おじさんの恋

椎名サクラ

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本編1

13-2

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 君が女の子といたのを見た、とても親密そうだったなんて言えるはずがない。臆病な心がその言葉を押しつぶしなかったことにしようとする。言わなければこの関係は壊れない。知らないふりを続ければもうしばらくは遥人と一緒にいられる。

 だから隆則は目を閉じ首を振った。

「本当になんでもない……久しぶりに外に出て目が痛くなっただけ」

 下手くそな嘘をついて誤魔化す。

「本当にそれだけですか?」

「うん……心配させてごめん」

「ならいいですけど……明日目薬を買ってきますね」

「ありがとう……」

「しばらくモニター見ないほうがいいかもしれませんが、それじゃ仕事にならないですよね。気分転換にご飯、食べましょ」

「うん……」

 頬から離れた大きな手が力ない指に絡まる。誘われダイニングテーブルに着くと、夜になっても熱さが残る気候に合わせたさっぱりとした料理がそこに並んでいる。冷しゃぶの付けダレまで手作りされた料理はどれも美味しいはずなのに、今まではそれが遥人からの愛情だと感じていたはずなのに、今日はどれも味がしなくてまるでゴムを噛んでいるようだった。

「今日の打ち合わせ、どうだったんですか?」

「うん……相手も初めての分野だからアドバイスがメインだった」

 詳細は語らない。守秘義務があることは遥人も分かっているだろう、それ以上は聞いては来なかったがなにかを怪しんでいるような雰囲気だけは伝わってくる。

「本当に仕事は順調だから……久しぶりに外に出たから疲れた」

「そう、ですね。九月も終わりなのに今日は暑かったですよね。隆則さんもっと体力付けたほうがいいかも。これからは時間があるとき散歩に出ましょう」

「うん……そうだね」

 内容を理解できないまま返事をして、味のしない食事を無理やりに飲み込んでいく。いつもの半分も食べ終わらないうちに食欲はなくなり、手が止まった。

「ごめん、今日はあまり食べられない」

「夏バテなのかもしれませんね。無理に食べなくていいですよ、散歩ももう少し涼しくなってからにしましょう」

「うんありがとう」

 自分よりもずっと食欲旺盛な遥人は残った分をすべて平らげ、皿を下げていく。それを部屋に戻らずにずっと眺めていた。器用に皿を洗い、隆則が一度も使ってこなかった乾燥機にそれらを収めていく。テーブルを拭いて戻ってきた遥人の二の腕を掴んだ。今まで隆則から積極的に触れ合ったことがないせいか驚いた顔でこちらを見てくる。

「風呂……入ろう」

 何を意味しているのか瞬時に悟った遥人は、とても嬉しそうな表情になる。

(無理してそんな顔しなくていいのに……)

 脱衣場で服を全部脱がされそのままの流れで全身を、彼を受け入れる場所まで丁寧に洗われながら、これもあと何回できるだろうかと声を殺しながら悲しい気持ちになっていく。

 残り少ないなら、少しでも彼と過ごせる時間が幸せな方がいい。

 いつものように身体を拭われ遥人のベッドに寝かされようとするのを拒んだ。

「今日は俺がするから……」

「え、隆則さんが?」

「だめ、かな?」

「そんなことありませんっ!」

 ベッドに腰かけた遥人の足の間に座ると、すでに角度を変えている欲望に舌を伸ばした。いつも自分を悦ばすこれを口にするのは初めてだ。フェラの経験がなくて彼に失望されたらと思って怖くてできなかったのに、逃げられたくない一心で舐めとっていく。いつも遥人がするようにたっぷりと全体を舐めてから口内に迎え入れる。感じやすいくびれに舌を絡めながら吸うのは難しくて何度も失敗しながらも、少しずつ深く飲み込んでいく。

「んっ」

「無理しないで、苦しかったら止めていいですから」

 嫌だ、止めてしまったら君はあの子の方がいいと思うんだろう?

 辛くても隆則は下手くそなりに懸命に欲望をしゃぶり続けた。いつも気持ちよくなるくびれを中心に舐めては歯が当たらないように気を付けながら頭を上下に動かす。手を置いた太ももが時折力が入るのを感じて嬉しくなった。こんな稚拙な口技でも感じてくれている。必死になって頭を動かし続けたが、次第に欲望が太くなり口いっぱいに広げても奥まで咥えるのが難しくなった。

「隆則さん放して……これ以上されたら出る」

 出していい。自分の行為で気持ちよくなった証を飲み込みたい、首を振って咥えたままでいると両脇に手が差し込まれひょいと持ち上げられた。

「ぁ……」

 名残惜しそうに離れていくものを見つめる隆則を膝に乗せると遥人は乱暴に唇を奪ってきた。

「んんっ」

 今まで欲望に絡まっていた舌を嬲り刺激してくる。

「んっんっ」

 こんな荒々しい口づけは久しぶりだ。吐息までも吸われるような荒々しさに助けを求めるように舌を伸ばせばすぐに口内に引きずり込み舌と歯で苛まれる。

「隆則さんあれヤバい、刺激強すぎです……めちゃくちゃ興奮する」

 全部を吸い取るほどの濃厚な口づけを、下唇を甘く噛んでから開放した遥人は嬉しそうだ。もっと喜んで欲しくて、遥人の上体を押し倒した。膝立ちになり、硬い欲望を後ろ手に支えながら、ゆっくりと腰を落としていく。

