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63『やばい!』
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はるか ワケあり転校生の7カ月
63『やばい!』
「ヘッヘー、どんなもんや!」
再生し終えたスマホから、メモリーカードを取り出して、由香はユカイそうに胸を反らせた。
アリバイとしては十分過ぎるものであった。
お母さんのリストにあったものは、全て撮ってある。
タマゲタのは、いくつかのスナップ写真にわたしと由香がツーショットで収まっていることだ。
「これって合成?」
「まあね。苦労したわ、はるかはめ込むのん」
由香はミルク金時の最後のひとすくいを口に放り込んだ。
由香にアリバイ工作を頼んだ甘いもの屋さんに、新大阪から直行してきたのだ。
「由香って、こんなこともできたんだ……」
「まあね……」
中之島公園のバラ園の花言葉のときの十倍くらいタマゲタ。
そして気づいた。
「あ……これって、もう一人いないと撮れないよね?」
「え?」
「だって、由香自身は実写でしょ……ってことは、だれかがいっしょにいて撮ったってことじゃないの」
「そ、それはやね……」
「白状しちゃえ、吉川先輩と行ったんでしょ?」
由香は照れ隠しと、なんだかわかんない気持ちを隠し、スプーンをマイクのようにして言った。
「……そうです。そのとーりです。ほんでからに合成は吉川先輩が、パソコンで横浜の友だちのとこにデータ送ってやってもらいました。なんか文句ある!?」
「ないない。こっちは頼んだ側なんだから」
わたしもブル-ハワイの最後のひとすくい。
「ほんまにかめへんのん?……あたし、もう本気やで!」
「ぜんぜん、わたしと先輩は互いにワンノブゼムなんだから」
正直、吉川先輩とは、人生観ってか、根本的なところで埋めがたいものを感じはじめていた。オチャラケタ話ならともかく、人や物事に取り組む話や付き合いになると、きっとお互い、どうしようもなく相手を傷つけてしまう。
こないだ、いっしょしたJ書店でもミーハーなうちはよかった。
でも、演劇書のコーナーの片隅に大橋先生の本を見つけたときの彼の態度。
「ま、ご祝儀だ」
精算がすむと「ほれよ」と、わたしに放ってよこした。
大橋先生は、けっして売れてる劇作家なんかじゃない。でも、ぞんざいに上から目線で扱っていいことにはならない。ミーハー感覚はすっとんでしまった。
「どうしたんだよ」
「なんでも」
けっきょく、気まずく書店の前で別れた。
――やばい!――
思わず声に出るところだった。
念のため、電車の中で再生してみて気がついた。写メの中のわたしが着ているキャミは、こないだ由香とワーナーの映画を観にいったときのだ。
このキャミは、東京に行く前に洗濯して……干したままだ。
お母さんがもう取り込んでいるはず。そこにこのキャミの写メを見たら……トリックがばれてしまう!
溺れる者は藁をつかんで沈んでいく……のかもしれないが、高安の二つ手前の駅で降りて、あのキャミを買った量販店に向かう。
もう秋物が出始める時期、もうあのキャミはないだろうけど……。
「あった!」
それは、夏のクリアランスで、バーゲンのワゴンの中に一枚だけ残っていた。お父さんのポロシャツといい、このキャミといい、わたしはバーゲンにはついているのかも知れない。
「あ……」
手を出そうと思った瞬間、横からさらわれてしまった。
二十代前半くらいのオネエサン。
「それ、ゆずってください!」
由香のような生粋の大阪の女子高生なら平気で言えるんだろうけど、大阪に来てまだ五ヶ月足らず。それも今朝までは東京の女の子にもどってしまっていた。
とっさには声が出ない。
オネエサンはキャミを手にはしたが、目はまだワゴンの商品の上をさまよっていた。
わたしは、オネエサンがしばし目を停めたワンピをサッととって体に合わせてみた。
「これいいなあ……」
鏡に映しスピンしてみた。
「ううん……どうしようかな」
オネエサンの目がこちらに向いた。
五秒ほどじらして、ワンピをワゴンにもどし、別のを手に取る。
オネエサンは、そのワンピを手に取った。わたしは「あ!」という顔。するとオネエサンは、手にした他のバーゲン品をワゴンにもどし、ワンピを手に鏡に向かった。
チャンス!
