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第八章 神々の争い
03.聖者の元へ3
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そして王都の貧民街にあった家の場所も教えず、神殿にも一度として近づいていない。ではドゴはどこでここに真柴がいると知ったのだろうか。
それだけじゃない。アーフェンは次々に浮かんできた疑問をそのままぶつけた。
「アルヘンティーノの村に生まれたと言ったな。だが真柴が召喚されてすぐの討伐で俺はアルヘンティーノに行った。どの村も変わらずあった……お前がいたのはどこなんだ?」
そう。初めて真柴が随行した時、北部の村を回ったのに、魔獣の襲撃でなくなった村などひとつもなかった。この数年、魔獣が村を襲ったという話も耳にしていない。どの村も変わることなくそこにあった。
「それだけじゃない。真柴が城郭に上がって倒れたとき、妙に到着が早かったな。しかも馬車を引き連れてやってきた……どういうことなんだ?」
兵に神殿へ連絡するよう指示を出したのはアーフェンだが、それから馬車を準備してやってきたにしては早すぎる。
「何よりも……十二の子供が二年も会わない間、姿が全く変わっていないのはなぜだ」
一番の疑問はそれだ。最後に別れた日のまま、ドゴが目の前に座っている。成長期だというのに、背も伸びず顔も変わらず、なによりも声も子供特有の高さのままだ。
次第に厳しい眼差しになるアーフェンに、怯えた仕草を見せていたドゴがにやりと嗤った。行儀悪く椅子の座面に足を乗せ、テーブルに肘を突いた。
「あー、やっと気付いてくれたんだ。鈍すぎるよ、元副団長さん。いつ怒鳴り込んでくるかって今か今かと待ってたのに。鈍いにもほどがあるんじゃないか。あんた、騎士団やめて正解だよ。このままじゃ団員が可哀想だ」
「……お前は、誰なんだ」
ドゴは「フンッ」と鼻を鳴らし顎を反らした。こちらを小馬鹿にしているのに、アーフェンはゴクリと唾を飲み込む。
ゆらゆらとドゴの周りから陽炎があがり、ゆっくりと彼の姿を変えていく。
今、目の前で何が起きているのか、アーフェンはにわかに信じられなかった。子供の姿が次第にぼやけ、ゆるりゆるりと大人の体躯になっていく。もうそばかすを浮かべたドゴはそこにはなく、一度として目にしたことのない人物がドゴがしていたのと同じ行儀の悪さで座っている。
「俺が祝福を与えた子に随分と酷いことをしてくれたからな、お前は。殺してやろうかと思ったんだが、やめて正解だったよ。今じゃあの子の心の支えになっている」
「だ、れ……な……だ」
変だ、息が苦しい。言葉が出ず呼吸がしづらい。絞り出した声にドゴは驚いた顔をして、そしてまた笑った。
「そうだそうだ。人間はこの空間の中で生きていけなかったな。すぐに元の空間に戻してやるからちょっと待ってろ」
空間?
こいつは何を言っているんだ。
ドゴは人差し指を立ててくるりと円を描いた次の瞬間、ドンッと重い空気が身体に乗り、ぐはっと肺の中にあった空気を吐き出した。まるで背中に攻撃を受けたときのような衝動に、アーフェンはしばらく浅い呼吸を繰り返す。
「無重力空間から戻ると身体が重くなるからね、無理はするなよー」
ドゴの言葉の意味が分からないまま、けれど見つめ続けた。
「へえ、こんな状態でもまだ俺のことを睨み付けてくるか。その根性は気に入ったぞ。今日俺がここに来たのは、お前に選ばせてやろうと思ったからだ」
足を床に下ろし、今度は悠然と組む。それだけで王者のような貫禄があった。もし、肘掛けのある椅子だったなら、そこに腕を乗せていただろう。
「あの子が死にそうになっている。今は眠りに就いているが、今回は眠るだけではもう命を繋げることができない」
「な……」
「あの子が長い時間眠るのは、俺が身体と魂を繋げるために施した術のせいだ。眠れば少しだけ繋げてた糸が強くなる。お前、どうする?」
「……どうにか、できるのか?」
絞り出した声に、ドゴは面白そうに笑った。足を組み替え、膝に肘を乗せ頬杖を突く。値踏みするようなその目が不快だ。
「いいね、その目。あの頃の蔑んだところがなくなって安心した。俺があの子に贈った祝福は間もなく使い切る。その前に命が尽きないことを願うしかないが、人の寿命を弄るのは世界の摂理に反するからできない。だから、元来あった命を勝手に増やせない。あの子が生きながらえる方法は一つ、誰かの命と入れ替えることだ……意味、わかるよな。お前にその覚悟はあるか?」
試されていると分かっていて、アーフェンは強く頷いた。
いくら鈍感なアーフェンでもここまで言われれば相手の意図が理解できる。要はこの命を差し出せというのだろう。
――いくらでもくれてやる。
