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64『アリバイ成立』
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はるか ワケあり転校生の7カ月
64『アリバイ成立』
大正解。
この日は、お母さん締め切りに追われて、早めに帰ってパソコンを叩いていた。
チラッと、お母さんの一瞥。
「あら、そのキャミ……?」
「え、なに?」
何食わぬ顔でバッグを部屋に。
「洗濯して取り込んだつもりだったんだけど」
「あ、お気にだから二着持ってんの」
「あのね……」
「え……」
バレたか……!?
「お気にはいいけど、タグぐらい取っときなさいよ。こんなの付けたまま、神戸の街うろついてたの?」
「え、ああ……由香のやつ、なんかニヤついてると思ったら!?」
と、由香を悪者にして、シャワーを浴びに行った。
夕食後パソコンを使ってスライドショーをやった。
アリバイづくりのため、ガイドブックとか読み込んでいたので、スラスラと解説ができた。特にお母さんが喜びそうな、人間的なエピソードには力を入れて……。
「うん、この話いいよ。うん、使えそうだ!」
ある異人館の元の住人のドイツ人の話をしたら、お母さんの創作意欲をかき立てた。
このドイツ人はお医者さんで、戦時中も神戸に踏みとどまり、神戸の空襲のときも、すすんで被災者を引き受けて治療にあたった。ドイツ降伏後は、ほとんど自宅軟禁。終戦後は、二人のお嬢さんと奥さんを連れ、なんとかドイツにもどったそうだが、詳しいことは分からない。
その分からないところが、イメージを喚起させたようだ。
「神戸を舞台にした小説って、どんなのがあったっけ?」
わたしに聞くか?
「『火垂るの墓』とか『少年H』……」
「『ノルウェイの森』も、たしか神戸が絡んでたよね」
お母さんは、動物園のある種の動物(どんな動物かは想像して下さい。はっきり書くと母子の縁を切られそうなので)のように、狭いリビングを歩き出した。
「オーシ、これでいくぞ!」
スランプのお母さんは、図書館に出撃した。
メデタシ、メデタシ……。
これでわたしの長いタクラミは、アリバイのめでたい成立に、お母さんのスランプからの脱出(本人がその気になったので)というオマケまで付いて、タキさんからの借金だけを残し『はるかの生傷だらけの成長』というタイトルを付けて終わり!
というはずだった……。
でも、これは、これから秋一杯かけての『ヘビーローテーション』の始まりでもあった。
64『アリバイ成立』
大正解。
この日は、お母さん締め切りに追われて、早めに帰ってパソコンを叩いていた。
チラッと、お母さんの一瞥。
「あら、そのキャミ……?」
「え、なに?」
何食わぬ顔でバッグを部屋に。
「洗濯して取り込んだつもりだったんだけど」
「あ、お気にだから二着持ってんの」
「あのね……」
「え……」
バレたか……!?
「お気にはいいけど、タグぐらい取っときなさいよ。こんなの付けたまま、神戸の街うろついてたの?」
「え、ああ……由香のやつ、なんかニヤついてると思ったら!?」
と、由香を悪者にして、シャワーを浴びに行った。
夕食後パソコンを使ってスライドショーをやった。
アリバイづくりのため、ガイドブックとか読み込んでいたので、スラスラと解説ができた。特にお母さんが喜びそうな、人間的なエピソードには力を入れて……。
「うん、この話いいよ。うん、使えそうだ!」
ある異人館の元の住人のドイツ人の話をしたら、お母さんの創作意欲をかき立てた。
このドイツ人はお医者さんで、戦時中も神戸に踏みとどまり、神戸の空襲のときも、すすんで被災者を引き受けて治療にあたった。ドイツ降伏後は、ほとんど自宅軟禁。終戦後は、二人のお嬢さんと奥さんを連れ、なんとかドイツにもどったそうだが、詳しいことは分からない。
その分からないところが、イメージを喚起させたようだ。
「神戸を舞台にした小説って、どんなのがあったっけ?」
わたしに聞くか?
「『火垂るの墓』とか『少年H』……」
「『ノルウェイの森』も、たしか神戸が絡んでたよね」
お母さんは、動物園のある種の動物(どんな動物かは想像して下さい。はっきり書くと母子の縁を切られそうなので)のように、狭いリビングを歩き出した。
「オーシ、これでいくぞ!」
スランプのお母さんは、図書館に出撃した。
メデタシ、メデタシ……。
これでわたしの長いタクラミは、アリバイのめでたい成立に、お母さんのスランプからの脱出(本人がその気になったので)というオマケまで付いて、タキさんからの借金だけを残し『はるかの生傷だらけの成長』というタイトルを付けて終わり!
というはずだった……。
でも、これは、これから秋一杯かけての『ヘビーローテーション』の始まりでもあった。
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