さりげにキャミをゲットして、レジに向かった。
演技が初めて役に立った(後日この話をすると、乙女先生は爆笑。大橋先生は、「舞台で、そこまでリアリティーのある芝居をやってみろ」と、意見された)
お店の化粧室で着替えて、やっと帰宅。
63『やばい!』
「ヘッヘー、どんなもんや!」
再生し終えたスマホから、メモリーカードを取り出して、由香はユカイそうに胸を反らせた。
アリバイとしては十分過ぎるものであった。
お母さんのリストにあったものは、全て撮ってある。
タマゲタのは、いくつかのスナップ写真にわたしと由香がツーショットで収まっていることだ。
「これって合成?」
「まあね。苦労したわ、はるかはめ込むのん」
由香はミルク金時の最後のひとすくいを口に放り込んだ。
由香にアリバイ工作を頼んだ甘いもの屋さんに、新大阪から直行してきたのだ。
「由香って、こんなこともできたんだ……」
「まあね……」
中之島公園のバラ園の花言葉のときの十倍くらいタマゲタ。
そして気づいた。
「あ……これって、もう一人いないと撮れないよね?」
「え?」
「だって、由香自身は実写でしょ……ってことは、だれかがいっしょにいて撮ったってことじゃないの」
「そ、それはやね……」
「白状しちゃえ、吉川先輩と行ったんでしょ?」
由香は照れ隠しと、なんだかわかんない気持ちを隠し、スプーンをマイクのようにして言った。
「……そうです。そのとーりです。ほんでからに合成は吉川先輩が、パソコンで横浜の友だちのとこにデータ送ってやってもらいました。なんか文句ある!?」
「ないない。こっちは頼んだ側なんだから」
わたしもブル-ハワイの最後のひとすくい。
「ほんまにかめへんのん?……あたし、もう本気やで!」
「ぜんぜん、わたしと先輩は互いにワンノブゼムなんだから」
正直、吉川先輩とは、人生観ってか、根本的なところで埋めがたいものを感じはじめていた。オチャラケタ話ならともかく、人や物事に取り組む話や付き合いになると、きっとお互い、どうしようもなく相手を傷つけてしまう。
こないだ、いっしょしたJ書店でもミーハーなうちはよかった。
でも、演劇書のコーナーの片隅に大橋先生の本を見つけたときの彼の態度。
「ま、ご祝儀だ」
精算がすむと「ほれよ」と、わたしに放ってよこした。
大橋先生は、けっして売れてる劇作家なんかじゃない。でも、ぞんざいに上から目線で扱っていいことにはならない。ミーハー感覚はすっとんでしまった。
「どうしたんだよ」
「なんでも」
けっきょく、気まずく書店の前で別れた。
――やばい!――
思わず声に出るところだった。
念のため、電車の中で再生してみて気がついた。写メの中のわたしが着ているキャミは、こないだ由香とワーナーの映画を観にいったときのだ。
このキャミは、東京に行く前に洗濯して……干したままだ。
お母さんがもう取り込んでいるはず。そこにこのキャミの写メを見たら……トリックがばれてしまう!
溺れる者は藁をつかんで沈んでいく……のかもしれないが、高安の二つ手前の駅で降りて、あのキャミを買った量販店に向かう。
もう秋物が出始める時期、もうあのキャミはないだろうけど……。
「あった!」
それは、夏のクリアランスで、バーゲンのワゴンの中に一枚だけ残っていた。お父さんのポロシャツといい、このキャミといい、わたしはバーゲンにはついているのかも知れない。
「あ……」
手を出そうと思った瞬間、横からさらわれてしまった。
二十代前半くらいのオネエサン。
「それ、ゆずってください!」
由香のような生粋の大阪の女子高生なら平気で言えるんだろうけど、大阪に来てまだ五ヶ月足らず。それも今朝までは東京の女の子にもどってしまっていた。
とっさには声が出ない。
オネエサンはキャミを手にはしたが、目はまだワゴンの商品の上をさまよっていた。
わたしは、オネエサンがしばし目を停めたワンピをサッととって体に合わせてみた。
「これいいなあ……」
鏡に映しスピンしてみた。
「ううん……どうしようかな」
オネエサンの目がこちらに向いた。
五秒ほどじらして、ワンピをワゴンにもどし、別のを手に取る。
オネエサンは、そのワンピを手に取った。わたしは「あ!」という顔。するとオネエサンは、手にした他のバーゲン品をワゴンにもどし、ワンピを手に鏡に向かった。
チャンス!
さりげにキャミをゲットして、レジに向かった。
演技が初めて役に立った(後日この話をすると、乙女先生は爆笑。大橋先生は、「舞台で、そこまでリアリティーのある芝居をやってみろ」と、意見された)
お店の化粧室で着替えて、やっと帰宅。
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