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人はどんなときに恋をするのだろう。
どんなときに生きる意味を見出すのだろう。
どんな瞬間にもっと生きたいと願うのだろう。
井ノ上悠人が始めて『生きたい』と思ったのは、この瞬間だ。
薄暗い空間にある球体の水槽が、LEDライトを浴びて幻想的に光りながら、漂うクラゲを映し出すひっそりとした静寂に空間。握られた手、合わさった頬、そこから流れる熱が、傷ついて疲れ果てた悠人の心をどこまでも癒そうとしていた。
「好きなんだ……だから俺と一緒に生きて」
熱い吐息とともに耳元に囁かれた言葉。
「ずっと井ノ上の傍にいるのが俺じゃ、ダメ?」
縋るような言葉。
あの時自分は何と答えただろうか。
いつも掌からポロポロと零れ落ちていった大切なものがまた、新たに継ぎ足されたように感じる。
握る手にギュッと力が籠められた。効きすぎるぐらいの冷房から守ってくれるように肌を押し付けてくる。同じ男なのに嫌悪感は湧かない。むしろ心地よくてずっとこのままいて欲しいと願ってしまう。
初めて知った、家族ではない温もり。
精一杯に動いている心臓が切なさに締め付けられた。
その間もクラゲは心地よさそうに水槽の中を漂っている。身体を窄めては上がり、揺蕩いながら沈んでいくのを繰り返している。透明に近い身体が光りを透過させ不思議な動きで水槽の中を移動していく。精一杯に、懸命に。生きる意味なんて考えたこともないはずなのに、がむしゃらに生きていこうとしている。握りつぶせば消える儚い存在なのに。
なら自分はと思いながら、水槽に映る自分と彼を見た。
太陽にも似た熱を吐き出す彼はとても幸せそうに優しそうに微笑んでこちらを見つめ、そっと瞼を伏せると、悠人の体温を感じたいように頬の合わさる面積を広くする。悠人が生きていると確かめるように首筋に当てた手で脈を感じ取ろうとする。
自然と口元が綻びた。
こんな自分でも、『好き』なのだろうか。生まれてこなければ良かったと言われた、こんな自分でも。
身体に醜い手術痕を残す、自分でも。
トクンと胸が大量の血液を吐き出す。
彼の熱が感じられる今を、『生きて』いる。
「なか……にし」
その名を呼べばまたトクンと、さっきよりも大きく胸が動く。冷え切った指先に血潮が巡り熱が生み出された。同時にそれよりももっと熱い身体から、自分とは違う男らしいのに甘い体臭が鼻腔を擽る。
包み込まれている安心感がまた、胸を締め付けてきた。
鼓膜に、自分よりも強く速い彼の心音が響いてくる。
その音を聞いて無性にこう思った。
『生きたい』
生きてずっとこの太陽を彷彿とさせる男の隣にいたい。
初めて欲を覚えた。
生物なら当たり前のように持つはずの、欲を。
どんなときに生きる意味を見出すのだろう。
どんな瞬間にもっと生きたいと願うのだろう。
井ノ上悠人が始めて『生きたい』と思ったのは、この瞬間だ。
薄暗い空間にある球体の水槽が、LEDライトを浴びて幻想的に光りながら、漂うクラゲを映し出すひっそりとした静寂に空間。握られた手、合わさった頬、そこから流れる熱が、傷ついて疲れ果てた悠人の心をどこまでも癒そうとしていた。
「好きなんだ……だから俺と一緒に生きて」
熱い吐息とともに耳元に囁かれた言葉。
「ずっと井ノ上の傍にいるのが俺じゃ、ダメ?」
縋るような言葉。
あの時自分は何と答えただろうか。
いつも掌からポロポロと零れ落ちていった大切なものがまた、新たに継ぎ足されたように感じる。
握る手にギュッと力が籠められた。効きすぎるぐらいの冷房から守ってくれるように肌を押し付けてくる。同じ男なのに嫌悪感は湧かない。むしろ心地よくてずっとこのままいて欲しいと願ってしまう。
初めて知った、家族ではない温もり。
精一杯に動いている心臓が切なさに締め付けられた。
その間もクラゲは心地よさそうに水槽の中を漂っている。身体を窄めては上がり、揺蕩いながら沈んでいくのを繰り返している。透明に近い身体が光りを透過させ不思議な動きで水槽の中を移動していく。精一杯に、懸命に。生きる意味なんて考えたこともないはずなのに、がむしゃらに生きていこうとしている。握りつぶせば消える儚い存在なのに。
なら自分はと思いながら、水槽に映る自分と彼を見た。
太陽にも似た熱を吐き出す彼はとても幸せそうに優しそうに微笑んでこちらを見つめ、そっと瞼を伏せると、悠人の体温を感じたいように頬の合わさる面積を広くする。悠人が生きていると確かめるように首筋に当てた手で脈を感じ取ろうとする。
自然と口元が綻びた。
こんな自分でも、『好き』なのだろうか。生まれてこなければ良かったと言われた、こんな自分でも。
身体に醜い手術痕を残す、自分でも。
トクンと胸が大量の血液を吐き出す。
彼の熱が感じられる今を、『生きて』いる。
「なか……にし」
その名を呼べばまたトクンと、さっきよりも大きく胸が動く。冷え切った指先に血潮が巡り熱が生み出された。同時にそれよりももっと熱い身体から、自分とは違う男らしいのに甘い体臭が鼻腔を擽る。
包み込まれている安心感がまた、胸を締め付けてきた。
鼓膜に、自分よりも強く速い彼の心音が響いてくる。
その音を聞いて無性にこう思った。
『生きたい』
生きてずっとこの太陽を彷彿とさせる男の隣にいたい。
初めて欲を覚えた。
生物なら当たり前のように持つはずの、欲を。
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