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069『演劇部の大発明』

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

069『演劇部の大発明』   



 令和の時代から昭和の宮之森高校に通ってる。


 多少の問題はあった、学校のトイレがみんな和式で音姫も付いてないとかね。体育の時間はブルマだとかね。むろん授業はつまらないけど、それは令和でも同じだから問題ない。

 狭い学校の付き合いだから断言はできないけど、人間はおもしろい。

 1970年は、前の年に学園紛争というのが完全に敗北。10円男に聞くと、主題は日米安保阻止だったとか。

「ええ、なに言ってんの、安保無しでどうやって日本守るの?」

「それは……」

 いろいろ十円男は言ったけど、ぜんぶタワゴト。やれ、革命だ! 造反有理だ! 国連だ! 話し合いだ! 共産主義だ! ゲバラだ! 毛沢東だ!

 あ、面白かったのがゲバラ。

 10円男は「チェ!ゲバラ!」と、かならず名前の前に「チェ!」って言うから「尊敬する人に、どうしていちいち『チェ!』なんて舌打ちすんのよ?」と聞いたら、スペイン語かなにかで「チェ」っていうのは「やあ!」とか「よ!」とかの呼びかけの言葉で、まあ「ダチ」ってな意味なんだって。

 あっちの国で「同志ナニナニ」って言うのと変わらない。

 で「チェ加藤!」って呼んだらムッとしてた。

 ホームルームや委員会でも、けっこうアグレッシブ。MITAKAじゃ、けっこう盛り上がってるしね。真知子、たみ子、ロコ、佳奈子も前向きな子たちで、いっしょに万博旅行したのは一生の思い出になるかもしれない。

 クリスマスイブの24日に『イブの集い』をやるために『フォークの集い』をやっている。

 まだ二回やっただけだけど、手応えは十分。

『エーデルワイス』でスッゴク盛り上がった。直前に『青年は荒野を目指す』をやってたんだけど、その三倍は盛り上がって、特に女子は四倍くらいに熱が入っていた。

 ちょっと不思議なんで家に帰ってから、改めてググってみる。

 ああ、そうなんだ!

『エーデルワイス』は『サウンドオブミュージック』ってミュージカル映画の挿入歌で、映画は65年のアメリカ映画で、アカデミー賞を五つも獲ったっていう不朽の名作。小学校で習った『ドレミの歌』も、この映画の歌だって発見して、グッと親近感。みんな、この映画『サウンドオブミュージック』の印象があるから、あんなに盛り上がったんだよね。

 これをスラスラギターで弾いた10円男は、根は案外のロマンチストなのかもしれない。

 その昭和の宮之森の数少ない不満が一個。

 土曜日にも学校がある!

 週休二日っていうのは世界の常識! お祖母ちゃん流に言うと神武以来の決まり事! だと思うんだけど。

 でも、今までは、そんなに気にしなかった。

 でも、今週は疲れたからね……ひとしおなんだと思う。


 ええ、すごいじゃん( ゚Д゚)!!


『フォークの集い』も三日目の今朝、商店街をロコといっしょに学校に向かっていたら、真知子とたみ子が追いついて来て「演劇部が大発明してくれた!」と言って、教室に行く前に演劇部の活動場所である図書分室に向かった。ドアを開けて、思わず三人口を突いて出たのが「「「ええ、すごい( ゚Д゚)!!」」」だよ。

 まるで、本物のファイアーストームだよ!

 四角い箱の中に薪がくべてあって、そこから真っ赤な炎がボウボウと燃え盛ってるんだけど、これが、ちっとも熱くない。

「ええ?」「なんか、仄かに涼しいくらいですよ」「どういう仕掛けぇ?」

 不思議に思っていると、ジャージ姿の美人さんが腰に道具袋(あとで聞いたらガチ袋というらしい)を下げて入ってきた。

「千秋、どういう仕掛けなのぉ?」

 美人さんは智満子の知り合いで千秋というらしい。

「あ、演劇部の部長の牧内千秋。こっちはMITAKAの仲間」

「どうも、ほんとはもっと早く仕上げるつもりだったんだけど、まあ、気に入って頂けた感じだからよかった」

「で、どういう仕掛けになってるんですか?」

 ロコが子犬みたいにピョンピョン。

「いったん、スイッチ切るわね」

 ペチ

 見ると箱からはコタツみたいなコードが伸びていて、そのスイッチを切ると、炎は瞬間で輝きも勢いも失って沈んでしまった。

 ええ?

「覗いてみて。説明するよりも早い」

 どれどれ(._.)

 オオ! なるほどぉ!

 箱の中には小さな扇風機とライトが入っていて、箱の縁には、ダミーの薪と、その内側に炎の形に切られた赤とオレンジの布切れが張ってある。

「スイッチ入れると、扇風機で布が吹きあがって、ライトに照らされて、まあ、ファイアーストームに見えるわけです」

「す、すごい発明です!」

 ロコは、もうノーベル賞受賞者を見る目だよ(^_^;)

「ううん、昔からある手法よ。でも、こんなものでも女子だけのクラブだとなかなかでねえ。まあ、今日からは、ほかの照明も含めてなんとかするから」

「そうね、これでいちだんと盛り上がるわ、ありがとう千秋」

「いいよいいよ、役に立ったんならこっちも嬉しい」

 
 放課後、三回目の『フォークの集い』が盛り上がったのは言うまでもありません。

 おかげで、わたしのLED照明も忘れられて、ホッと胸をなでおろしたよ。


☆彡 主な登場人物
時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
辻本 たみ子            1年5組 副委員長
高峰 秀夫             1年5組 委員長
吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
藤田 勲              1年5組の担任
先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部)
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  

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