90 / 95
90『NOZOMIプロの白羽さん』
しおりを挟む
はるか ワケあり転校生の7カ月
90『NOZOMIプロの白羽さん』
合評会が終わったあと、わたしはベンチに座りグー像を見つめていた。
山中先輩が横に座ってこう言った。
「ジャンルはちがうけど、少林寺は誤審でもクレームは言わへんもんやねん」
「演劇は違うと思います。審査基準からずれていたら、抗議……せめて質問ぐらいはしていいと思います」
「そやろね……ごめん。つい少林寺の感覚でダンマリになってしもた」
「そんな、先輩があやまるようなことじゃないですよ……」
そこに、由香と吉川先輩から連名のメール。
「あの二人もなにか言ってきたの、このことについて?」
「いいえ、もっと厄介なことです」
「え?」
というわけで、わたしはその日の夕方、地下鉄南森町の一番出口の前に佇んでいる。
NOZOMIプロの白羽さんが、イベントの準備のため大阪に来ているので「今日、お会いしなさい!」という、あのカップルからのメール。
せめて、大人の人に立ち会ってもらいたかったので、自然なカタチがいいだろうと志忠屋と決まった。
で、わたしが地下鉄の出口で白羽さんをお迎え申し上げているわけ。
分かりやすいように、例の紙ヒコ-キのシュシュでポニーテールにしてある。
「やあ、はるかさん」思いがけず、後ろから声をかけられた。
「いやあ、このあたりはわたしの青春の思い出の場所でしてね。ちょっと散歩してました」
志忠屋の窓辺の席で、おしぼりで顔を拭きながら白羽さんが微笑む。
大手プロダクションの、やり手プロディユーサーとは思えない気さくさだ。
「若いころ、修行のために大阪の支社にまわされましてね、初めて営業にまわされたのが天六の商店街のレコ-ド屋さん五軒でした。今はもう二軒に減っていましたね……いやあ、つまらん思い出話をするところだった。はるかさんはそのシュシュとポニーテールですぐに分かりました。目印にしてくれたんですね」
「はい、こうでもしないとごく普通の高校生で見分けがつかないだろうと思いまして」
「あなたのことはDVDで二度見せていただきました。ついこないだの本選の分も。いちだんと成長しましたね」
「いえ、とんでもない。ただ感じたまま演っただけです」
「それでいいんです『おわかれだけど、さよならじゃない』とか、飛行機に対する怯えが本物になっていましたよ。作品も好きですね。戦争や、生き甲斐、夢というものが生な押しつけじゃなく、二人の少女の友情の発展の中で、自然にふれられているのが大変けっこうでした」
「わたしもそう思います。カオルとは五ヶ月のつき合いですけど、もうほとんどわたし自身の人生みたいになりました」
「はるかさん自身の体験と重なってるんじゃないですか? 新大阪の写真、そう感じました」
「え、ええ……まあ」指摘は、やっぱり鋭い。
「これは失礼、あまり個人的な事情に立ち入っちゃいけない。あ、オーダーがまだだ。マスター、グラスワイン白で、あと適当にみつくろってください。はるかさんもなにか」
「あ、すみません。じゃ、タキさんいつもの」
「まいど」
「ほう、はるかさん常連なんだ」
レジで、おすまししているのが母だとは言えなかった。
90『NOZOMIプロの白羽さん』
合評会が終わったあと、わたしはベンチに座りグー像を見つめていた。
山中先輩が横に座ってこう言った。
「ジャンルはちがうけど、少林寺は誤審でもクレームは言わへんもんやねん」
「演劇は違うと思います。審査基準からずれていたら、抗議……せめて質問ぐらいはしていいと思います」
「そやろね……ごめん。つい少林寺の感覚でダンマリになってしもた」
「そんな、先輩があやまるようなことじゃないですよ……」
そこに、由香と吉川先輩から連名のメール。
「あの二人もなにか言ってきたの、このことについて?」
「いいえ、もっと厄介なことです」
「え?」
というわけで、わたしはその日の夕方、地下鉄南森町の一番出口の前に佇んでいる。
NOZOMIプロの白羽さんが、イベントの準備のため大阪に来ているので「今日、お会いしなさい!」という、あのカップルからのメール。
せめて、大人の人に立ち会ってもらいたかったので、自然なカタチがいいだろうと志忠屋と決まった。
で、わたしが地下鉄の出口で白羽さんをお迎え申し上げているわけ。
分かりやすいように、例の紙ヒコ-キのシュシュでポニーテールにしてある。
「やあ、はるかさん」思いがけず、後ろから声をかけられた。
「いやあ、このあたりはわたしの青春の思い出の場所でしてね。ちょっと散歩してました」
志忠屋の窓辺の席で、おしぼりで顔を拭きながら白羽さんが微笑む。
大手プロダクションの、やり手プロディユーサーとは思えない気さくさだ。
「若いころ、修行のために大阪の支社にまわされましてね、初めて営業にまわされたのが天六の商店街のレコ-ド屋さん五軒でした。今はもう二軒に減っていましたね……いやあ、つまらん思い出話をするところだった。はるかさんはそのシュシュとポニーテールですぐに分かりました。目印にしてくれたんですね」
「はい、こうでもしないとごく普通の高校生で見分けがつかないだろうと思いまして」
「あなたのことはDVDで二度見せていただきました。ついこないだの本選の分も。いちだんと成長しましたね」
「いえ、とんでもない。ただ感じたまま演っただけです」
「それでいいんです『おわかれだけど、さよならじゃない』とか、飛行機に対する怯えが本物になっていましたよ。作品も好きですね。戦争や、生き甲斐、夢というものが生な押しつけじゃなく、二人の少女の友情の発展の中で、自然にふれられているのが大変けっこうでした」
「わたしもそう思います。カオルとは五ヶ月のつき合いですけど、もうほとんどわたし自身の人生みたいになりました」
「はるかさん自身の体験と重なってるんじゃないですか? 新大阪の写真、そう感じました」
「え、ええ……まあ」指摘は、やっぱり鋭い。
「これは失礼、あまり個人的な事情に立ち入っちゃいけない。あ、オーダーがまだだ。マスター、グラスワイン白で、あと適当にみつくろってください。はるかさんもなにか」
「あ、すみません。じゃ、タキさんいつもの」
「まいど」
「ほう、はるかさん常連なんだ」
レジで、おすまししているのが母だとは言えなかった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる