やくもあやかし物語・2

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
41 / 84

041『ネルの手紙と手袋の穴』

しおりを挟む
やくもあやかし物語 2

041『ネルの手紙と手袋の穴』 





 昔の樺太を見せてあげられなかった……と、交換手さんは、少し申し訳なさそう。

「ううん、そんなことないよ」

 ひとことだけ受話器に言って、こんどの樺太へのプチトラベルはおしまい。

 チャンチャン焼き食べたし、間宮林蔵の記念碑見たし、デラシネもいつも通り教室とかに来るようになったし。


 ドッヒャアアアアア!!


 ネルがあぐらかいたまんまベッドの上で飛び上がった。

 手に手紙を開いたまま、胸と耳がプルンと揺れて、ベッドがすごい悲鳴を上げた。

「ヒヤ!」

 あやうく針で指をつくところだった!

 ほら、樺太に行くとき、御息所用にデラシネから手袋を借りたじゃない。こっちに帰って見ると親指の先が破れていて、それを繕っているところだった。

「もお、ビックリするじゃない、どうしたのよ(>△<)!?」

「ごめん、ちょっとショックなことが……」

「その手紙ぃ?」

「うん、お祖父ちゃんが、学校に来るって……」

「え、ネルのお祖父さん!?」

 いっしゅん自分のお祖父ちゃんの顔が浮かんで、思わず嬉しい声になってしまった。

「やくもが思ってるようなジジイじゃないから……」

 ネルは、ガックリと肩を落とした。

 エルフは耳にも気持ちが現れるんで、耳も雨に打たれたリボンのようにしおたれてしまっている。

『ちょっとぉ、目が覚めてしまったわよぉ……え、どうかした?』

 机の引き出しが半分開いて御息所が顔を出す。

「ちょっと、外に出てる……」

 耳を萎れさせたまま、ネルは部屋を出て行ってしまった。

『どうしたのネルのやつ?』

「うん、お祖父さんが学校に来るって……」

『ふうん……あ、手袋に穴空いたのぉ?』

「あ、うん、戻ってきたら穴が開いてて、借り物だからね、ちゃんと繕って返さなきゃね」

『元から破れてたんじゃないの、親指って、お土産用に開けてたし……あ、血がついてるし』

「え、あ……!」

 さっきビックリして、指を刺してしまったんだ。

 トントン トントン

 ティッシュで叩いて、なんとか血をふき取る。

『けっきょくお土産は無かったけどね……』

 そう言いながらも机の中からサビオを出してくれる。

「ありがとう、優しいところもあるんだ」

『当たり前でしょ、これでも元々は東宮妃よ、御息所の呼び名は伊達じゃないのよ。じゃあね、もうひと眠りするから』

「ええ、まだ寝るのぉ?」

『春眠暁を覚えずよ、文句ある?』

「あはは、まあ、いいけど」

 チン

 引き出しが閉まると、窓に小石がぶつかる音。

 窓を開けると、下でハイジが手をメガホンにして「メシ、いくぞお!」と叫ぶ。

 そうか、今日はハイジが楽しみにしていたクジラの大和煮のカツが出るんだ。

 サビオを巻きながら部屋を出る。

 ネルを探さなきゃね。

 トン トン トン……

 階段を一段飛ばしで降りていくと、踊り場にデラシネ。

 手のひらに何かを載せてシミジミしてる。

「どうかした、デラシネ?」

「あ、お土産落ちてたから」

「え?」

「ほら、御息所の手袋」

「え、やっぱりお土産入ってた?」

「うん、これ」

 突き出した手のひらにはフィギュアの付属品みたいな小さな槍が載っている。

「え、槍ぃ?」

「うん、やくもにあげる」

 そう言うと、二段飛ばしで階段を下りて食堂へ走って行った。

 リアルに食べられるわけじゃないけど、やっぱりみんなで食べるのが好きみたいだ。

 窓からの光にかざして見ると、槍の柄には『おもいやり』と小さな小さな字で彫ってあったよ。



☆彡主な登場人物 

やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
メグ・キャリバーン  教頭先生
カーナボン卿     校長先生
酒井 詩       コトハ 聴講生
同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

囚われの姫君の♥♥♥な舞台裏

AIに♥♥♥な質問
ファンタジー
清楚で可憐な王女、魔物を操る敵国に幽閉、肉体改造。何も起きないはずがなく…。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...