真柴が傷つくことなく生きていくことができるのなら、なんだって差し出してやる。
「好きなだけ、もっていけ」
「潔いな。騎士団にいた頃よりも良い男になったじゃないか。じゃあ行こうか、あの子のところへ」
それだけじゃない。アーフェンは次々に浮かんできた疑問をそのままぶつけた。
「アルヘンティーノの村に生まれたと言ったな。だが真柴が召喚されてすぐの討伐で俺はアルヘンティーノに行った。どの村も変わらずあった……お前がいたのはどこなんだ?」
そう。初めて真柴が随行した時、北部の村を回ったのに、魔獣の襲撃でなくなった村などひとつもなかった。この数年、魔獣が村を襲ったという話も耳にしていない。どの村も変わることなくそこにあった。
「それだけじゃない。真柴が城郭に上がって倒れたとき、妙に到着が早かったな。しかも馬車を引き連れてやってきた……どういうことなんだ?」
兵に神殿へ連絡するよう指示を出したのはアーフェンだが、それから馬車を準備してやってきたにしては早すぎる。
「何よりも……十二の子供が二年も会わない間、姿が全く変わっていないのはなぜだ」
一番の疑問はそれだ。最後に別れた日のまま、ドゴが目の前に座っている。成長期だというのに、背も伸びず顔も変わらず、なによりも声も子供特有の高さのままだ。
次第に厳しい眼差しになるアーフェンに、怯えた仕草を見せていたドゴがにやりと嗤った。行儀悪く椅子の座面に足を乗せ、テーブルに肘を突いた。
「あー、やっと気付いてくれたんだ。鈍すぎるよ、元副団長さん。いつ怒鳴り込んでくるかって今か今かと待ってたのに。鈍いにもほどがあるんじゃないか。あんた、騎士団やめて正解だよ。このままじゃ団員が可哀想だ」
「……お前は、誰なんだ」
ドゴは「フンッ」と鼻を鳴らし顎を反らした。こちらを小馬鹿にしているのに、アーフェンはゴクリと唾を飲み込む。
ゆらゆらとドゴの周りから陽炎があがり、ゆっくりと彼の姿を変えていく。
今、目の前で何が起きているのか、アーフェンはにわかに信じられなかった。子供の姿が次第にぼやけ、ゆるりゆるりと大人の体躯になっていく。もうそばかすを浮かべたドゴはそこにはなく、一度として目にしたことのない人物がドゴがしていたのと同じ行儀の悪さで座っている。
「俺が祝福を与えた子に随分と酷いことをしてくれたからな、お前は。殺してやろうかと思ったんだが、やめて正解だったよ。今じゃあの子の心の支えになっている」
「だ、れ……な……だ」
変だ、息が苦しい。言葉が出ず呼吸がしづらい。絞り出した声にドゴは驚いた顔をして、そしてまた笑った。
「そうだそうだ。人間はこの空間の中で生きていけなかったな。すぐに元の空間に戻してやるからちょっと待ってろ」
空間?
こいつは何を言っているんだ。
ドゴは人差し指を立ててくるりと円を描いた次の瞬間、ドンッと重い空気が身体に乗り、ぐはっと肺の中にあった空気を吐き出した。まるで背中に攻撃を受けたときのような衝動に、アーフェンはしばらく浅い呼吸を繰り返す。
「無重力空間から戻ると身体が重くなるからね、無理はするなよー」
ドゴの言葉の意味が分からないまま、けれど見つめ続けた。
「へえ、こんな状態でもまだ俺のことを睨み付けてくるか。その根性は気に入ったぞ。今日俺がここに来たのは、お前に選ばせてやろうと思ったからだ」
足を床に下ろし、今度は悠然と組む。それだけで王者のような貫禄があった。もし、肘掛けのある椅子だったなら、そこに腕を乗せていただろう。
「あの子が死にそうになっている。今は眠りに就いているが、今回は眠るだけではもう命を繋げることができない」
「な……」
「あの子が長い時間眠るのは、俺が身体と魂を繋げるために施した術のせいだ。眠れば少しだけ繋げてた糸が強くなる。お前、どうする?」
「……どうにか、できるのか?」
絞り出した声に、ドゴは面白そうに笑った。足を組み替え、膝に肘を乗せ頬杖を突く。値踏みするようなその目が不快だ。
「いいね、その目。あの頃の蔑んだところがなくなって安心した。俺があの子に贈った祝福は間もなく使い切る。その前に命が尽きないことを願うしかないが、人の寿命を弄るのは世界の摂理に反するからできない。だから、元来あった命を勝手に増やせない。あの子が生きながらえる方法は一つ、誰かの命と入れ替えることだ……意味、わかるよな。お前にその覚悟はあるか?」
試されていると分かっていて、アーフェンは強く頷いた。
いくら鈍感なアーフェンでもここまで言われれば相手の意図が理解できる。要はこの命を差し出せというのだろう。
――いくらでもくれてやる。
真柴が傷つくことなく生きていくことができるのなら、なんだって差し出してやる。
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