「ぁっ……」

 体内に残った水と唾液で、ゆっくりだがスムーズに挿っていく。根元まで受け入れて大きく息を吐き出すと、グッと奥歯を噛み締めた。

(ダメだ、泣いちゃだめだ)

 泣きそうになるのを必死で抑えながら、代わりにゆっくりと腰を動かした。腹筋に手をついて下を向きながら腰を上下する。長くなった前髪が顔を隠してくれていることを願いながら、ただただ遥人の快楽を優先した。腰を上げる時に力を込めてそこを窄め、受け入れる時に力を抜く搾り取るような動きを続ければ、隆則の動きを邪魔しなかった遥人が急に腰を掴んで引き下ろし下から突き上げてきた。

「ぁっ……だめきょうは……ぁぁぁぁっ」

 自分が気持ちよくさせるんだと訴えても止めてくれず、しかも互いの双球がぶつかり合うほど激しく深くわざと避けていた感じる場所をどんどんと容赦なく突いてくる。自分の快楽なんてどうだっていい、遥人を気持ちよくさせたいのに強引な動きに翻弄されては分身が透明な蜜を垂らしては振動と共に遥人の身体へと撒き散らしていく。

「ゃだぁっ、ぃく! いく!」

「一緒にっ達きましょ!」

「だ、めぇぇぇっ」

 遥人だけを悦ばせたいのに隆則の身体を知り尽くした動きに耐えられず、白濁の蜜を飛ばした。同時に最奥で熱いものが迸るのを感じて、ヒクンヒクンと身体を震わせた。短時間で激しく煽られた隆則の身体は全ての蜜を吐き出すと上体を支えられなくなり、遥人の上に倒れ込んだ。引き締まった胸筋がもろともせずしっかりと受け止める。

(あ……遥人のが流れてる)

 最奥へと放たれた蜜がゆっくりと重力に従って流れる感触にゾクリとしながら、荒い息を整えるために肩を上下させながら自分を落ち着かせる。

「すっげー興奮した……今日体調悪そうだから一回で止めようと思ったのに煽り過ぎですよ」

 すでに賢者タイムを終えた遥人は未だに冷めきっていない遥人の頭頂部にキスをしながら大きく熱い掌がゆっくりと汗ばんだ背中を撫でる。

 あんな下手くそな動きで煽られたというのは、今日はあの子としていなかったのだろうか。それとも大事過ぎて手を出しあぐねているのだろうか。気になっても訊けない。なにを言っていいかわからないからひたすら口を噤んだ。少し汗ばんだ肌から伝わってくる熱が心地よくていつまでもこうしていたい。

(でもあと少しだ……きっと彼はここから出ていく)

 試験に受かったらもう隆則に用はないとどこかへ行ってしまうだろう。もしかしたらそれが就職してからかもしれない。そう遠くない未来を予想してしがみついた。

 今だけだとしてもこうしていられる幸福を味わっていたい。離れた後も忘れないように。心地よい胸板に頬を付けて心音を感じ取る。

(このまま時間が止まればいいのに……)

 そしたらずっと遥人と一緒にいられる。騙されててもいい、偽られてもいい、何もしないふりしてこのまま一緒に居続けたい。捨てられてしまったらきっともう復活などできない。きっと仕事のピークを迎えていたあの時よりもずっと死を夢想することだろう。今だってこんなに心が苦しいのに、本当に捨てられてしまったら生きているのが辛くなる。この温もりをなくしてしまったら、もう頑張る意味なんて何もない。

 一人でだれにも迷惑をかけずに生きていくためにしていた仕事が、今では遥人が無事に大学を卒業し希望の職に就けるためだけに稼いでいるに近い。彼に不自由をさせるくらいなら、徹夜だってデスマーチだって気にしない。彼が何不自由なく生きていくためならなんだってする。

 隆則にできるのはプログラミングくらいで、今は途切れることなく依頼を貰えてはいるが、それがいつまで続くかはわからない。だから今のうちにたくさんお金を貯めて、遥人が離れるその日まで何不自由なく過ごしてもらいたい。

 隆則は零れそうになる涙を逞しい胸筋に擦り付けて誤魔化す。

「ちょっ……煽らないでくださいって。そうでなくても今日の隆則さん可愛すぎて俺我慢するのやっとなんですから」

 そんなリップサービスはいらない。したいならいくらでもすればいい。この身体はもう彼の性処理の道具にすればいい。

 また腰の上で踊るために起き上がろうとして阻まれた。

「だぁめ。隆則さんにしてもらうのも興奮するけど、やっぱりこっちがいい」

 当然のようにベッドに組み敷かれ足を高く持ち上げられる。

「やっ、俺がするから……」

「ダメです。俺が遥人さんを気持ちよくさせたいんです」

 覚悟してください。その一言を残してまだ固い遥人の欲望がいい場所ばかりを狙って動き始める。

「ゃぁぁぁっ……それだめ、だめぇぇっぃぃ!」

「もうめちゃくちゃ悦がり狂ってくださいね」

「酷くしないでっ……はると、はるとぉ」

「乳首で感じるようになったから、今晩もいっぱい弄りますね」

 そのまま宣言通り狂ってなにがなんだかわからなくなるまでひたすら啼かされ続けた。
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