27 / 95
27『基礎練習』
しおりを挟むはるか ワケあり転校生の7カ月
27『基礎練習』
「こんなん、どないや」
シャキっとしたかと思うと、先生の身長が五センチほど伸び、印象としては二十代ぐらいに見えた。
「そんで歩くとやな……」
おお、外人さんだ!
「まっすぐ前を見て、身体は、腰から……これがコツ。腰で歩く。右、左と腰から前に出る。足は伸びたままでカカトから下ろす。手ぇはちょっと内向きに出す。これを誇張してやると……」
おお、モデルさんウオーク……足の長さを除いて。
よく見ると、足も着地するときには伸びきっていること。わずかだけど、後ろに残した足を上げるタイミングが遅い、つまり、その分歩幅が長くなっている。そして一本の線を踏むように歩いていることが分かった。
「これを逆にやると……」
腰が落ちる。
従って、膝と背中が曲がり、足が少し外向きになり……カカトじゃなくて、ペタンペタンという感じで、足の裏全体で下りてくる。そして腰を動かさず足だけが前後に動く。だから歩幅は狭い。顔はやや下を向いて、立派な(?)おじいちゃんのできあがり!
先生は、調子にのって、番長になったり、兵隊さんになったり、ダースベーダーになったり。
乙女先生はマリリンモンロー(イメージだけどね)になったりして遊び始めた。乙女先生も元は大学で演劇部だったそうだ。
「ちょっと遊びすぎたな、みんなでワカメやるぞ」
簡単なようで難しい。その日はだれもできなかった。
三日後には、タマちゃん先輩ができるようになった。わたしはまだダメ。
この日は一回通し稽古(ルリちゃんが休んだんで、先生が代役)のあと、講義になった。
「筋肉には、三種類ある。随意筋と不随意筋と、それに半随意筋や」
初めての言葉に、みんな「???」であった。
「立ち上がってみい」
みんな、立ち上がった。
「バンザイしてみい」
みんなでバンザイ。
「それが随意筋や、自分の意思で動く筋肉」
「筋肉て、みんな意思で動かせるんとちゃうんですか?」
と、タロくん先輩。
「ほんなら、心臓止めてみぃ」
「!?」
と、みんな絶句。
「な、心臓とか、内臓の筋肉は意思では動かされへん。これが不随意筋や」
「じゃ、半随意筋は?」
「耳動かしてみい」
「え、ウサギじゃないからできませんよ」
「見とけよ……」
なんと、先生の耳が動いた!
「大昔は、誰でも動かせた。敵から身を守るためにな。進化の過程で、必要なくなったんで、訓練せんと動かせんようになった。勝新太郎が座頭市やるときに、一生懸命に練習してできるようになった。まあ、やってみい」
ウーン……(~_~;)
だれもできない。
「ほんなら、目ぇつぶってみい」
これは、みんなできた。当たり前。
「ほんなら、今度は、片目だけ」
そんなもの当たり前……にはできなかった。
「アメリカ人なんかは子どもでもできる」
あ、これってウィンクだ。
「そうウィンクや。日本人は生活習慣にないから、でけへんもんが多い」
先生は、それから片方だけ眉をつり上げたり、しかめたり、なにげに肩を上げてみたり。簡単そうで、やってみるとできない。なんだか先生が欧米の役者さん(けしてスターではないけど)に見えてきた。
「次、みんなで笑てみぃ」
「アハハハ」
と、思わず笑ってしまった。
「笑てくれるのは嬉しいけど、それやない。声を出せへん笑顔や、笑顔。さあ、やってみい」
みんなその気でやってみる。
「お、はるかはできるんやなあ」
みんながわたしの顔を見る。
「ホー……」
と、みんな。そりゃあホンワカはわたしの生活信条だもん。
「ほかのもんは、虫歯が痛いのを辛抱してるみたいな顔や」
ププ( ^ิ艸^ิ゚)
互いの虫歯顔を見て、吹き出してしまった。
「まあ、こんなもんは、駆けだしのアイドルでもできよる。ここの(頬を指した)笑筋を鍛えとくこっちゃなあ」
こんなもんかよ……。
「最後に横隔膜。肺と内臓の間にある筋肉や。一応は随意筋や。試しに息止めてみい」
みんな息を止めた。
「な、できるやろ。ほんなら、横隔膜をケイレンさせてみい」
「え……」
「アハハハ……!」
先生が突然の大爆笑。気がふれちゃったか!?
「これが、横隔膜のケイレンや。ほかにもシャックリやら、泣きじゃくりもこの一種や。とりあえず、笑えること。楽器のトレモロといっしょ、稽古したらだれでもできるようになる。とりあえず〈ハ、ヒ、フ、ヘ、ホ〉で笑えるように」
それから、先生は部活の出席簿をチェック。持参のパソコンに、なにやら打ち込んだ。
タロくん先輩にやらせる以外にも、自分で記録をとっているようだ。
パソコンを閉じると、タロくんの出席簿を指さした。
「そこから、なにかを読み取って対応と、覚悟をしとけ」
「?」と、タロくん先輩。
「ありがとうございました。お疲れ様でした」
いつもの挨拶で部活を終わる。
「これで、和顔施にも磨きがかけられるで」と耳元でつぶやいた。
「それから……」と振り返り、
「目玉オヤジは、大権現や。帰ったら、広辞苑でもひいてみい」
と、憎ったらしくウィンク。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる