるし。

 カキーーン  ウワアアア!

 三代並んでる端っこのテレビから打球の音と歓声。

 あ、そうか高校野球。春だからセンバツとかいうやつ?

 わたしでも分かるホームランで甲子園は沸き返っている。

 平和で目出度い春の風物詩……の割には、人垣は静かだ……っていうか、みんなは横の二台のテレビにくぎ付け。

 二台のテレビは、なんだか、どこかの空港を映していて古いデザインの日本航空のジェット機が映ってる。

「ああ、飛び立った!」

 ひとりのオッサンが声を出し、みんな一歩前に進んで画面に食いついている。

 飛び立ったって、ふつう飛ぶもんでしょ飛行機って。

『たった今、よど号は、管制塔の許可も指示も受けないまま飛び立って行ってしまいました!』

 え?

『乗客の人質23人は開放されましたが、乗員6人を乗せたまま9人の犯人はよど号を発進させました!』

 ええ、これってハイジャックじゃん(☉∆☉)!

『犯人は拳銃や刀などで武装しており、福岡県警も滑走路に故障と称した自衛隊機を並べるなどして、離陸を阻もうとしましたが……』

 なんちゅう間抜け! 飛行機に拳銃とか刀持ち込めるなんて、信じられないんですけど!

 今どき、銃とか刃物とかじゃなくても、液体のものでも持ち込めないよ。

 なんか、昭和ってユルユル過ぎるし……。



 おっと、写真写真。



 写真屋さんに入ると、先日とは違って愛想の言い女の人が相手をしてくれる。店主のおじさんは、奥まったところでテレビを見ている。やっぱテレビでよど号観てる様子。

「時司巡さんですね……はい、どうぞ」

 ちゃんとホルダーから出して確認させてくれる。

「わあ、すごい!」

 白黒の小さな写真だけど、すごく丁寧に撮られてる。

 光の加減とか、とてもグッドで、ネットとかでよく出てる『昔の美人の写真』とかであるじゃん、あんなシットリ系の美人に写ってる。

「なんか、証明写真に使うのがもったいないですねぇ(^▽^)」

「学校で使うのは三枚だから、一枚は手元に残ると思うわよ」

「え、あ、そうなんですか!?」

「それにネガは一年間は保存してるから、必要があれば一枚100円で焼き増ししますよ」

「え、あ、そうなんだ、ありがとうございます!」

「こちらこそ、これからもご贔屓に(^▽^)」

 感じのいいおねえさん。

 ニッコリ笑顔を交わして店を出る。

「そうか、須之内写真館って云うんだ」

 あらためて看板を見る。下見を含めて三回目、撮影の後は引換券とかも貰ってるのにろくに店の名前も見ていなかった。まあ、証明写真用のボックスとかはプリクラと同じだから、いちいち確認はしないけどね。

 こういうのをアナログの良さっていうんだろうね。

 電機屋さんの前は、さっきほどの人だかりは無い。

 スマホで『よど号』で検索。

 このあと、韓国の金浦空港……そうか、飛んでる間は変化が無いか。



 駅に着くと電車は出たばかりなので、ベンチに腰掛け、証明写真を一枚出してスマホで撮り直す。

 よしよし。

 アプリを操作して、色を付けてみる。

「おお!」

 アプリがいい! いや、写真屋さんの腕だろう、自撮りのカラー写真よりもうんといい。

 デジタルの補正が入ってるわけじゃないから、真正リアルの時司巡なんだよ!

 わたしって、美少女系のカテゴリーに入れても良くなくない?

 声には出さず己惚れて、ちょっと幸せな、明日からは四月の昼下がりでした。

 

☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
宮田博子
須之内写真館            証明写真を撮ってもらった、優しいおねえさんのいる写真館
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